第23話・我が子に気をかけないなんて



「それでも公爵が諫言して下さらなかったら、わたしは表面でしか物事を判断出来ずに終わっておりました。感謝しております」

「あなたさまがすぐに動いて下さった影響も大きいと思いますよ。王妃殿下には最初に申し上げたのですが、信頼する女官に預けてあるのだから、間違いがあるはずはない。愚弄するのか? と、逆に機嫌を損ねられたようで……」


「それは失礼なことを致しました。公爵」


「でも妃殿下に申し上げた結果、エリオ殿下は元気を取り戻されて良かった。殿下からも話は聞いております。お忙しい中、妃殿下が自分のもとへ何度も足を運んで下さっていたと。今では逆にエリオ殿下の方から妃殿下のもとへ伺っているとか? ご迷惑をおかけしていませんか?」

「迷惑だなんてとんでもない。エリオ殿下はわたしにとって可愛い義弟ですもの。それに妃殿下であるわたしが普段どのような仕事をしているのか、今から見てもらうのも殿下にとって良い傾向になればと思います」


 本当なら執務中、関係のない者を部屋に入れるのは、重要な案件も取り扱っている場合もあるので、陛下のように厳禁にした方が良いのかも知れない。

 それでも妃殿下という者が普段、どのような仕事をしているのか、エリオ殿下に知っておいてもらって損はないと思う。


「じじしゃま。て、あらったよ」

「良い子だね。アリアンナ。こちらへくるか?」

「あい」


 アリアンナ王女は、抱き上げられてボスコ公爵の膝に収まった。エリオ達は公爵を間に挟んで両隣の席に着く。わたしは彼らの向かい側の席に着いた。


「わあ、たまごサンドだ」

「ナザリオ殿下は、卵サンドが好きなの?」

「はい。ぼくはたまごサンドがすきだけど、兄上はハムとキュウリのサンドがすき。アリアンナはフルーツのサンドがすきです」

「そう」


 自分の目の前に置かれたお皿の中身を見て、5歳のナザリオ殿下は目を輝かせた。彼は何にでも好奇心旺盛で、おしゃべり好き。兄妹の好みを教えてくれた。


「アリアンナはねぇ、いちごのがすき。みかんもすき」


 ボスコ公爵の膝の上に乗るアリアンナ殿下は、フルーツサンドが欲しいとお強請りをし、公爵から手渡されてにこにこしていた。

 ボスコ公爵は、エリオ殿下達を本当の孫のように可愛がってくれているようだ。その姿に癒やされていると、男女の声が聞こえてきた。


「……もう忘れた方が良いわ」

「そうは言っても……」

「あっ。かあしゃま」


 聞き覚えのある声に、真っ先に反応したのはアリアンナだった。公爵の膝の上にいるアリアンナが花壇の方へ顔を向ける。つられるようにそちらに目を向ければ、王妃リチェッタと、テレンツィオがいた。ここのところ良く二人の姿を見かけるようになった気がする。


 ジータの失踪の件もあり、その事で相談していたのかもしれない。二人はわたし達に気がつくことなく、遠ざかって行った。テレンツィオはジータの捜索に宮殿の兵を出そうとして、リチェッタ王妃から反対されていた。王妃は大袈裟にしたくないという理由で、ジータの捜索を望まなかった。


 王妃の態度は意外に感じた。ジータの女官の口利きまでしたというのに、従妹がいなくなって心配じゃないのだろうか? その為、ジータ捜しは難航している。


(それにしても我が子に気をかけないなんて……)


 東屋での昼餐については、エリオ殿下付きの女官達から報告が上がっているはずだ。それなのに王妃は気にかける様子もなかった。花壇と東屋はほんの目と鼻の先にあるというのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る