第24話・陛下の異変
「遅くなって済まないな。間に合ったか?」
「陛下」
考え事をしていたら、陛下が姿を見せた。執務をきりの良いところで切り上げて駆けつけたらしい。
「バジーリオ。いつも済まないな。ルーナも来ていたのか?」
「いいえ。兄上がお忙しいのは分かっておりますから」
「はい。お邪魔させて頂いております」
ボスコ公爵に名前で呼びかけながら、陛下は空いていたわたしの隣の席に腰を下ろした。
「エリオ。もう三カ国語をマスターしたらしいな。飲み込みの早さに言語学の教師が驚いていたぞ。さすが自慢の我が息子だ」
「ありがとうございます。父上」
「ナザリオは剣の筋が良いと、シノワール騎士団総長が褒めておった。頑張ったな」
「はい。もっと頑張ります」
陛下は目尻を下げて息子達を褒めていた。そこにアリアンナが口を挟む。
「とうしゃま。あたしは?」
「2人とも先が楽しみだな」
「とうしゃま。あたしね、きょうは……」
「そう思うだろう? ルーナ?」
「はい」
陛下は殿下達しか見ていなかった。アリアンナの発言に耳を貸そうとしない。
「とうしゃま!」
痺れを切らしたように呼びかけたアリアンナ王女に、陛下は冷たく応じた。
「アリアンナ。おまえには話しかけていない。黙っていろ」
「とうしゃま……」
アリアンナが泣きそうな顔をした。陛下の態度は大人げなかった。二歳児に対しての物言いではない。この場にいた公爵を始め、皆が驚いた。
「陛下。アリアンナ殿下はまだ二歳です。そのような言い方をされなくとも」
「小さいからこそ、今のうちから言って聞かせねばならぬ。自由奔放に育っては困るからな」
見かねたボスコ公爵が庇うも、陛下はアリアンナをねめつけた。
アリアンナが泣き出すと「煩いわ。下がらせろ」と、乳母に言いつけ、アリアンナを下がらせようとした。その態度に、温厚なボスコ公爵が抗議しようとすると、陛下は席を立った。
「陛下」
「気が乗らぬ。戻る」
陛下は泣くアリアンナと、憤る公爵。どうしたらよいか分からず戸惑う王子らをその場に残し退出した。
アリアンナは乳母に連れられて自室に戻ることとなり、この場には気まずさだけが残った。殿下達も部屋に戻り、後に残されたボスコ公爵に、せっかく来て頂いたのに、このような事になってしまって申し訳ないと謝ると、あなたが悪い訳ではないですからと苦笑された。
「兄上はどうなさったのでしょう? 先月までは、アリアンナ殿下を目に入れても痛くないほど、可愛がっておられたというのに……」
「そうですよね。わたしも何が何だか分からなくて……」
ボスコ公爵の言葉に、頷く事しか出来なかった。陛下はテレンツィオ殿下を始め、今まで息子続きだったのでアリアンナ王女が産まれて、もの凄く喜ばれていたのだ。
それなのに今日の昼餐会では、わざと無視していたように感じられる。あんなにも可愛がっていたのに、陛下の急変ぶりが信じられなかった。
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