第22話・産みの母より、育ての女官



「王妃さまは昼間、殿下達に会いに来ることはないのかしら?」

「それが……、いらっしゃる日もありますが、よほどお忙しいのか、顔を見られたらすぐに戻られてお終いになって……。殿下達は、少し寂しい思いをなさっておいでです」

「そう」


 わたしの問いに、ハキハキ答えていた女官の歯切れが悪くなる。ため息を漏らすと、慌てて取り成すように言った。


「でも、ルーナ妃殿下は、ボスコ公爵のように良く気に掛けて下さるので、殿下達は妃殿下のことが大好きなのですよ」


 だから突然参加を表明したわたしに、エリオ殿下達の女官らは喜んだのかと思った。殿下達はまだ幼い。母親を恋しがる年頃なのに、その母親は子供をあまり気に掛けないでいる。

 女官達は直接、王妃に物言う立場にはない。その為、きっとわたしの方から、王妃に取り成してもらえないかと言いたいのだろう。


「分かったわ。王妃さまにお話ししてみます。前エルメリンダ王妃も、忙しい公務の間にわたしや、テレンツィオ殿下のもとに良く顔を出して下さったものよ」


 と、言えば女官はよろしくお願い致します。と、深々と頭を下げてきた。エリオ殿下付きの女官を思いきって入れ替えて良かったと思う。以前はリチェッタ王妃への嫉妬で、殿下に当たっていた女官が数名いたが、今は幼い主人の心を慮る忠実な使用人に恵まれたようだ。


「お義祖父さま」

「じじしゃま──」

「いらっしゃ──い」


 子供達の嬉々とした声に出迎えられて、ボスコ公爵がやって来た。エリオ殿下達はボスコ公爵を取り囲み、東屋へと彼を連れて来た。

 ボスコ公爵は、時折、姿勢を低くしながら話しかけてくる王子や王女らに応えていた。その姿から王子達に、慕われているのが知れた。

 その姿を東屋の中から見ていると、わたしと目が合い、驚いたようで目を丸くしていた。


「これはルーナ王太子妃殿下」

「お久しぶりですね。ボスコ公爵。先ほど殿下達にお誘いを受けまして、厚かましくも参加させて頂くことにしましたの」

「妃殿下とご一緒できるとは光栄です」


 この場にわたしがいるとは思わなかったらしい公爵に、殿下達から誘われたと言えば、微笑みが返ってきた。優しい人柄が現れているような笑みだ。

 厳めしい顔つきの陛下とは、顔の輪郭や目鼻立ちは違うように思えるのに、破顔すると2人は似て見えた。やはり兄弟なのだろう。そのせいだろうか? 普段なかなか会えない陛下に、どこか似て見えるボスコ公爵を殿下達が慕うのは。


「いつも殿下達のことをお気遣い頂いて、ありがとうございます。ボスコ公爵」

「礼には及びませんよ。妃殿下。わたしにとって殿下方は孫ですから。孫の成長を見守るのは、とても楽しいものですよ」

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