第20話・夫の疑い
「あのバスク子爵令嬢がいなくなるなんて、信じられませんね。あれだけ殿下に執着していたのに」
「そうね。大人しそうな顔をして学園を卒業後も、殿下の事を諦め切れずに、女官になったような人ですものね。何か事件にでも巻き込まれていたりしないわよね?」
リラは殿下とジータがイチャイチャしていたのを、わたしの側で見ていた。何かない限り殿下から離れるような相手ではないと思っているようだ。
わたしもそう思う。わざわざ王妃さまを頼り、王太子付きの女官にまでなったのだ。その彼女が自発的に姿を消すだろうか?
「私の方でも彼女について探りを入れておきます。妃殿下がお気になさる事でもないですよ」
「ありがとう。ミラン。頼むわね」
近衛隊長のミランが請け負ってくれたけど、何となく不安が残った。
それにしても、恋人がいなくなったのを、わたしのせいにされたのは腹立たしかった。
学園に通っていた頃から、彼らとは一線を引いて側に寄ることもなかったし、宮殿ではテレンツィオとは閨も別で、食事だって共にしていない。接触する機会のない彼に付き添っている彼女に、どうやって近づくというのか?
恋とは常識さえ、覆してしまうものらしい。宮殿ではお互い王太子と王太子妃という立場があって、誰かしら使用人が側についている。わたしの行動など近衛隊の隊長であるミランや、女官長のリラに筒抜けだというのに。
夫であるテレンツィオに疑われて良い気はしなかった。
「ルーナ妃殿下」
「あら。エリオ殿下。今日はナザリオ殿下や、アリアンナ殿下もご一緒なのですね?」
ジータ失踪から早くも3ヶ月が過ぎていた。全然進展は見られなかった。殿下は一時、落ち込んでいたようだけど、彼女がいなくなったことで、その喪失感を補うかのように仕事に打ち込むようになり、わたしの仕事の負担が減った。おかげさまで休憩時間が、余裕で取れるようになってきた。
そんな折、自室から廊下に出たところで、エリオ殿下達と出くわした。7歳のエリオ殿下は、同母の兄弟である5歳の弟のナザリオ王子に、もうじき2歳になる妹のアリアンナ王女を連れていた。
「あっ。ねぇしゃま」
「あねうえ!」
こちらに気がつき、笑顔を向けてくるジャイヤード王家の、可愛い天使達に悪い気はしない。
2歳のアリアンナ王女を真ん中にして、エリオ王子と、ナザリオ王子は手を繋いでいた。アリアンナ王女は歩けるようになったとはいえ、たどたどしい歩みなので、兄の王子達は気遣ってゆっくり歩いているようだ。心優しい王子達の後ろには、乳母や女官、近衛兵達が付き添っていた。
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