第19話・気が気でない
殿下はシャワーを浴びたばかりなのか、濡れた髪にガウンを羽織った状態で出てきた。
「突然、どうした?」
「こちらの騒音がうるさいと、わたしの滞在先に住民から苦情が寄せられましたので、様子を見に来ました」
「おい。ティオ。どうした?」
「ティオ。何があった?」
「おーい。早く戻って来いよ。ジータはオレが先でいいよな?」
許婚であるわたしを前にして、どう言い訳しようかとしているテレンツィオの背後から、下半身は黒いスラクスを穿いてはいるが、上半身裸にワイシャツを羽織ったままの、男子が2人続く。彼らには見覚えがあった。殿下と学園でいつも一緒にいる仲間の内の2人だ。プレスター子爵の息子キリオと、豪商サーパス男爵の息子ランス。
彼らはわたしを見て「ルーナ嬢」と、目を剥いた。そして連れているリラ女官長やミラン、近衛兵らを見て青ざめた。彼らは友人である殿下の、許婚であるわたしの事は、認識していたらしい。
その2人の背後から、「何しているんだよ。早く来いよ。おまえら」と、部屋に残っているらしい暢気な男子の声がする。
「失礼致します」
「あ。待て。ルーナ。そっちは……」
館の中へ入ろうとするのを、殿下が止めようとしたが、ミランが近衛兵に目配せし、彼らを取り押さえてもらった。その隙にリラとミラン、残りの近衛兵らと共に、殿下が行かせたがらない奥の部屋へと足を踏み入れた。
奥の部屋は寝室となっている。そこへ入ると大きな寝台の上で、裸の男子と少女が重なり合っていた。何をしているかは一目瞭然だった。
「誰だ? おまえら。あ、えっ? ルーナ嬢?」
「きゃあっ。いや」
乗り込んで来たわたしと目があうなり、赤毛の男子は動きを止めて体を起こした。その男子の背に恥ずかしそうに銀髪少女が隠れる。
赤毛の男子は、グランノア伯爵子息ザイル。宰相の甥と言うことを鼻にかけ、普段わたしにも強気な態度を見せていたが、この場を目撃されて言葉も出ないようだった。
わたしもショックだった。テレンツィオに、恋愛感情のようなものはなかったが、彼ら4人とは、節度ある付き合いをしているものと思っていた。それがまさかこのように下半身で繋がった仲なんて。しかも殿下と慌てて玄関に出て来た彼らの様子から、女性のジータ1人に対して、男性4名で関係していたと思われる。目も当てられない。
ミランはわたしを背に庇い、ショックの大きいわたしに代わって、リラ女官長が前に進み出て詰問した。
「あなた方は、ここで何をしているのです?」
「オレ達はその……」
ここは、今は亡きエルメリンダ王妃殿下を偲ぶ館。定期的に清掃されて、綺麗に保たれてきたお屋敷が、彼らのせいで穢されたような気がしてならなかった。部屋の換気をする為に、連れてきた近衛兵が窓を開けたことで尚更、不快に思われた。
「この館は、前エルメリンダ王妃殿下所有の別邸です。陛下の許可なく入り込むとは不法侵入となりますが、あなた方はどなたですか? 名を名乗りなさい」
リラの追及に2人は震え上がった。王家所有の別邸を宿泊に勝手に利用し、そればかりかそこで、数名の男女で不純異性行為が行われていた。それなりの処罰が下ることは明らかだった。
「オレ達はただ、ティオと泊まりに来ただけで……、前王妃さま所有の別邸なんて知らなくて……」
「なんてふしだらな……」
声音から目をつり上げるリラが、簡単に想像出来た。ミランの背に庇われながらも事態を把握しようと、顔を出すと、ザイルと目があった。
「ルーナ嬢。お許し下さい。もう二度とこのような真似は致しませんから。お願いします」
「どうかお許し下さいませ」
彼にしては珍しい謝罪だが、きっと身の保身を考えたのだろう。こんな事が親にバレたら伯父の宰相の立場のこともあって、ただでは済まない。ジータはただ、ひたすら謝り続けた。
その後、彼らは激怒したリラやミランの采配の元、着替えをさせて問答無用で王都に送り返された。ショックが大きすぎたので陛下に報告だけはして、後のことはお任せする事にした。
陛下は彼らの親を呼び、事の次第を打ち明けて厳重注意をするのみに終わった。彼らが未成年者で親の保護下にある事と、仲間に自分の息子も加わっていたので、強気には出られなかったようだ。各家もこの事が世間に知れ渡ると醜聞にしかならないので、この事は口外無用とされた。
その為、社交界で殿下達の乱交は知られてないが、あのメンバーで顔をあわせていると、また何かしでかすのではないかと気が気でなかった。
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