第17話・失礼な殿下
テレンツィオは、執務室の外に数名の近衛兵を待機させていたようだ。彼らを呼び寄せると室内を探るように命じた。
「ここだけじゃない。ドレッサールームや、シャワールーム。寝室も残さず調べろ」
「王太子殿下」
いかにもわたしが容疑者のような扱いで、リラが目を三角につり上げ、テレンツィオに物申そうとしていたが止めた。
「リラ。調べてもらえば分かる事よ。待ちましょう」
わたしは応接間で、再びリラにお茶を入れてもらいながら、彼らが念入りに探り終えるのを待った。
「殿下。何も見つかりません」
「殿下。何もありません」
「殿下。ここでも見つかりませんでした」
次々、テレンツィオの元にジータ嬢が見つからない、または彼女と係わりのある痕跡は見当たらないと、近衛兵達が報告していく。何も疑わしいものが出て来ず、ジータも見つからない。テレンツィオは、頭を抱えた。
「くそっ。ジータ。どこに行ってしまったんだ?」
しゃがみ込んだ殿下が鬱陶しい。近衛兵達は所在なげに立ち尽くし、これらをどう収拾すべきかと思っていた時だった。救いの神が現れた。
「殿下。これは何事ですか?」
近衛隊長のミランが現れ、近衛兵達は安堵した様子を見せた。
「隊長」
「皆、何をしている? さっさと持ち場に戻れ」
「はっ」
ミランの指示に近衛兵達は従い、サッサとこの場から辞した。彼らにとって気の乗らない仕事だったようだ。
「殿下。みな、持ち場がありますので、私に何の断りもなしに、彼らを勝手に連れ出されては困ります」
「済まない。ミラン。ジータがいなくなったんだ。彼女がいないと……」
「ジータ嬢とは、殿下付きの女官のバスク子爵令嬢の?」
「ああ。一昨日から姿が見えなくなって捜していた」
テレンツィオは、勝手に近衛兵を連れ出したことをミランに咎められ、罰が悪く思ったのだろう。近衛兵を連れ出した理由をすぐに吐いた。
「それがどうして、妃殿下の部屋を捜させることになるのです?」
「いや、それは……」
テレンツィオは、ミランの追及に口ごもる。彼は一方的に彼女が消えたのは、わたしのせいだと決めつけているように思えた。
「わたしも気になります。どうしてですか?」
「それは……、その……」
「殿下。はっきりおっしゃって下さい。男らしくないですよ」
「リラ」
テレンツィオの何か隠しているような態度を見かねてか、リラが口を挟んできた。リラはテレンツィオの元乳母だ。母親代わりだった人からもさっさと話せと言われて、渋々殿下は白状した。
「彼女とその……、喧嘩したんだ。それで彼女はもの凄く激高していたから、ルーナの所に来たんじゃないかと思って」
「はい? 彼女がわたしの所になぜ?」
殿下の恋人であるジータが、わたしの所に来るなんてあり得ないと思うけど。
もしかしてジータが「あんたの旦那さん。どうにかしてよ」とでも言いつけに来るとでも思った?
それとも「早くテレンツィオと別れて。わたしと彼は相思相愛なの。邪魔しないで」と、抗議に来るとでも? ナイナイ、あり得ないでしょう。訳分からない。
「いや。来ていないなら、それはそれでいいんだ。もしも、彼女が現れたならすぐに顔を見せるように言ってくれ。あまり詮索はしてくれるな」
凹んでいながらも立ち直った様子の殿下は、それだけ言うと部屋から出て行った。人には言いがかりを付けておきながら、どこか奥歯に物が挟まったような言い方をする彼が気になった。
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