第13話・王家で飼い殺しにされちゃうの?



 テレンツィオは、わたしと離婚すれば、王太子の座も危うくなるし、頼みとするオフニール辺境伯家の後見は得られなくなる。それらを手放してでも、彼女と一緒に添い遂げたいと言うのならば、全面的に協力したのだけど、そこまでの覚悟はテレンツィオにはないらしかった。


「今更よ。それにね、わたしは別に殿下に特別な感情は抱いていないから、彼が別に誰を好きでも構わない」

「ルーナ……」


 ダリアとカトレアは、思わぬことを聞いてしまったというような反応を見せた。彼女達は、まさかわたしがテレンツィオのことなど、どうでも良いような発言をするとは思わなかったのだろう。

 今までわたしは彼の許婚として、いずれ王太子妃となる者として振る舞ってきた。だからそれなりの彼への愛情があると、思われていたのかも知れない。

 お酒が入っていたせいか、口が緩んでしまったのもある。思わず心の内を吐露していた。


「もしも殿下が彼女を妻にしたいから、別れてくれと言ったなら喜んで応じる気でいたの。学園在学中に婚約の解消、もしくは婚約の破棄を望んでもらえたなら実家に帰れると思っていた。実家に戻ったなら好きに生きようと思っていたのに……。わたしの願いは叶わなかった」


 わたしの恨み節を、二人は黙って聞いてくれていた。何も言えなくなってしまったのかも知れない。


「妃殿下。そろそろ……」

「そうね。戻るわ。二人とも会えて嬉しかったわ」

「わたし達もよ。今度、会いに行っても良いかしら?」

「勿論よ。二人はわたしの親友だもの。いつでも顔を見せに来て」


 重苦しくなった空気を破るように、ミランが呼びに来てくれたから、それに応じる形で二人との会話を終えた。これ以上、二人を心配させる話題を提供したくなかったから、ミランが呼びに来てくれたのは助かった。


「だいぶ足下がふらつかれているようですが、お部屋に戻られますか?」

「許されるかしら?」

「陛下や殿下には先ほど、許可を頂いております。お二方とも気分が優れないようなら、お部屋に戻って構わないとおっしゃっておられました」

「そう。じゃあ、戻る」


 彼にだいぶ酔われたようですから部屋に戻られますか? と、聞かれ、それに応じることにした。ミランは仕事が早い。気が利く。気まずい夜会にそれ以上、留まりたくもなかった。

 彼のエスコートで廊下に出ると、長く暗い廊下にポツポツと燭台の明かりが、等間隔に点されていた。その明かりを見ていたら、ポツリと本音が漏れた。


「結婚してしまったから離婚も容易に出来ないし。最悪。今後、わたしは王家で飼い殺しにされちゃうのかな?」

「飼い殺しだなんて。妃殿下は望まれて王家に嫁がれたのですよ」

「ありがとう。ミランは優しいのね。陛下や殿下がわたしの実家を都合良く、あてにしているのは良く分かっているわ」

「誰がそのようなことを?」

「陛下よ」


 数週間前にリチェッタ王妃の希望で、テレンツィオと共に陛下達の晩餐の席に招かれていた。その時に、陛下が余計な事を口走ったのだ。


「テレンツィオは恵まれている」と、言いだし、


「嫁の実家は豊かな土地で、毎年高額な税を納めてくれている。もしもエリオがおまえより先に生まれていたのなら、ルーナと娶せたかった。そしたらエリオを王太子にできたのに……」


 等と愚痴りだした。第二王子のエリオは現在7歳。教育係から賢いことは陛下に報告が上がっているのだろう。テレンツィオが使いものにならなければ、エリオを王太子にすげ替えたいようだ。

 陛下の発言に、テレンツィオは不機嫌になり、終始無言となった。わたしはその隣で居たたまれない気持ちにさせられた。

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