第8話・夜会にて
その晩。宮殿で夜会が催された。相変わらずテレンツィオとは仮面夫婦なまま。人前では仲の良い素振りを見せていた。陛下とリチェッタ王妃が席に着いた後で、わたしは夫のエスコートで広間に登場した。
お互いお揃いのコーデで、藍色を主体にしたものを身に纏っている。所々にダイヤモンドが散りばめられているので、歩むとキラキラと輝く。
わたしの身の回りの宝飾品は、ティアラや、首飾り、イヤリングと全てダイヤモンドにしていた。席に着くと、テレンツィオがわたしの顔をじっと見つめてきた。
「ルーナ。少しやつれたか?」
「その様に見えますか? 今夜はお気に入りの女官はどうなさいましたの? お連れではないのですか?」
誰のせいでやつれたと思っているのだ。仕事をやれ、仕事を。等と、言う気はない。やる気がない人間に仕事をやれと言うだけ無駄だ。時間の無駄にしかならないのならば、自分がやった方が遙かに効率がいい。
わたしの元に届く書類には、重要事項のものが増えて来ていた。文官長曰く、お気に入りのジータを侍らせているテレンツィオは、全く仕事にならないので、決定事項の書類だけ回しているようだ。サインをするだけ。それは陛下にも報告済みらしい。つまりテレンツィオは早くも、文官達から見放されたようだ。
その危機感も感じてないような彼からの珍しくも、わたしの体調を気遣うような言葉。もしかしたら明日は、雨になるかも知れないなと思うと、彼はやはり変わっていなかった。
「何だ? 妬いているのか? 見苦しいぞ。ジータとはそんな仲ではない。邪推するな」
「殿下。バスク子爵令嬢です。親しき仲にも礼儀ありです」
個人の名前ではなく、家名で呼ぶようにと言えば、テレンツィオは少し考えて、彼女の名前を言い直した。
「ジータ、あ……。いや、バスク子爵令嬢とは何でも無い。言っておくことがあるが、その……、報告が遅くなったが、バスク子爵令嬢は義母上からの紹介で、私のところで女官として仕えてもらうことになった」
「さようですか」
「何か問題でもあるのか?」
「いいえ。それならば一言、ご相談頂ければと。わたくしのところには、連絡もなしに採用されていて、しかも何のご報告もなかったので、バスク子爵令嬢とは今後どうなさるのかと気に病んでおりました」
「勝手に決めて悪かった。彼女とはほら、学園で色々と噂がたっていたし、きみも彼女の名前を聞いたら、気を悪くするんじゃないかと思ってね。彼女とは本当に何も無いんだ」
前世で言うところの「報告」、「連絡」、「相談」は大切だと思う。彼女の採用に対し、多少の嫌味が出ても仕方ないよね? そっちが妻である自分に相談もなしに勝手に決めてしまったのだから。テレンツィオから、型どおりの謝罪が帰ってきたけれど、ちっとも心に響かなかった。
「正直におっしゃって頂いた方が良かったですわ。バスク子爵令嬢は王妃さまの従妹なのでしょう?」
「知っていたのか?」
「学園で有名でしたもの」
学園でテレンツィオと、彼女の交際が注目されていた時に、バスク子爵令嬢がリチェッタ王妃とは、従姉妹同士なのだということも伝わっていた。
「下手に隠されると、疑ってしまうものですわ」
「悪かった。これからは気をつける」
隠さなくとも二人の関係は目に余る。彼女との関係を過去のものにしてしまうのならば、彼女を宮殿で雇うべきでなかった。
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