第9話・王妃さまは何を考えているのか分からない人
「あら、二人とも。何のお話?」
テレンツィオと、バスク子爵令嬢の件に納得はいかないものの、一応の決着をつけると、傍で聞いていた様子の、リチェッタ王妃が話しかけてきた。リチェッタ王妃は現在25歳。わたしと年が7つしか離れていないせいか、気安い態度で話しかけてくる。自分の従妹の話題が上がったのに気がついて、声をかけてきたのだろう。
「バスク子爵令嬢のことです。彼女とリチェッタさまは従姉妹同士なのですよね?」
「ええ。彼女とは母方の従姉妹同士なの」
「お二人は良く似ておられます」
「そう?」
「はい。髪色や瞳の色。顔立ちとか似ておられますわ。初めてお二人を見た時、姉妹なのかと思ったぐらいです」
「母達も年子で双子のように良く似ていたから。そうかも知れないわね」
「そうなのですか」
「そう言えば遅くなったけど、ごめんなさいね。ルーナ。あなたにジータのことを話してなかったわ。彼女を女官に勧めたのはこのわたしなの。彼女は学園でティオと噂が立ってしまったから、卒業してから良い縁談に恵まれなくてね。叔父さまが嘆いているのを見かねて、女官勤めを勧めたのよ」
リチェッタ王妃の言う叔父さまは、ジータの父親であるバスク子爵の事。リチェッタ王妃の母と、ジータの母は姉妹だったらしいから、その縁で泣きつかれたのかも知れない。
しかし、ティオねぇ。リチェッタさまはテレンツィオを相性で呼ぶ。彼女から見ればテレンツィオは義理の息子だけど、甘ったるい声で呼びかけているのを聞くと気持ち悪くなる。彼女が王妃となる前までは、わたしもテレンツィオを「ティオ」と、呼んでいたけど、彼女がそう呼びかけるのを聞いてからは止めた。
今では「殿下」と、呼んでいるが、テレンツィオは、その変化にも気がついてないようだ。長い婚約関係を経て結婚した妻に、関心はないらしい。
リチェッタ王妃は、学園では殿下とジータに噂が立ってしまってなどと言ったが、それはバスク子爵から、一方的に聞かされた話に違いない。子爵も自分の娘を悪く言うはずもないから、学園では殿下と同級生として仲良くしていただけと、誤魔化したのかも知れなかった。
実際には二人は交際していたのだけど。それを見咎める者がいて、中には注意してくれた先生もいた。でも、それを素直に受け入れなかったのは二人だ。
「そうでしたか。彼女をそれで殿下付きに?」
「あなた付きの女官には出来ないじゃない? 変な誤解を受けそうだもの。学園ではあなたという許婚がありながら、ティオとジータは交際しているっていう噂が立っていたらしいから、あなたの女官にしたら、あなたが仮にジータを注意することがあれば、虐めていると受け取る人が出るかも知れないでしょう?」
変な誤解を生むのを避けるのならば、尚更恋人同士だったと噂されていた二人を、一緒に居させない方が良いと思うのだけど、リチェッタ王妃はそうは思わないらしい。
わたしの側に彼女を置いて問題があるのならば、王妃付きの女官にしても良いはずなのに。これではまるでテレンツィオ達の仲を、密かに応援しているようではないか。リチェッタさまは苦手だ。何を考えているかさっぱり分からない。
わたし達とは違う次元に、生きているような人に思えてくる。こういう人の話はまともに聞いたら駄目だ。わたしは給仕からワインをもらい、グビグビ飲んだ。
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