第7話・ご恩返し



 そのボスコ公爵とはエリオ王子が2歳の頃、宮殿で出くわした。彼は王子と手を繋ぎ、祖父と孫というよりは、親子のように思えて微笑ましかったのだけど、公爵は諫言してきた。


「もっと王子のことを気に掛けてくれないか」と。


 自分では庇いきれないと言われ、気になってすぐに王子の周辺を調べると、最悪な状態にあった。王子付き女官のうち数名が王子を蔑ろにしていたのだ。王妃の悪口を言い、王子に当たり散らし、身の回りの世話を放棄していた。


 彼女達はリチェッタ王妃の元同僚で、彼女が陛下の寵愛を受けて王妃となったことを快く思っていなかった。しかも彼女達は、表向き真面目にお勤めしていたのもあり発覚が遅れた。周囲はわたしも始め、王子がそのような目にあっていると、気が付けなかった。


 彼女達の気持ちは分からないでもないが、それをその息子である王子にぶつけるのは間違っている。


 王族への不敬だ。その女官達の王子への虐待を知り、速やかに解雇した。他の女官と入れ替えさせ、毎日王子の様子を見に足を運ぶ事にした。

 今まで個人的理由から現王妃を避けていたのが、徒となったようだ。王子に対する罪滅ぼしではないが、それから毎日足を運ぶことで、王子に危害が及ぶことはなくなった。そのせいか王子には、実の姉のように慕われるようになっていた。


「このリンゴジュース、とても美味しいです。僕、大好きです」

「良かったわ。オフニール辺境伯領から取り寄せたリンゴを搾らせて作ったものなの。殿下。良かったらこちらのリンゴパイもどうぞ」


 エリオはリンゴが好物だ。そのリンゴで作った飲み物や、お菓子に目がない。笑顔を浮かべてパイを、口いっぱいに頬張るエリオが、小動物のように愛らしい。彼の屈託のない笑顔が、夫のせいで、ささくれだった心を癒やしてくれる。

 エリオ王子は現在7歳。わたしがこの宮殿に来た頃と同じ年齢になった。そのせいか他人事のように思えない。


 あの頃のわたしには、エルメリンダ前王妃さまを始めとした、沢山の大人達が味方となってくれた。そのおかげで今の自分がある。これからは彼らに受けた愛情と思いやりを、王子達に返していくつもりだ。彼らの笑顔を守る為にも。


 出来ればエリオ王子には、その純真な心をいつまでも持ち続けていて欲しいものだけど、王族でいる限り難しいのかもしれない。それでもテレンツィオのように、他人の気持ちに寄り添えない人間には、絶対育って欲しくないと心の底から願った。

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