第6話・可愛い義弟王子



「どなた?」

「義姉上さま。エリオです」


 誰何の声を上げると、天使のような、澄んだ可愛らしい声が返ってきた。第二王子エリオだ。彼は陛下とリチェッタ王妃との間の子だが、わたしに懐いてくれている。可愛い客人の訪問に、わたしは快く入室許可を出した。


「お入りなさい」


 リラに目配せすると、彼女は心得たように甘い果実の飲み物を用意し始めた。エリオ王子は7歳。金髪に青い目をした愛らしい容姿の彼は、中身は全然、王妃に似ていない。まともに育ってくれているようで、そこだけが救いだ。彼は近衛兵を連れていた。近衛達は部屋の外で待機させることにした。可愛がっている義弟との時間を邪魔されたくないからね。


「学園は楽しいですか? お友達は出来ましたか?」

「はい。楽しいです。友達も二人出来ました。サベルク侯爵のご子息レオルカと、フロトライン伯爵子息コルネリオです」

「そう。二人とも良いお友達になれそう?」

「はい」

「良かったわ」


 この国の王族を始め、貴族の子女達は、王都にある王立学園に通うことを義務づけられている。初等科は7歳から入学で13歳から中等部、16歳から高等部へと進む。18歳で高等部を卒業し、社交界デビューをして一人前と見なされるので、高等部を卒業してすぐに婚姻する生徒も珍しくなった。ちなみにわたし達の結婚も、わたしの卒業を待って行われた。


 それにしてもサベルク侯爵子息と、フロトライン伯爵子息か。人選が良すぎない? サベルク侯爵は文官長だし、フロトライン伯爵は、リラ女官長の夫の将軍の下に仕える副官。これは偶然? 必然的なもの? 首を傾げていると、エリオが言った。


「ボスコのお義祖父じいさまが二人とは会う機会を何度か作って下さったので、そのおかげで学園でも仲良くしてくれています」

「そうだったの。良いお友達を持ったわね。ボスコ公爵には感謝しないと」


 後で公爵に会う機会があればお礼を言おう。ボスコ公爵は王弟で、リチェッタさまの養父だ。エリオ王子にとって義理の祖父となる。


 リチェッタ王妃の実家は子爵。王妃となるには身分が足りなかった。それを補うために陛下が用意した彼女の養子先がボスコ公爵家だ。公爵は面倒見の良い御方のようで、頼りない義娘に代わって、義孫を良く気に掛けてくれていた。


 このような御方が王だったなら良かったのに。と、思わずにはいられない。王子だった頃から聡明で知られていたらしく、宮殿内で王太子である兄と派閥が出来て揉めたりしてはいけないと、学園に通っていた当初から、臣下に下る表明をされていたらしかった。陛下とは年齢もそう変わりがないはずなのに、端正な顔立ちで見た目も若々しい。今も独身なのは若い頃に恋人を失い、その女性を未だ忘れることが出来ないらしいと噂で聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る