第2話・しくじりました


 わたし達夫婦は、典型的な政略結婚だった。わたしが7歳になった頃、1つ年上の王太子テレンツィオと婚約が決まった。


 その年、この国のジャイヤード国王陛下が、わたしの父が治めるオフニール辺境伯領を視察に訪れた。陛下は、広大な土地の急激な発展に目を見張り、辺境伯の娘であるわたしを王太子と娶せるようにと厳命してきた。王制であるこの国では、陛下の言うことは絶対。一介の貴族でしかない父には断る術がなかった。

 項垂れる父を前に、しくじった事に気がついた時には遅かった。わたしはこんな事になるとは思わず、なかなかお目にかかれない陛下の訪問と聞き、浮かれていたのだ。

 緑と共存する巨大な街と謳われる、自慢の領地を知って頂こうと案内を買って出た。それが裏目に出た。国一番の権力者に目を付けられるなんて、目立ちすぎた。


 わたしには秘密がある。それは家族や一部の使用人達しか知らないことだけど、転生者なのだ。前世の記憶を持ってこの世に生まれてきた。


 わたしが前世住んでいたところは、この世界よりも高度な文明を築いていた。水は蛇口を捻ればすぐ出たし、部屋の明かりはスイッチを押すだけで付く。移動手段として身近なものでは車やバス、電車があったし、長距離ともなれば新幹線や飛行機があった。連絡手段として手紙や、電話。インターネットがあったし、娯楽も沢山あった。その世界で生きてきた自分から見れば、この世界には足りないものがいっぱいあった。


 そこで言葉が話せるようになった2歳頃から、色々とここが不便だ、こんな風になったら便利でいいのにと、何気なく愚痴っていたら、それを耳にした両親や3人の兄達が「発想が素晴らしい」「うちの娘(妹)は天才だ!」「うちの娘(妹)は天使!」等と、持て囃し、それを可能にすべく動き出した。そこがうちの家族の凄いところ。


 知人の魔石使いや、技術士達を巻き込み、「辺境暮らしを良くするプロジェクト」なるものを立ち上げたのだ。

 領地内に水道を巡らし、街道をならし、魔石のエネルギーを利用した生活用品を生み出した。明かりや、コンロに冷蔵庫。洗濯機や、お風呂にトイレ。前世の記憶に近い物が出来上がって感動した。それらが各家庭に定着したことで、辺境伯領に住む領民達の生活水準が上がり、仕事への生産意欲が高まり、住みよい街へと変貌した。


 王都ではようやく水道が引かれ、下水道処理に取りかかった頃だった。

それを目にした陛下が、危機を感じないはずがなかった。恐らく陛下は、この国の盾となるべき辺境伯領が、ここ数年で大きく発展した事に驚き、万が一にもその辺境伯が他国と手を結び、この国に反旗を翻すような事があってはならないと、不安を覚えたのだろう。


 その為、婚約という言葉でわたしを縛り、辺境伯である父への人質にしたのに違いなかった。家族から引き離されるように、7歳で宮殿に赴いたわたしは、許婚となるテレンツィオ王子と引き合わされた。

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