第2話 漆黒の館2

不意に、ギイッ──と鼓膜を貫くような甲高い音がして、目の前の巨大な扉がゆっくりと開く。

「開いた……」

思わずアイリーンから呟きが漏れる。


屋敷の中も暗い。一つも明かりが付いていないのだ。扉の先には長い廊下が伸びているのがうっすら見えるが、先は闇に包まれている。


「どうぞこちらへ──」

入り口奥から女性のか細い声が聞こえたが、その姿は見えない。

アラゴルンを先頭に、エルトラ、アイリーンと屋敷に入っていく。


「暗いわ……」

アイリーンは不安そうな声で呟く。

「アイリーン、よく目を凝らすんだ。闇の中に怪しい気配が渦巻いてる……」

エルトラが注意を促す。アイリーンは無言で頷き、周囲を警戒する。


「ようこそ、お越しくださいました……」

再び女性の声が聞こえる。

突然の声に驚いたのか、キャーッ、とアイリーンが甲高い悲鳴を上げる。

闇が声を発したように思えたが、よく目を凝らすと、人型のシルエットがうっすらと見えた。

「本日はお招き頂きありがとうございます……」

アラゴルンは声の震えを抑えてお礼を言った。


「どうぞこちらへ……」

闇の中で微かに影が動いたように感じる。影は長い廊下の先へと案内しているようだ。

奥の方で縦に光が見えた。どうやら廊下先にある部屋の明かりが漏れているのだろう。


「急いで……」

また女性の声が聞こえる。女性のシルエットが扉の奥で手をこまねいるのが見える。


「──さっきまで空間にぼんやりと漂っていた怪しい気配が一つに集まってこっちへ近づいてる……。二人とも扉の方へ急げ!」エルトラは叫ぶ。

アイリーンは後ろを振り返ると顔をこわばらせて、全力で走り出す。それにアラゴルンも従う。

扉が少しずつ閉まりつつあるのが分かる。

間に合うか?

三人はギリギリ扉の中にに滑り込んだ。飛び込んだすぐ後に扉は完全に閉ざされた。


ドン、と扉の外から激しい衝撃が伝わる。

エルトラとアイリーンは扉に向き直り、右手を突き出し、敵の攻撃に備える。

二人の右手は微かに光り輝いていた。


「こちら側に来ることはありませんわ……」

先ほどの女性の声が後ろから聞こえてきた。


エルトラとアイリーン、アラゴルンは後ろを振り返る。


「メイダース伯爵家にようこそ……」

そこには彫刻のように均整の取れた絶世の美女が艶然と笑みを浮かべて待っていた。

透き通るような美しい金の長髪。大きく見開かれたダークブルーの瞳はまるでガラス細工のように美しい。

ふわっと裾の広がった黒色のワンピースを身につけている。腰の部分は引き絞られていて、か細い腰のラインが察せられる。腰のか細さに対して、胸元には豊満な膨らみがあり、美しい肢体が想像される。

「綺麗……」

アイリーンがふっとため息をつきながら言った。アラゴルンもその容姿に目が釘付けになっている。エルトラはフード端を引き寄せ、一層目深く被った。




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喪失の祓魔師 天月 夜鷹 @oishii141

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