喪失の祓魔師
天月 夜鷹
第1話 漆黒の館
私たちは犠牲を払うことなくしては、いかなる進歩も成功も望めない。私たちの成功は、自分の欲望をどれだけ犠牲にできるかにかかっているのだから──。
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「分かったわよ、シスター・テレサ……。行ってくるってば!」
アイリーンがそう言ってから早三日が過ぎた。エルトラ、アイリーン、アラゴルンの三人は修道院を出発すると、馬を乗り継いで北方へと進んできた。
「なんでこんなに遠いのよ……!」
アイリーンがまた不満をこぼす。今日はこれで三度目だ。その間も三人は歩みを止めず進み続ける。
「まあそう言わずに、もうすぐに着きますよ」
年長のアラゴルンがアイリーンを宥める。エルトラはそんな二人をフードの裾から窺うが、黙って二人の後をついて行く。
「この辺りのお屋敷って聞いたけど……?」
三人は森を抜け、少し開けた場所に出ていた。アイリーンは目的地を探して辺りをきょろきょろしながら言った。
「あそこ」
エルトラはアイリーンが探しているのとは反対方向を指差しながら呟いた。
指差した方向には巨大な樹々が林立する。
「何もないじゃない……」
アイリーンが思わず呟く。
「──ああ、よく見つけられましたね!お屋敷がありますよ」
アラゴルンは目を細めながら言った。
その樹々が作り出す深い影の中に、一面漆黒色に染め上げられた大きなお屋敷が建っている。
「何か怪しい気配は感じますか?」
アラゴルンは二人に聞いた。
首を横に振るアイリーンと少し頷くエルトラ。
「だから、お屋敷の場所が分かったのね」
アイリーンは納得したように頷く。
あたりは静まりかえっており、鳥の囀り一つも聞こえない。三人は下草を掻き分けながら扉の前にたどり着いた。アラゴルンが二人の前に出て、お屋敷の大きな扉をノックする。静寂にノックの音が響き渡る──。
屋敷は三階建てで豪奢な建物だ。ガーゴイルの石像が屋根の上から三人を睨みつける。壁面には手の込んだ紋様が刻まれているが、壁が黒いため目を凝らさないとその紋様は見えない。屋敷で使われている色は黒一色しかなく、まさに漆黒の館と言うにふさわしい。唯一の例外は数少ない窓であるが、その窓も樹々の影の中にあるため黒く見える。
暫く沈黙が続く。漆黒の館からは何の反応もない。まるで全てを吸い込む暗闇のようだ。
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