あれからどのくらいの時間がたったのだろうか。

いまだに作業用ドローンから反応はまったく帰ってこない。

重苦しい空気の中、意を決して後輩作業員が口を開いた。


「せんぱい。これってもしかして。もう完全に故障した感じですかね~」


先輩作業員は何も答えない。

だが、その無言を後輩作業員は肯定と受け取った。

元々地上は灼熱の地であり、活動限界時間を超える活動が無茶であったのだ。

別の作業ドローンで回収する手もあるだろうが時間がかかる。

その時間の間に元々の作業用ドローンはきっと熱気で溶けてしまうだろう。

それぐらいに地上は暑いのだ。

だからこそ、せっかく捉えた虫ガキとニコ姉のデータの回収も絶望的だろう。

少し頭の回転が鈍い後輩作業員でもわかったのだから、先輩作業員はとっくに察しているのだろう。

千載一遇の好機を逃したことできっとショックを受けているに違いない。

なんとも居たたまれない空気を感じて後輩作業員は次の言葉をひねり出す。


「そういえば、ニコ姉はなんで笑っていたんですかねぇ」


そうなのだ。

ニコ姉はずっと笑っていた。

ニコニコと笑い続けていたニコ姉が後輩作業員にはなんだか少し気になっていた。


「……さぁな。俺の爺さんと婆さんからもそこまでは聞いてねぇよ。だけどな。あいつが笑っていたのは、そうだなぁ」


ようやく先輩作業員が口を開く。

ニコ姉の笑う理由はわかっていない。

そこまでの記録は先輩作業員の一族も掴めていない。

だけど、予想できることはあった。


「あんなにクソ暑い場所で、自分と同じようなヤツが一人でも居ればそりゃあ少しは嬉しくなるんじゃねぇのかな。ほれ、一人は寂しいもんだって言うだろう。まあ、元々あいつが笑っていた理由はまた違う事だったのかもしれねぇけどな」


今の地上に生きとし生けるものは限りなく少ない。

だが、理由はわからないが虫ガキとニコ姉は確かにあの地で生きている。

まるで創世のアダムとイヴのような、たった二人きりの関係なのかもしれない。


「だいたい、笑う事なんてなんでもねぇじゃねぇか。嬉しい時も悲しい時も笑う事は出来るんだ。なんで笑うかなんてなんでもいいんだよ。笑えるか笑えないか、大事なのはそこだと思うぜ」

「せんぱい……」


先輩作業員は笑っている。

彼が今言ったように悲しさで笑っているのかもしれない。

だけど、やはりそれもまた彼がいうようになんでもいいのかもしれない。

後輩作業員はそう思うと彼女もかた可笑しく思えてきた。


「わたし、とりあえず前にやってた映画、最後まで観てみますね。なんか、ぜんぶ観もしないでリアリティがないとか言うのはちょっとなって。今日の事考えたらなんでもやってみようかなって」

「いいんじゃねぇか。面白かったら俺にも見せてくれよ」

「はい!ぜひ一緒に見ましょう。あと今日の焼肉は何時にします?」

「えっ?焼肉の話はまだ続いてたのか?」


おそるおそる聞く先輩作業員に後輩作業員が答える。



「はい!もちろん明日もせんぱいのおごりです!」



そこにはニコ姉に負けない笑顔があった。



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約束の地で エース @Wo40

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