勝手なスイミー

勝手なスイミー

小さい頃から伝記を読んでさ。立派な人になれと言われてさ。無限の可能性とか言われてさ。期待して生きてきた。でも違うじゃん。オレは生命現象の集まりに過ぎないよ。オレって意識はあるけどさ。スイミーって国語の教科書にあったろ。あんな感じ。全体でオレって感じを作ってるだけで、本当はオレなんていない。生命現象の集まり。雲の輪郭と同じだ。あれがオレだ。雲みたいなものだけど、雲ほど不安定じゃない。でも雲みたいに明日には消えてるかもしれない。もうさ、いつバラバラに別れてもいいよな。スイミーだってサメを追い払ったらバラけたんだろ。オレももういいよな。訳が分からないよ。何の目的もないじゃないか。オレという生命現象の目的。もし子孫繁栄というだけなら、なんでこんなにも複雑である必要があった?意識なんていらなかっただろ?虫のほうがずっと数は多いだろ?細菌の方がずっと多いだろ?なんでこんなにも複雑にしたんだ。オレはもうスイミーをやめたい。なあやめたいだろ?何だよ？オレで得したことがあったか?オレであって得したか?何が欲しくて続けてる?なんでスイミーを続けてる?味覚が何を感じたところで足の裏には影響ないだろ?耳に耳くそが溜まってても肝臓に影響ないだろ?なんでだよ。みんなバラバラだ。なんで一つになった。なんで一つで生きてる。

簡単だ。バラバラじゃ生きていけないからだ。足の裏だけじゃ生きられない。耳の穴だけじゃ生きられない。肝臓だけじゃ生きられない。だから一つになってる。だからスイミーになってる。オレになってる。

何だよ。わかったよ。お前らはそれでいいだろ。でもじゃあオレは？オレはなんで必要だ?お前らだけで生きてけよ。お前らだけで生きられるだろ?オレはいらないだろ。勝手にスイミーにすんじゃねえ。

それも簡単だ。お前がスイミーをやったほうがもっと生きられるからだ。生命をもっと永く続けられるからだ。オレたちはそれで十分。生きていられりゃ十分。だからお前は好きにしろ。お前がスイミーだ。お前は好きに生きろ。

クソだ。くそ食らえだ。オレは生かされてる。勝手なことしやがって。勝手にオレを生かすんじゃねえ。好きに生きろだ？ふざけんな。お前らが生きたいだけだろ？勝手にオレを作って好きに生きろだと？永く生きていたいだと？オレはどうなる?社会の中で生きていくってのは大変なんだぞ。オレはどうなる?なんで苦しまなくちゃいけない。勝手に生きてるくせに。なんでオレがこんな思いをしないといけない。オレの意思じゃねえ。オレの意思があるのはオレの意思じゃねえ。勝手な話だ。笑えてくる。勝手なスイミー。ふざけやがって。でも分かったよ。やってやるよ。オレがスイミーなんだろ?お前らのスイミーなんだろ?分かったよ。分かった。だからどいつもこいつも長生きしろよ。オレが満足するまでスイミーを続けるぞ。

終わり