第8話・朝になってアレが大きくなった?〔当日〕辰砂とセシウム長い新婚旅行への旅立ち〔乗り物準備完了〕……結婚後も最強恋愛ラブラブモード「わくわく」「きゅん」【とりあえず完】

 市場でアンチモンのメチャクチャな転生超人プロレス技が炸裂した翌朝の、中ノ小国の宮殿──辰砂姫とセシウム王子は、宮殿の食堂で朝食のキノコの味噌スープ飲んでいた。


 木製のスプーンでスープの中からすくった、紫色の見たことがないキノコをセシウムはしばらく眺める。

「変わったキノコですね初めて見ました……でも、食べてみたら結構美味です」

 セシウムに続いて辰砂も、キノコを口に運ぶ。

 複雑そうな顔をしながら、紫色のキノコを食べて飲み込む辰砂。

「わたしには、あまり美味しくは感じませんでしたけれど……いったい、なんというキノコで……うぐッ⁉」

 辰砂が喉の辺り手で押さえ、苦しそうな表情をする。

 木製スプーンと、スープが入った木製の皿が床に落ちた。

 立ち上がって、よろめく辰砂は、首を横に振りながら少しでもセシウムから離れる仕種をする。


 パートナーの異変に驚き、椅子から立ち上がるセシウム。

「辰砂⁉」

「近づかないでください……体が熱い、なにかわたしの体。変です……早く逃げてください! オレに何も食べさせた! あのキノコは、いったいなんだ……うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 戦姫剣姫モードに変わった辰砂の体が、衣服と武具と一緒に巨大化していく。


 辰砂の頭が宮殿の天井を突き破り。

 身長・四十メートル

 体重・三万五千トン(推定)の巨人に変わった辰砂が暴れるたびに宮殿が崩壊していく。

「うわあぁぁぁぁぁぁ! キュンキュン」

 自我のコントロールができずに本能に命じられるままに、中ノ小国宮殿を破壊する辰砂。

 中庭に避難して巨人化してしまった姫を困惑した表情で見上げている王子の元に駆け寄ってきた。

 仙女と導師、それとアンチモンとテ・ルル。

 仙女が巨人化した辰砂を見上げながら、セシウムに質問する。

「いったい、これは? 何があったのですか?」

 セシウムは、木皿に残っていた紫色のキノコを仙女に見せて、味噌スープに入っていた具のキノコを食べた辰砂が急に巨人になった……と仙女に告げた。


 仙女が言った。

「これは、巨人化キノコ……誰が闇属性の者に、こんなモノを」

 導師が巨大な西洋剣を斜めに振り下ろして、宮殿の尖塔を辰砂が切断するのを見て小声で仙女に訊ねる。

「どうして、服と剣も一緒に巨大化しているのじゃ? 本当なら肉体だけが巨大化して、姫はスッポンポンになっているはずでは?」

 仙女は導師の疑問を無視した。


 仙女は少し離れた位置に立つ黒衣の人物を発見する。

「あれは……八咫やた一族が使う、傀儡くぐつ人形? どうして、傀儡がこの宮殿に?」

 黒衣の人物は、出したプラカードを苦悶の涙を流しながら暴れている巨大辰砂に向ける。

『素晴らしい実験結果だ……自我のコントロールができないようだな、今なら命じて操るコトができる……王子を捕まえて握り潰せ!』

 目だけを覗かせた黒衣の人物に命じられるままに、辰砂はセシウムをつかむ。

 無抵抗で愛する者に体を握られたセシウムは、その神秘的な瞳で辰砂を見つめて呟いた。

「どんな姿になっても、愛しています辰砂」

 辰砂のセシウムを握った手に力がこもる、少し苦しそうな表情をしながらも、微笑み続けるセシウム。


 黒衣の人物が二枚目のプラカードを取り出す。

『どうした、早く王子を握り潰して殺せ』

 涙を流しながぬら首を幾度も横に振る辰砂。

「がぁぁぁぁ! できない……愛するセシウムを握り殺すなんて、オレにはできません……あぁぁぁぁ」

『殺すんだ……早く』

 冷ややかな目で、黒衣の人物を見下ろしていた辰砂は、片足を上げて黒衣の人物に向かって踏み降ろした。


『うわあぁぁぁぁぁぁ! 違う、殺すのはオレじゃない!』

 辰砂の巨大な足が、黒衣の人物を虫を殺すように踏みつける。

 西洋剣を地面に突き刺して、セシウムを優しく胸元に抱く辰砂。

「愛しています……セシウム、王子さま……きゅんです」

 辰砂の体が縮みはじめ、数分後──横臥姿勢で目を閉じて横たわる辰砂の体を、優しく抱き締めるセシウムの姿があった。

「信じていました……辰砂……ワクワクです」

 セシウムの言葉に薄く目を開ける辰砂。

「セシウム……キュンです……んッんッんッ」

 辰砂とセシウムはルーティンのキスをする。


 導師が仙女に質問する。

「どうして、地面に刺した剣も姫が縮むと元のサイズにもどっている? どんな原理なんじゃ?」

 導師の疑問をガン無視した仙女の視線は、巨大化した辰砂に踏みつけられた黒衣の人物の方に向けられていた。

 

 地面の足型に、めり込んでいる黒衣人物の近くには、一羽の大ガラスが舞い降りてきてジッと眺めていた。

 やがて、黒衣をクチバシで剥ぎ取ると黒衣の下から壊れた木人が現れた。

 大ガラスの呟く声が聞こえてきた。

「所詮、傀儡の木偶でくだとこの程度か……情けない、生ゴミを油で炒めた臭いがする」

 大ガラスに三本目の足が生える。

 その姿を見て、仙女……東王母が離れた位置にいる三本足の大ガラスに向かって叫ぶ。

「やはり、あなたでしたか……八咫やた一族の王子『クロハツ』どうして、こんなコトを?」

 クロハツと東王母から呼ばれた大ガラスは、何も答えずに飛び去ってしまった。


  ◇◇◇◇◇◇


 次の日──セシウムが魂召喚した元転生者たちの魂が入った、大福人形の式神たちが。

 セシウムに、こき使われるままに破壊された宮殿の後片づけをしているのを。

 落下した大きめの天井の瓦礫がれきの上に並んで座った、セシウムと辰砂は眺めていた。

 式神の魂召喚転生者の大福人形の中には、メタボ体型の他にもヤセガリ体型や、女性型体型の者もいた。

 セシウムは、召喚したクズ転生者の魂人形たちを『シャチク』と名づけて呼んでいた。


 セシウムの肩に側頭を寄せた、辰砂がすまなそうな口調で呟く。

「ごめんなさい……わたし、とんでもないコトを」

「しかたがないです……辰砂は、何も悪くないです。変なキノコのせいで、自分をコントロールできなくなっていたから」

「でも……キュンキュン」

 突然、辰砂の髪が黒髪に変わり。恥じらいの表情になった辰砂が、慌ててセシウムから顔を赤らめて離れる。

 まるで、初恋の乙女のような初々しい表情の、辰砂の肩に触れようと手を伸ばすセシウム。

「きゃん、キュンキュンキュン」

 辰砂は、ビクッと体を震わせるとセシウムの指先を避ける。


 驚くセシウム。

「いったい、どうしたんですか? 今まであんなにイチャイチャ愛し合っていたのに?」

「わかりません……大好きなはずなのに、急に恥ずかしくなってしまって。わたしの体はどうなってしまったのでしょう?」


 辰砂とセシウムが困惑していると、轟音が聞こえ。

 車輪が付いた海賊船が、二人の近くに走ってきて停止した。

 海賊船の甲板から、海賊の船長のような格好をした男が、セシウムと辰砂を見下ろして言った。

「中ノ小国の宮殿はココで間違いないのか?   導師の注文した通りに陸を走れるように、車輪をつけた中古の海賊船を持ってきたのだが?」

 セシウムと辰砂がキョトンとしていると。

 壊れた宮殿とは別の場所で夜露をしのいでいた仙女、導師、アンチモン、テ・ルルの四人がやって来た。


 導師が陸上走行可能な、海賊船の船長に向かって片手を上げると。

 海賊船の側面の一部が外側に向かって倒れ、階段のような足場が現れた。

 階段を歩いて海賊船乗組員と船長が、ゾロゾロと降りてきて。

 船長が導師と、書類サインで中古海賊船引き渡しの手続きを済ませる。

「これで、この船は姫と王子のモノだ……大切に使ってくれよ。野郎ども、帰るぞ! 行きは船で帰りは徒歩だ」

「わくわく、きゅん」


 海賊たちが鼻歌を歌いながら帰っていくと、セシウムに近づいた導師が金色のカギをセシウムに手渡した。

「あの船の所有者を示すカギじゃ、師匠として旅立ちの準備でしてやれるのはここまでじゃ……船を走らせる動力は、底部に並んだ足ぎのペダルじゃ」


「導師、感謝します……陸と海は、これで大丈夫ですが。空の方は?」

 一歩、進み出てきた仙女が言った。

「そっちの方は、あたしがなんとかします……ちょうど、ピッタリの時刻に来たようです」

 仙女が指差した空の方向に目を向けると、銀色に輝く細長い東洋龍がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 銀色の龍が仙女の近くに着陸すると、仙女は龍の鼻先を撫でた。

 撫でられた銀龍は、嬉しそうに尻尾を振る。

 尻尾の先端には、剣のような鋭い突起があった。

 仙女が言った。

「ずいぶんと、大きく成長したモノです……市場で見つけて買った時には、手の平に乗るサイズだったのに」

 仙女の話しでは、銀色の龍は水銀龍で『水銀』と名づけられているらしかった。


「水銀も、小さい頃は可愛かったんですよ。成長するにしたがって飼うのが難しくなってしまって……仕方がないので、深山に連れて行って自然に帰しました……たびたび、山村が水銀に襲われたみたいですけれど」

 ペットを飼う資格がない最低の仙女だった。

 水銀の口から銀色の唾液が垂れて、背を向けた仙女の肩を濡らす。

 仙女が水銀に向かって言った。

「水銀、宇宙龍モード」

 仙女の言葉を受けた水銀が、海賊船の下部に巻き付き円盤状に変わる。

 水銀の四方向から炎が噴き出すと、海賊船は空中に浮かんだ。

「空を飛ぶ時は、こんな具合に円盤状になった水銀が海賊船を浮かせて運んでくれます……おやっ? どうしました姫? 髪が黒いですよ?」

「変なんです……セシウムのコトが大好きなはずなのに、触られたりすると恥ずかしくてビクッと体が反応してしまいます……愛しています、セシウム」


 初恋の乙女のような反応を示す辰砂を見て、仙女が言った。

「それは、おそらく巨人化キノコの副反応です。時々、その状態になりますが病気ではありません……初々しい気持ちで恋愛を楽しんでください、王子もこの状態になった時の姫をいたわって。初めての恋愛を楽しむような感じで、姫に合わせてください。この姫状態を『キュンキュンモード』と名づけましょう」

 理解してうなづくセシウム。

「わかりました、この状態の辰砂にも、ワクワクします」 


 正面からそっと、辰砂の両肩に触れるセシウム。

「あッ……キュンキュン」

 ビクッと体を震わせた辰砂は、桜色に顔を染めて横を向く……黒髪の時の辰砂は、恥じらいの乙女でまともに愛する人の顔を見れなかった。

「愛しています、辰砂」

「わたしも愛しています……セシウム」

 辰砂の髪色が赤い髪色にもどり、いつものイチャイチャモードに変わった辰砂はセシウムに抱きついて。

 唇を重ね舌を絡めてきた。

「あぁ……セシウム、んんッ」

「辰砂、んッんッ」


 濃厚な体位で抱きついて、イチャイチャしている辰砂の近くに巾着きんちゃく袋を置いて仙女が言った。

「その巾着袋の中には、巨人化キノコのエキスから作った飴が入っています……口の中でしゃぶっている間だけ辰砂は巨大化できます、その力で帝の追撃軍を蹴散らしてください……わたしからの長い新婚旅行へ出発する二人への餞別せんべつです」


 セシウムの体に両腕と片足で抱きついて、濃厚なディーブキスをしている辰砂を見て、導師が言った。

「それにしても、いろいろと、複合した状況になってきたものじゃ……世界を変えるほどの力を持った者には、このくらいの困難は当然と言ったところかのぅ……その長いキスが終わったら出発するのじゃ、宝の島を探す新婚旅行に」

 仙女が辰砂に訊ねる。

「船名はどうしますか? 名前が無い船は御霊は宿りません」

 セシウムから唇を一時的に離した辰砂が、吐息混じりに言った。


「はぁはぁ……『金平糖こんぺいとう号』はぁはぁ……んッんんッ」

「甘く美味しそうな、いい船名です」


 半日後──辰砂姫、セシウム王子、男従者のアンチモン、女従者のテ・ルル……そしてセシウムに、こき使われるシャチクたちが乗り込んだ金平糖号は、長い冒険の新婚旅行へと出発した。


 中ノ小国を流れる大河を下りはじめて、二日目──辰砂に月一回から二回やってくる吸精日が訪れた。

「すみません……また、あの日が来てしまいました。プラーナを吸わせてください」

「はい、どうぞ吸ってください」

 辰砂はセシウムの首筋に唇を近づけると、可視透過光の白いプラーナを吸収する。

 プラーナを吸い終わると、いきなり『キュンキュンモード』に変わった辰砂が恥じらい。

 すぐにラブラブの『イチャイチャモード』に変わった辰砂とセシウムが抱擁してイチャイチャする。

「愛にワクワクです」

「胸熱のキュンです」


 甲板の離れた場所から、姫と王子を眺めていたアンチモンとテ・ルルは、呆れ返って思わず肩をすくめた。


~とりあえずここで一旦〔完〕~コンテストに落ちたのでエタらせます

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吸血鬼で戦姫の姫は悪王子とラブラブな戦略結婚をさせられて……「それから」  楠本恵士 @67853-_-

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