第7話・朝になってアレが大きくなった?〔前日〕辰砂とセシウム長い新婚旅行への旅立ち〔乗り物準備中〕……結婚後も恋愛ラブラブは進行中

 雑貨屋の店主をジャイアントスイングで空の彼方へとふっ飛ばし、店主の知人をパイルドライバーで大地に沈めたアンチモンは、姫と王子の所に帰ってきた。


 辰砂とセシウムは、テ・ルルに監視されながら。

 キャベツが売り棚に並べられた野菜店の女性店主と、なにやら会話をしていた。

 セシウムが近くの家の屋根を、指差して言った。

「あの家の屋根にコウノトリが巣をつくっていますね……あの家には、もうすぐ子供が運ばれてきますね。ワクワクです」


 野菜売りの女性店主は、にこやかに微笑みながら首をかしげる。

「王子さま、よくご存じで……あの家に家族がもうすぐ増えるんですよ……運んでくる?」


 辰砂は棚に並べられたキャベツを、一個づつ撫でながら店主に質問する。

「どのキャベツに赤ちゃんが入っていますか? キャベツに耳を当てて心音を聴いてみてもいいですか……キュンです」

 辰砂の質問に、頬をピクピクさせながら店主は苦笑を浮かべる。


「キャベツから赤ちゃん? いったい何を言って、赤ちゃんは女性の……はっ⁉」

 テ・ルルとアンチモンの、睨む視線に気づいた店主は、咄嗟に言葉を濁す。

「そ、そうですね……赤ちゃんはキャベツの中から生まれてきますね。わたしの店で扱っているキャベツには赤ちゃんは入っていませんので」


 今度はセシウムが、店主に質問する。

「子供はコウノトリが運んでくるのではないのですか? 子供はどこから運ばれてくるのですか?」

「そ、そうですね……コウノトリに運ばるれてくる子供もいますね」

「どこから?」

「ええっと、あたしにも子供はいますけれど……実は子供が生まれてくるのは女の」


 テ・ルルが女性店主の顔に向けて、手の平を向ける。

 手の中央に亀裂が走り催眠目が現れた。

 テ・ルルが言った。

「すべて、忘れるデス」

 虚ろな視線に変わる店主。

「あぁぁぁッ」

 店主の脳内から消去されていく記憶。

 この瞬間、女性店主の子作りの知識はすべて頭の中から消え去った。


 市場で、姫と王子の一行がそんなこんなしていると。

 市場で買い物をしていた、仙女『東王母』と導師『序福』が現れた。

 仙女が言った。

「奇遇ですね、姫と王子も市場でお買い物ですか?」

 青年姿の導師の提げた編みカゴには、シャケサイズの『川ドラゴン』と、ハート形をした緑色の野菜『ズッキンーニ』が入っていた。


 食材を見たテ・ルルが仙女に訊ねる。

「『川ドラゴンとズッキンーニ』の煮込み料理デスか」

「そうよ、宮殿にもどってから調理しょうと思って……白身で淡白な川ドラゴンと、少し固めで煮込むと柔らかくなるズッキンーニとの相性は最高」

 食材が入ったカゴを提げた導師が、ポツリと呟く声が聞こえた。

「儂は熟して、オレンジ色になって割れた、柔らかいズッキンーニの方が好みなんだが」


 導師の呟きを無視して、仙女が辰砂とセシウムに訊ねた。

「ところで……辰砂姫とセシウム王子は、新婚旅行ハネムーンは?」

 首をかしげる辰砂。

「うふっ、なんですか新婚旅行って?」

 セシウムも不思議そうな顔をしている。

「新婚旅行……初めて聞きました、旅をするのですか? 新婚旅行とは何をする旅行なのですか?」

 仙女は肩をすくめる。

「新婚旅行を知らない? まだこの世界では浸透していませんか……新婚旅行とは、結婚した夫婦が行く初旅行で新婚初夜には新妻と新夫は二人で……はっ⁉」

 仙女が思わず、口を滑らせてしまったと思った時は遅かった。


 子作りのヒント阻止をしているアンチモンが、仙女の後方に移動して腰に腕を回したかと思うと、反り返り投げ技の。

『アンチモン式・連続後転ジャーマンスープレックス』で仙女の体を大地のマットに三回続けて叩きつけた。


 後頭部を地面に叩きつけられるたびに、仙女の口から、呻き声が漏れる。

「がっ、ごっ、ぜっ」

 転生超人プロレス技で大地のマットに沈んだ仙女に代わって、導師がしゃべる。

「仙女とも話し合ったのですが、姫と王子が中ノ小国にいる限り。帝の軍は東ノ国と西ノ国を越えて、中ノ小国に何度も侵攻してきます……ここは、姫と王子が国外に出られた方がよろしいかと」


 セシウムが金髪を風に揺らしながら言った。

「導師、わかりました……わたしたちも田畑が、帝軍の侵攻で荒らされるのは心が痛みます……その新婚旅行ハネムーンとやらに行きましょう。後学のために教えてください。新婚旅行に似た若い男女が行く旅行には他にナニがありますか?」


 少し考える仕種をする導師。

「そうじゃのぅ……若い男女が二人だけの旅行で思い浮かぶのは、卒業旅行かのぅ」

 辰砂が、導師に向かって無垢な笑みを浮かべながら質問する。

「うふっ……その卒業旅行で同じ部屋に泊まった男女は、ナニをするのですか?」

「男と女が一つの部屋で一夜を過ごすのなら、やることはアレに決まっておるだろう……アレじゃよ、アレ……はっ⁉」

 導師はテ・ルルの銃口が自分の方に向けられていると気づいて、慌てて誤魔化した。


「そのぅ、なんじゃ宿泊した若い男女が部屋で、夜にやるのはゲームや、しりとりじゃ……朝までゲームをして男女が楽しむのが卒業旅行じゃ」

「うふっ、ゲームですか。それは楽しそうですね……わたしたちが行く新婚旅行の乗り物は……大きなお船がいいですわ、セシウムはナニに乗って行きたいですか?」

「わたしは、辰砂が船を望むならそれでいいです。陸を走り空も飛ぶ船がいいですね」

「うふっ、わたしは一度、海賊船に乗ってみたいです」


 辰砂とセシウムの要望に導師は、頭を抱える。

「陸海空を移動できる海賊船じゃと? う~ん、わかった近日中に用意しよう……大帝カエン・ダケがこの数日間、何も仕掛けてこないのも不気味じゃからのぅ。早い段階で新婚旅行に出発した方がいいじゃろう」

 ここで、連続後転ジャーマンスープレックスのダメージから、回復して意識を取り戻した仙女が言った。

「長期の新婚旅行なら、旅の目標があった方がいいでしょう……この世界のどこかには、財宝だけでできた【宝の島】があると聞きます。それを探す旅はどうですか?」


 辰砂とセシウムが仙女の言葉に目を輝かせた。

「宝島探しですか、ワクワクします」

「わたしも、宝の島にキュンです」


  ◇◇◇◇◇◇


 市場で辰砂とセシウムが、宝島の話しに目を輝かせていたころ──大国の宮殿では大帝カエン・ダケの悪だくみが進行していた。

 玉座に座ったカエンの視線の先には、毒々しい紫色のキノコ入ったカゴを提げた。

 目だけを見せた黒衣の人物が立っていた。

 カエンが黒衣の人物に訊ねる。

「そのキノコが、話していた例のキノコか……それを、姫と王子に食べさせるのか? 食べたらどうなる?」

 目だけを覗かせた黒衣の人物は、足元の別のカゴに入ったプラカードのようなようなモノを大帝に向かって見せた、プラカードには文字が書いてあった。

『そうだ、本当に姫と王子を別れさせれば報酬をもらえるんだろうな?』


「あぁ、成功したらな……セシウムの野郎を亡き者にできたら、さらに倍の報酬をやろう」

 男がプラカードをひっくり返すと別の言葉が書いてあった。

『外道のクズ大帝……その約束忘れるなよ』

 炎のように、真っ赤になって怒るカエン。

「外道のクズ大帝とはなんだ! ケンカを売っているのか! どうして、オレと話そうとしないんだ喋れるだろう」

『クズの大帝とは直接喋りたくない……おまえの息は生ゴミを油で炒めたような臭いがする』

「ちくしょう、バカにしやがって……まぁいい、その毒キノコの名前と効力はなんだ?」


 男がプラカードの表面を一枚剥がすと、紫色キノコの名称と効力が示されていた。

『【巨人化キノコ】有毒、普通の人間が食すれば体が膨れて爆発する……光属性の者が食べれば体内で浄化されて無毒に変わる……闇属性の者が巨人化キノコを口にすれば』

 プラカードの裏側には、続きの言葉が描いてあった。

『いったいどうなるのか、ふふっ実験結果が楽しみだ』

 二枚目のプラカード。

『さて、今から中ノ小国に向かえば朝方には宮殿に到着するだろう……報酬を今から用意しておけ』 

 黒衣の人物が指笛を鳴らすと、宮殿の中に軽自動車サイズの大ガラスが侵入してきて、黒衣の人物をクチバシでくわえると宮殿から飛び去っていった。


 残されたプラカードを、カエンが片づけていると物陰から一部始終を見ていた若い女が物陰から出てきてカエンに言った。

「大帝もヤキが回ったチャ……あんな得体の知れない輩の力を借りるとは、情けないっチャ」


 デニムのショートパンツを穿き、黒いヒモパンが腰骨から見えているナイスボディな女性だった。

 ヘソ出しで、袖がない下乳のラインが覗く上着を着ている。

 活動的な服装女性の額には、赤い鉱石が埋まっていた。

「『賢者スライム』の、あたいだったらセシウム王子好みの女の顔になって男を誘惑して、簡単に別れさせるコトができるっチャ」


 そう言って、どんな人間にも変幻自在に化けられる、導師『序福』に恨みを抱く賢者スライム族の娘『ササコ』は、どんな女に変身してセシウム王子を誘惑して辰砂姫と不仲にさせようか……画策の笑みを浮かべた。

 カエン・ダケが言った。

「まだ、おまえが出るのは早い……それまで、多くの女の顔を粘着コピーして顔面変身できるバリエーションを増やしておけ」

「はいはい、わかったっチャ……あたいは、導師『序福』に一泡吹かせられれば、それでいいっチャ……出番が来るまで休んでいるっチャ」

 そう言うとササコは、額の鉱石以外。全身がスライム状にトロけて壁の隙間へと流れていった。

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