第44話 私は・・・嫌よ。
「私は・・・嫌よ。王妃にならなくてよかった・・・。義妹は、よく・・・。」
とラグエラが大きなため息をついたのは、王妃が公開出産を再開することにしたという話を聞いたからだった。
「僕たちには、求められていないから・・・。」
とちょっとずれたことを言ってしまった。北方と自分の領地を往復し、かつ王都に出向くのは、さらに疲れるが、そういうわけにはいかない。国王に、宰相たちに、議会に報告しなければならないからだ。それを怠ると、あらぬ疑いをかけられかねない。それは絶対に避けなければならない。
復興は、まあ、順調にいっているから報告は骨がさほど折れるものではない。ぺリアル大公家の墓が、代々国王のそれであったことが判明したことへの対応とか実施した事業の取り扱いとかは、根掘り葉掘り、ねちねちと、特に議会ではやられてしまった。
どちらでもいいではないか?彼らはもう死んだいるし、国王ではなかったのだから、そしてぺリアル大公家、王家に跡継ぎがない場合には王位に就く特別な家柄という、は消えてなくなったのだから。壊したり、改修するには費用がかかってもったいないし、領民の反発を誘発したりしたら面倒だ。それが半ば分かっていて質問やらしてくる連中がいるから面倒だ。
ぺリアル大公の数々の事業も、大半は軌道修正、縮小して継続させている。全てが立派に構成されたプロジェクトだった。ただ、かなり無理し、多額の助成金なしには、辺境領の財源だけではやっていけないし、現地のニーズにそぐわない、国の首都を置くための等々に必要だからやったというところがあった。それを修正した。秀吉達、義衛門、友五郎達、老農達たちがうまくやってくれた。一部を修正、一見縮小、かなりの部分を別の無理しない形にして、一部を農民に安価で売却または貸し付ける方法などで、ある程度のコスト削減と別の作物などの生産、使用する水の量の削減、肥料投入の節約が進んで、結果としては北方領事態でやっていけるようになった。表面的な、見た目の効率は下がったので、実際の効率は大幅に上がっているのだが、問題視された、何とか切り抜けたものの疲れた。
だから、
「建前などはいらない。私が、国が求めるものは、実利だけだ。」
と議会で声を張り上げた。おかげで、実利大公と綽名がついてしまった。
ただ、辺境領の統治が安定、短期間、2年間、のうちにできた。後は、国の正規の官僚、組織にゆだねるべきであり、その方向で進んでいる。今までは、非常事態で、軍事ということでのものだったから、我がセーレ大公家が担ったのだ。
ただ、秀吉達のような有為の人材を、セーレ大公家という小さなところに、閉じ込めていいのだろうかという問題があった。
政治的事情から、俺は旧ぺリアル大公領の占領統治司令官の地位から解任、政府から派遣される知事達(複数)が統治することとなった。現地に合わせた行政、立法、司法制度を各地毎に骨格を作っておいたから、その上に乗っかってやればいい。それでも人材難ということで、秀吉達は、俺から、俺の手元から出向という形で当面は、今までどおりの手腕を発揮してもらうこととなった。
当面はいい。その後はどうしようか? 国に出向・・・いや、国軍や行政府の中で手腕を発揮してもらった方がいいのではないか、もう俺の元から出した方がいいかもしれない。野心を秘めたような奴もいるし・・・。
と考えてやっていたら、
「私は、大公閣下の下で手腕が発揮できたのです。閣下以外の方の下では、自信がありません。」
だと。あの、俺は本当に何もやっていないんだけど・・・。
ちなみに、公開出産は、財政難対策の一環である。公開食事など、何のかんのといって希望者は多く、人数を制限したが、それでは不満が増大。ではと、特別枠、有料で、かなりの高額で、を設定したが、これまた、たちまち完売。特別枠の一部は抽選で無料、中流以下の一般市民を対象にしている。そんでもって、先代から、流石に負担が大きすぎると廃止になったそれを、アナフィエラ妃が復活させたのである。ある意味大した女だと、あらためて思った。
そして、当日は大盛況だった、いや大盛況すぎた。大広間が人で満杯となり、人息でみんな苦しくなるくらいだった。
「第一王女様のご誕生!」
と侍女頭が叫び、泣く赤子を高くかかげた。
「おー!」
「キャー!かわいい。」
「本当だ。」
かわいいかどうか、はまだわからないけど・・・、と広間の外で、俺は思ってしまったが、まあ、彼らには彼女のきれいな淑女姿が見えているのだろうな、と思い直した。
「きゃー!王妃様!」
アナフィエラ妃が気絶して、侍女達が慌てて叫び声をあげた。広間中騒然となった。
「アナフィエラ!」
ラグエラが泣かんがばかりに、連れていかれるアナフィエラ妃の後を追った。
「本当に心配したのよ~。」
「お、お姉さま!」
「わあ、可愛い。あなたに似て美人で、可愛くなるわよ。」
「嫌ですわ、お姉さま。」
侍女から姪っ子である第一王女を抱かせてもらい、喜び、感動、さっきまでの世界の終わりがくるかもしれないというような不安顔は消えて、ひたすら嬉しそうであるラグエラとその姉の姿に感動して涙さえ流す王妃、アナフィエラ。ああ、なんてほのぼのとした明るい、情景。ラグエラに寄り添い第一王女を顔をほころばせながら見つめ、ラグエラの連発する誉め言葉にいちいち頷く俺の頭の中には、"こいつがずっと前からこうだったら、この内戦は起きなかった、ぺリアル大公は野心を目覚めさせなかったんだよな。"と思いながら、"でも、それでは俺はラグエラを手に入れられなかったんだな。"とも思っていた。それでもよかったのかもしれないが、今の俺は耐えられない気がしてならなかった。
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