第41話 雑賀の罠は、開城の策は・・・

 王都周辺の兵力は、ぺリアル大公軍主力の敗北の報を受けて撤収を開始、主力といち早く合流し、ともに撤収した。我が領内の要塞を囲んでいた兵力も撤収を開始した、こちらも速やかだった。

 もちろん、王都の軍も、我が砦の軍も、俺の武市半平太、俺の宮本武蔵も兵を率いて追撃した。事前に準備していたのであろう。整然とした陣形で、待ち構えていた。ただし、こちらもそれを予想していた。両者とも整然と正面戦闘となった。

 ただ、こちらはそれを予想していた。殿軍を壊滅させることが第一目的、少数の騎兵で本隊を追撃、最後尾に食らいつき、多少の戦果を得られればいい、ほぼ本隊を逃がしても殿軍を壊滅させれれば、結果としてぺリアル大公軍の数を減らしたからよしとしていた。それに対して相手は、あくまでも相手に痛撃を与えて退却、必要ならまた踏みとどまって痛撃を与えるを繰り返すが、基本的には自分もできるだけ逃げおおせようとするつもりであり、こちらが十分予想して、準備していることも、戦術も知らなかった。

 だから、本隊を追おうと焦った攻撃はすることなく、直ぐに包囲し、じりじり攻めてくる武蔵や半平太の軍に、勇敢に戦ったものの、かえって焦り、混乱して、崩壊、壊滅された。武蔵達は、相手の本隊まで追撃することができた、それができるだけ速やかに、殿軍を壊滅できたということだった。ただ、本隊はほぼ無事にぺリアル大公に合流できたわけだから、予想以上の損害は得たが、退却はうまくいったといえよう。


 それら後方の軍と合流したぺリアル大公軍本隊への追撃戦だ。

 王都から兵を撤収したぺリアル大公軍は、俺の領地と北方の境あたりを流れる大河、ルビコン川を渡り、その対岸に殿軍を配置した。そして、ルビコン川を巨大な罠に作り替えていた。川のそこに、小さな壺を敷き詰めたのである。渡河しようとした国軍を中心とした追撃の軍が足を取られて乱れるところを、銃、弓、石弓、連弩等で狙い撃ちにして壊滅させようという作戦だった。雑賀攻めの織田軍の再来にするものだった。まあ、あれだけの壺を短時間で用意したことだけでも大したものだし、まあ、壊滅はしなくてもかなりの損害を与えることはできたろう。現に中央を進んだ国軍部隊は、彼らの目論見とおりになり、かなりの人数が弩の矢等で倒れている。

 しかし、右翼の俺の秀吉の部隊の索敵部隊が事前に発見、工兵隊がそれを排除、速やかに渡河できるように応急の橋を短時間の内に、銃砲の支援下でつくり、対岸のぺリアル大公軍、重砲でかなり損害を受けていた、を巧に渡河した部隊が壊滅、その後全部隊が渡河、横から他のぺリアル大公軍を攻撃、混乱させたため、中央、左翼も無事渡河して追撃を開始した。

 それなりの損害を与え、追撃速度を落としたという点では失敗ではなかったろう。雑賀軍の策は敵の領内で、事前偵察もままならない織田軍だからできたのであり、索敵隊も、工兵隊もあり、自分の領内で情報提供する者に事欠かない我が軍には通用はあまりしない。それでも、実行して、多少とも戦果を挙げたのだから、褒めてやらないといけない。


 そして、開城の策も。こちらも、追撃を確かに少しは遅らせたのだから成功なのかもしれない。

 砦の城門など進入できるところを開け放てば、しばし戸惑い、躊躇してしまうし、油断して安易に突入したところを伏兵に叩かれ大損害をだす恐れはある。しかし索敵、偵察を十分にし、それで無人だとわかる可能性が高いし、その後は慎重に接近、入城すればよいし、油断して入城するのを待ち構えているようであれば、戦闘体制で侵入すればいいだけのことだ。

 王都周辺、我が領の要塞からの撤退戦、ルビコン川での損害がたたったせいか、開城の策をとった砦は全て無人だった。捜索も含めた時間は、兵が立て籠っているが、無視して通過するよりもはるかにかかったから、その意味では策は成功したといえるだろう。国軍や我が軍の損害が出なかったのは、こちらとしてはありがたかったが。まあ、不安にかられた同士討ち、無駄な砲撃、それによる誤射による損害を期待したのかもしれないが、残念なことに皆無だった。事前の偵察が十分だった成果だし、俺の秀吉、義経、武蔵の判断、指揮が優れていたせいでもある。


 ちなみに、ぺリアル大公を慕って集まったとされる農民軍は、ぺリアル大公軍の撤退開始とともに、各地でぺリアル大公軍の工作員達とそれにつながっていた幹部達があっという間に袋叩き、リンチ、惨殺され、国軍に協力、情報提供からぺリアル大公軍の物資略奪、焼き討ちまでしてくれて、彼らが期待した国軍に対するゲリラ戦などはほとんどなかった。だから少数はあったわけだが、本物の農民達の半ばを惨殺し、ぺリアル大公軍の工作員とそれに結託する幹部が強制的に行わせたものだった。それも、簡単に鎮圧、所詮は周囲の支持を得られなかったからだ。ぺリアル大公の下に入った貴族達は、領民の支持を失ったり、本来の当主、ベリアル大公側に加わった連中は、かなりが簒奪した者がいた、が復帰して、加わっていた貴族達は自らの領民達により処刑されることが多かった。


 それでも、無事ぺリアル大公とその軍は北方領に逃げ込むことができた。



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