第40話 俺のワーテムロー②

 突撃ラッパとともに一気に突撃するこちらの左翼、中央の軍に、ぺリアル大公軍は陣形を崩さず、押されながらも、整然と抵抗をし続けた。さらに、突然現れた騎兵隊の馬の左右に結わえられて火砲、槍隊の槍の穂先につけられた短銃、盾隊の盾から突き出た銃の一斉射撃で、こちらが怯みかける場面すらあった。国王軍も、ファーレ大公軍の将兵もそれで崩れず、突撃していくところはさすがだった。

 その間も、我が右翼の軍は、じりじり、着実に、速度を速めながら、進んでいった。いたるところに配された罠も障害物も、伏兵も着実に潰していった。対左翼、中央のそれは、狙撃銃、野砲などで、その何人かを死傷させ、一部を破壊することで、期待しただろう効果を半減以下にした。追撃の勢いがます左翼、中央軍、それを支援しながら、押しとどめるものなく進んでいる我が右翼に、次第に総崩れの様相を見せ始めた。そして、結果としてぺリアル大公軍の総崩れが始まった。ただし、ぺリアル大公とその本隊は、無事に退却していったのは流石ではある。


 味方の死者、遺体も目に付いた。進めば進むほど死者の比率は、敵側の方がどんどん高くなっていったが。全てこちらに向って倒れていた・・・ということはなかった、そういう死体も確かに多かったが。うつぶせになり、背中を撃たれて、斬られて、突きさされて倒れている死体ももっともっと多数あった。捕虜も多数を得たし、負傷者も多数収容した。捕獲品は兵器から食糧まで多数、大量に得た。

「珍奇な、派手な、驚かせるような、面白いものが多いですな。」

 俺のからくり義衛門が、技術者の顔でつぶやいた。

「我が軍の・・・あんたのに比べれば、旧式兵器にすぎんよ。そうですよね、大公閣下。」

「少なくとも、私はこいつで戦いたくないですね、今の装備を捨てて。大公閣下はどうですか?」

と俺の秀吉と義経が俺に振ってきた。俺も、同感そのものだった。

「来たか。」

 俺の視野に、ぺリアル大公軍の援軍1万弱を壊滅させた俺の中岡慎太郎が部隊を率いて近づいてきた。本隊が総崩れしかけて撤退するのを見て、攻めあぐね、逆襲され崩れかけていたところで動揺が累乗で広がって、たちまちのうちに崩壊、中岡慎太郎は追撃し、壊滅してくれた。


「アナフィエラ・・・王妃殿下。よくご無事で。遅くなって申し訳ありません。」

「お義姉様。今だけは、妹のアナフィエラとして・・・。お義姉様こそ、よくご無事で・・・。信じていました。きっと、王都を解放してくれると。」

「アナフィエラ。あなたこそ、王都を、よく守ってくれました。よく耐えてくれました。やはり私の時自慢の妹だと誇りに思います。」

「お義姉様こそ、私の自慢のお義姉様ですわ。」

 抱き合い、涙ぐむ異母姉妹、ラグエラとアナフィエラ。感動的な場面だね。王宮での場面。つまり、俺達は、王都に進撃、王都を解放したのである。

「でも、戦場で体を・・・臭ってしまっているでしょう?あなたまで、臭くなってしまうわ?」

「私こそ、王都の給排水が断たれがちで、ここしばらく私も将兵たちと共におりましたし・・・体を・・・。お義姉様の体を汚してしまって申し訳ありません。」

「あなたが謝る必要はないのよ。あなたは私の可愛い義妹ですもの。」

「お義姉様。」

 自分は臭い臭いと言いながら、抱きしめ合って離れようとしない二人に、国王陛下とともに苦笑いしながら、俺の武市半平太の報告を聞いた俺は、

「王宮の給排水も完全復帰したとのことですから、風呂にお入りになってはどうですか?」

と提案してやった。

「そうですわ。私に、お義姉の体を洗わせて下さい。」

「私が洗ってあげるわよ。」

「では、洗いっこしましょう。」

「そうね、それもいいわね。初めてね。」

 それからもしばらくは離れなかった二人を、侍女達にせっつかれて風呂に連れ立って行かせた。

「女性士官達も、先に体を洗わせた方がいいですな。」

 ファーラ大公が、いつの間にか来て、大笑いした。この爺さんは、本当に元気な年寄りだ、とつくづく思ったが、

「そうですね。そのように指示し、準備させましょう。国王陛下から、労うことで、そのことをお言葉でいただくと女達も、喜ぶかと。」

とおれが言ったので、国王陛下、ミカエル陛下は慌てて、

「そ、そうだな。すぐに・・・いつでもいいが。」

 まあ、本当に天使のような顔で言うね、本心だと悪友の俺はわかるが、つくづく神は二物を与えないな、その典型だと思ってしまった。いや、アナフィエラの助言を何のかんのといって、ぶれずに実行しただけでも、大したことかもしれないな、と思った。分かっていて俺なんか・・・と思ってしまった。


 王都とその周辺雄編からぺリアル大公軍を一掃した後でのことだった。


 ぺリアル大公達がこのまま王都周辺地域を放棄し、そのまま本拠地にむけて撤退するつもりかはわからなかった。ひたすら追撃を阻むために策をろうしているのか、どこかで食い止め、反撃して、壊滅させ、押し戻し、劣勢を挽回し、戦況を挽回してしまおうとしているのか、どちらかはわからない。前者なら多少は成功したろうが、後者であれば完全に失敗した・・・と思う。少なくとも、対峙していた部隊は壊滅したのであるから。

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