第38話 俺の奉天会戦②

 近代戦では考えられないが、俺は本陣で自ら銃を持って、相手側に射撃を繰り返していた。ラグエラは、震え、多分ちびりながらも、弾込して銃を俺に渡したり、自らも射撃した。う~ん、中々様になっているな、と見とれてしまった。

 つまりだ、俺達のいるところまで、攻め込まれてしまったのだ。損害を恐れず、騎兵隊が突撃してきた。装甲騎兵を先頭にして向かってきて、装甲騎兵の大半が倒れたものの、間近まで接近できた時点で本隊、精鋭の騎兵隊が突入してきた。歩兵隊は槍隊も懸命に守ったが、侵入を許してしまった。その先頭が、俺の目の前まできたのである。俺が死ねば、ここは崩れる。退いても同様だろう。


 先頭にいるのは・・・女の騎兵将校?それが三人?ぺリアル大公軍の108人の勇者のうちの3姉妹ともう一人の女、女戦士4天王だったけ?我が銃隊の射撃で数を減らしつつも、肉薄してきた。立ちはだかり、俺を守ろうとした槍隊が彼女らの馬の脇につけられた砲の放った砲弾で崩された。大きな、力強い名馬、一回り大きな砲をつけていた結果だ。俺は、大型短銃を左手に、右手で剣を抜き、ラグエラを背にして・・・一騎打ちなんて時代遅れだよ、なんて言っている場合ではない。確実にやられる・・・とにかく一発放って・・・。銃弾は命中した、彼女の盾になった騎兵を落馬させた。彼女の馬が目の前に・・・わー、やっぱり俺は死ぬの?モブ以下から主人公クラスというか、悪役幹部クラスまできたけど、結局は主人公の辺境大公に、悪役令嬢ごと殺されるの?嫌だよ~。と心の中で泣き叫んだ時、やってきていた、俺の巴が。

 彼女の槍が振り下ろされるのを何とか、剣で防いだが、それで限界だった。"あれ、なかなかやるじゃない? 私の一撃をしのいだのは、そんなにいないよ。"と余裕の笑みを浮かべやがった。まあ、一応称賛何だろうが、それがまた、憎たらしい。次は確実にやられる、腕が痺れて動かなかったからだ、剣を握って、落とさないだけで精一杯だった。後ろでラグエラが、慌てて短銃の弾込めをしていたが間に合わない、彼女の次の一撃は速すぎた。が、二撃目は 来なかった。


 代わりに、彼女の首が落ちた。そして、彼女の首無し胴体から血が噴き出し、しばらくして馬から落ちた。攻めかかる我が軍兵士相手に奮戦していた3人の女達とそれに続く騎馬兵達が一瞬呆然とした、それを見て。

「ひ、卑怯者!」

「お姉さまの仇!」

「糞女!」

と我に返った3女達が馬を駆けさして、俺の巴に襲いかかろうとした。

バキューン!なんか、どういうわけか間抜けな轟音を、俺が引き金を引いた短銃は発した。ラグエラが弾込めした短銃を俺に手渡し、すかさず俺が3人の一人を狙って引き金を引いたのだ。肩に命中、甲冑で大きな傷は与えられなかったようだが、動きを止めることができた。続けて巴の短銃が火を噴いた。一人が落馬しかけた。

「つくづく卑怯者だな。ブス女!」

と迫った女だが、

「あんたの方がブスで、胸無しくびれ無しの不細工でしょうが!」

 ラグエラの、俺の後ろから、しかも隠れるようにしてだ、罵声を受けた。彼女の罵倒に反論することなく、2合まで槍を叩きあったが、三合目に巴の槍が首に突き刺さり、どっと馬から落ちた。その間に俺は自分の短銃の弾込めをして、引き金を引いた。一人の首が飛んだ直後に、何とか槍を構えた女に命中、今度は深手を負わせた。すかさず巴が止めを刺した。流石に、動揺する残りの騎馬隊は、それでも戦い続けたが、我が将兵に包囲され、銃撃で大半が落馬し、槍隊に突き刺された。騎馬隊は壊滅、銃砲の支援を受けたこちらの反撃に、対峙するぺリアル大公軍は、強い抵抗は出来なくなっていた。そして、この方面の軍の銃砲弾が既に枯渇、銃砲は沈黙してしまった。右翼は、完全に制したと実感できた。一騎打ちの時代ではないが、一騎打ちの勝利のおかげで、勝ちをつかみかけている。喜んでいいのやら・・・。

 

 左翼が後退しはじめ、要の野戦陣地、こちらの野戦陣地とは異なり、主に鉄板で覆った馬車などを並べて防御施設としているのだが、銃砲で援護された部隊が接近、陣地を素早く作って手榴弾を投げ込み、迫撃砲モドキで砲弾を撃ち込んで、崩壊寸前にまで持ち込んでいた。

 それは相手にも分かった。中央の一隊が、その陣地を救おうと突進してきた。だが、既に二重三重の包囲網からの一斉射撃でその一隊は、陣頭指揮の指揮官が戦死して退散、さらに、かなりの騎兵隊が突進してきたが、敵左翼の後方を完全に蹂躙し、その自慢の騎兵隊を壊滅させた俺の義経の部隊が、後方から襲撃。しょせん、俺の義経と比較すれば、変幻自在に上手く馬を操れるだけの騎馬隊でしかない。見る間に、圧倒されていった。俺の秀吉は、敵陣だったところに、俺が気が付いて驚いたくらいに、堅固な防御陣地をいくつも構築、しかもネットワーク的に、そしてそこから、次々に広がり、前進していった。


 完全に乃木軍が、ロシア軍を蹴散らして、包囲するように回り込んだ、それが俺にも実感できた。クロパトキンは、誰が見ても後退、素早く撤退するのが得策だと認める状況になった。会戦10日目にして、勝利までもう一歩のところまできた。


 その時だった。ぺリアル大公軍の後方に、そして、俺の軍の右方向に約1万の軍が現れた。ワーテムローのプロイセン軍か?う~ん、ナポレオンでもあるのか俺は・・・どうなる?まあ、一応用意はしてある・・・予想もできていたから・・・。

 



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