第37話 俺の奉天会戦
俺にとってのロシア軍は、兵力上の優越はなし、銃砲の数、その弾薬、野戦陣地の堅固さはこちらと比べてかなり劣っている。騎兵も、認識していないようだが、こちらの方が質量ともに、こちらに比べて劣勢だ。陣地戦に必要な手榴弾、迫撃砲・擲弾筒モドキはこちら側だけに大量にあるが、あっちは全く保有していない。俺が日本軍でぺリアル大公軍がロシア軍、という根拠はどこにもないが、自分を負ける方にしなければならない理由もないだろう。
勝てる・・・、しかし、こちらにも弱みはある。
寄せ集めである、ということだ、最大の弱みだ。兵の大半は、各地から集まった国軍各部隊である。それを束ねる総司令官が任命されていない。我がセーレ大公軍は、その中の一部でしかない。ファーレ大公家軍の方が、多いくらいだ。それで、誰が大将かでもめた。国軍内部ですらまとまらなかったのだ。
「ここはファーレ大公閣下が総司令官とし、次席として国軍のハゲンティ将軍(こいつが一番ベテランだったし、まあまあ有能だった)ということでよろしいのでは。」
一番の功労者であるセーレ大公軍の当主の俺が言う、しかも、自分を殺しての発言だから、まあ、説得力があるというのでまとまったわけだ。
後は、ぺリアル大公がクロパトキンではないこと、ここにこちらには大山巌も児玉源太郎もいないことだ。いや、俺の秀吉が俺の下にいるから、児玉はいるということでいいか。
俺が乃木大将の任以上やれるか?ということかな?人品高潔さでははるかに劣るし、悪知恵はそれを挽回してはくれない。ここの世界にない知恵をもつているということがどこまで・・・。というところか。何故、俺を乃木大将に?それは、ぺリアル大公軍の主力が俺、セーレ大公軍の布陣する右翼に主力をぶつけているからである。奉天会戦の乃木軍の立場にいるのである、俺の軍は。クロパトキンの弱さを持たないぺリアル大公を破るには、乃木軍をはるかに上回る奮戦、前進を、敵への打撃を与えなければならないからだ、猛攻を仕掛けてきているぺリアル大公軍の左翼を壊滅させるくらいでなければならないからだ。
まあ、「坂の上の雲」からの発想にすぎないのだが、本当に底が浅い奴だと思うね、我ながら。中央、左翼は何とか維持しているのは、俺でもよくわかる。だから、あながち、俺が乃木大将に自分をなぞらえるのもおかしくはないだろう。とにかく、外面的にでも平静、泰然自若・・・を装うしかしかないな。ラグエラが震えるのを抑えるために、俺に寄り添って、手をしっかり握っているのだから、そのくらいはしないとな。それに、俺には秀吉も義経もいる。あ、からくり義衛門も小野友五郎も武器の調整や修理、陣地の構築、計測、風向き、天候観測に走り回っていてくれてる。あいつらにまかせるほかない、頼り切っている俺には、これしかないんだよな。
俺の指揮下にある兵力は3万人弱、セーレ大公家、北方、王都の戦線に投入している分を除いた総力と南部戦線でセーレ軍とともに戦ってきた国軍である。彼らは、セーレ大公の下で戦いたいなんて言ってくれ、ここでもともに戦っている。まあ、長くいて気心がかえって知れているというところだろう。おっと、もう一つ、少数だが、義勇軍が加わっている。
「お前のおかげだよ、アン。ここまで、してもらって・・・・悪いと思っているよ。」
脇にたつダルタリ男爵ことアンに、俺は礼をいった。
「今頃遅いよ、ラミエル。」
と苦笑した彼は、数百人の私兵、領民、傭兵、さらに少数ながら正真正銘の義勇兵達を率いて参加してくれたのだ。だが、彼の貢献は食糧弾薬の確保が大きかった。男爵家の事業を利用した彼の手腕は、大したものだった。
「そのうち、少しでも返してもらいますよ。」
「もちろん・・・ある程度は返すよ。」
「もう・・・まあ、とにかく今勝たないとどうにもなりませんからね。」
「そうだな。」
俺達は、両軍ともに総勢30万人近くの兵の大会戦を見ながら、笑いあった。周辺諸国の援軍もぺリアル大公軍には加わっているが、さほど寄せ集めとは思えない統率が取れていた。ぺリアル大公ならではである、といえるだろう。このクロパトキンとは異なる奴の存在と大山巌なきわが軍という状況が、俺の奉天会戦での俺にとっての日本軍の最大の不安材料だった。
堅固な野戦陣地を素早く構築したわが軍に対して、装甲騎兵と亀甲車(手押し車)を先頭にぺリアル大公軍の 主力が襲い掛かってきた。あ、外国軍の精鋭部隊も加わっている。我が銃砲弾により、損害が増える中、彼らの攻撃は執拗に続いた。質量ともに上回る銃砲だが、火打石銃等、ドイツ30年戦争のスウェーデン軍水準プラス(プラスは俺のからくり義衛門の存在のおかげだが)でしかない。考えてみると、これが第二の不安材料だ。28㎝砲もないし、35式歩兵銃もマキシム機関銃もないのだ。榴弾も初歩的なものしかないのだ。
それでも、
「放て!」
との一斉射撃で次々にぺリアル大公軍の突撃を撃退していた。 しかし、彼もまた、こちらに火砲をはじめ強力な長距離攻撃のための兵器をかなりまわして、突撃の支援を行っていた。それに、こちらも進まなけれはならない。少しずつ陣地を、突撃する敵軍を撃退して確保した場所に進出して、銃砲隊、槍隊などの支援の下で陣地を構築する。相手の陣地、仮設防御施設、鉄板張りの馬車の近くまで進出すると、手榴弾、迫撃砲モドキで破壊、銃砲の支援の下で歩兵隊が突入、占拠又は破壊し、すかさず陣地構築…を繰り返した。言うだけなら簡単だが、時には押し返されることもあった。
そして、猛攻で最早駄目かと思える時も来た。ここを凌げば、と思うものの、分かっているものの。
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