第35話 大会戦直前

 俺の目の前には、ぺリアル大公軍の、外国軍も加わった15万の大軍が展開していた。

「奉天会戦かな、俺の・・・いや・・・。」

 俺は、口を開けて前方を見ている、俺の隣に寄り添って立つラグエラの顔を見て、思い出すものがあった。え~と、織田信長率いる大軍を前にした雑賀孫一は、念仏を唱えるんだったよな。俺も前世では、浄土真宗本願寺派であり・・・、まあ同時に曹洞宗なんだが・・・。その戦いに勝っても、結局は敗れる側なんだよな。それに、このパターンなら、ラグエラがなんか唱えなければならないんだよな。原作では、よく軍を鼓舞していたけど、何したっけ?

「私達一人ひとりの心に神様がいます。」

とか言った回もあったな。こんなこと言ったら、異端だ、多神教徒なんて言われちゃうんだよな。作者の宗教的井の中の蛙頭・・・。もともと、そんな大演技する女じゃないんだよな、この可愛い女は。でも、この開いた口はどうしたものかな、少しみっともない・・・これはこれで可愛いけど、誰にも見せたくないしな。


「い、いきなり何するんですか。」

 俺は、彼女を抱きしめて唇を重ねた。

「勝利のキス。」

「もう~。」

 周囲から、やんやの喝采を受けながら、長い口付けを俺達はすることになった。あ、こんな場面もあったな・・・喝采だけか、勝って帰った時か、抱きしめてもいなかったか?まあ、どちらでもいい、こいつを抱いていたのはぺリアル大公だしな。もちろん、勝って帰ったら抱きしめてやるけど

「皆、勝つぞ!」


 開戦から一年以上、王都が包囲されてから一年近くたっていた。ここで、双方は、互いの命運をかけた決戦をすることになったのである。ベリアル大公側は一気に形勢を挽回するために、こちらは一気に優勢を確保し、王都を解放することを目的として。一つの戦いで命運をかけるのは、愚策中の愚策であるが、こうなってしまった以上やむを得ない。


 この一年以上の間に戦いは大きく動いたともいえるし、膠着しているとも言えた。


 南部の、俺が陣頭指揮をすることになった海陸の戦線では、

「こ、この俺が、か、海賊王の俺が、こんな屈辱を!こんな若造に・・・。」

と天に向かって叫び、俺を罵った、自称海賊王、大海賊の頭目ではあるハゲンを、

「それが戦いの定め、常というものです。」

こいつの愛人らの前で、絞首刑にしてやった。国家に属さない、海賊という無政府の武装集団には軍人に対する待遇など与える必要はないということだった。そういう習慣であり、誰も反対しなかった、というより皆の主張に従っただけである。しかも、こいつらの捕虜、国民に対する態度を考えれば、我が軍、我が国民の手前、これでも温情的な行為でしかない。海賊船は、所詮、商船の転用であるから、既に専門の軍艦との戦いでは勝ち目はないのである、我が国の海軍の諸軍艦に対しては。

 それは、ヴァル大公の海軍も、援軍のアザゼル共和国軍艦隊も同様だった。かつての栄光と交易の利益から離れられなかったのだ。それに、平時にも多数を保有していることが可能で、戦時に大砲を積み込み、平時でも大砲はある程度積んでいたが、活用できる、しかも数が多い。目が眩んでいたのだ、

 大砲の性能も一歩遅れをとっていたから、数は多いが、船体はでかいが、我が家の艦隊と王国主力艦隊に、最終的に、乗組員の練度では一歩優っていたが、敗北したのだ。戦うにつれて、こちらも経験、練度があがったしね。

 ヴァル大公は、

「我が死を隠せ。」

と言って、死体を盾で隠すことになっている、原作では。

 原作では、ペリアル大公の友人として、盟友として語られ、制海権を掌握する海戦での勝利の立役者の、悲劇的かつ、英雄的最後として熱く語られているが。大海賊、海賊王?ハゲンは、彼の遺体を抱いて泣き崩れているけどね。そういえば、ハゲンは原作では女だったけ?勝利した海戦で戦死したのは・・・狙撃されて・・・「我が死隠しなさい・・・。」・・・こいつはネルソンか?

 艦隊の大半を失い、各地で上陸作戦を実施したものの、その全てが壊滅、拠点を守る兵員すら不足し、領地に侵攻した我が軍と国王軍に抗することはできず、いやわが軍だけだったとしても抗することはできなかったろう、逃走、外国に亡命するしかなかった、ここでは。

 その後、小艦隊を率いて、後方襲撃を何度か仕掛けてきたが、全て失敗、艦隊の殆どを失った。もはや、南部はこちら側が掌握している。


 そして、西部、東部戦線だ。どちらも、こちら側が掌握している。

 ココスの要塞は突破できず、迂回路を進んだ部隊は、ララウロスの部隊が、ここかと思えばまたまたあちら、少数と思えば大軍、後方を寸断したかと思えば、夜襲などの奇襲をかけて来ると思えば、正攻法で正面から攻撃をかけて来る、攻撃して逃げるかと思えば、いつの間にか目の前に防御陣地を構築して持久戦をしかけてくるで、翻弄され、半ばは壊滅か潰走、その他は補給を失い、食糧も武器・弾薬も尽き、身動きが取れなくなっていた。そこで戦っていたと思うと、本隊の後方に襲撃をかけて来る。ブブゼブブ軍の名参謀の夢幻の陣で翻弄させようとしたが、気が付くと逆に、いつの間にか目の前に迫っていて、退却、追撃されてほぼ壊滅。名参謀他多数が戦死という状況になっていた。そうこうするうちに、体制をようやく整えた国軍が進撃。迎え撃とうと兵を進めたものの、ララウロスに翻弄されているうちに、我が王国軍が迫っていて、陣形わ整える間もなく、遭遇線になり、潰走せざるを得なかった。

 西方では、ルシフェル王国軍は、完全にアルフスの防御陣地、砦の防御網に阻止、迂回路を取ろうにも、道なきところに道を作って進んだ先に、野戦陣地や砦がいつの間にか出現していて、せっかく作った道ともども部隊が全滅。気が付くと、物資補給がとぼしくなっており、補給線が寸断されていたこと以上に、その以前から物資がルシフェル王国で不足しているという状態だったこともある。アルフスがルシフェル王国の事情を利用して、それを促進させていたこともある。そして、ファーゴ大公軍が進行、しばらくして王国軍が合流。ルシフェル王国軍は気が付くと包囲されていて、あわてて後退するところを追撃、壊滅されてしまった。アルフスは素早く、ファーゴ大公軍、王国軍と提携、この地域を固めた。その結果、彼の手腕のおかげで今の兵力、武器弾薬糧食が確保され、ぺリアル大公軍と対峙することができているのである。

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