第34話 俺の中岡慎太郎は・・・。

 一人の旅人が、夜の大通りを歩いていた。

「誰ですか?つまらない旅の、外国人に何か御用ですか?多分人違いだと思いますよ。」

と男は振り返って、語りかけた。3人の男女が散会して得物を構えて、対峙していた。彼は、自分の後ろに二人身構えているだろう殺気を感じた。彼らが返事をしないだろうと考えた彼の行動は、まずは懐の2丁の銃を素早く抜いて、彼らに向けて発砲することだった。火打石がカチンとなり、その火花が火薬に引火、火薬が爆発して、銃弾が放たれた。二人が倒れた。もちろん彼らは、避けるために素早く動いた。が、その動きの先に銃弾が飛んできたのだ。単発銃である。弾と火薬を込めなければ後はない。キラリン、と大きな針が月光に光り、飛んできた。素早く抜いた剣が、それを叩き落とした。細い金属の紐のような物が迫り、女が弦楽器の撥をかざして素早く接近していた。肉体を簡単に切るだろう紐のようなもの、蛇のような動きさえしたが、を避けて、女の撥、これも急所に当たれば致命傷ななったろう、が迫る一瞬前に女の腕を斬り、詰めてきた男二人を一人を蹴り飛ばし、もう一人を下からから斬り上げた。血を流してうずくまったが、すぐに立ち上がってこようとした女をすかさずけり倒し、胸を後で踏みつぶした。一瞬見た女の顔は、もう老いを感じる中年の魅力もないそれだった。後から知ったが、魅力的な女だと自称していたらしい。

 彼の最初の銃弾で倒れた男がうめき声をあげていた。ルシフエル王国の中央治安機関の役人である。名前など知られていない男だから、ラミエルが俺の中岡慎太郎と呼ぶ、ヴェイゼンももちろん知らない。もう一人は、大柄な女で、怪力で有名な奴か、とヴェイゼンは思っただけだった。

「そちらはどうだ?」

 5人に止めをさしながら、ヴェイゼンが声をあげた。

「二人。」

「殺したわ。そちらの、殺しを仕事にする集団とは違って、ペリアル大公の特殊部隊だったよ。」

 声だけが聞こえた。ラミエルが、彼の護衛としてつけた特殊部隊の人間達だ。彼は、彼はペリアル大公と提携、同盟した国々、傍観している国々をまわり、親ペリアル大公派を切り崩し、味方を増やそうと、時には正規の外交ルートに乗り、時には非公式ルートで東奔西走していた。どれだけ移動したのか、こんなに歩いたのか、後の時代に、

「5人のヴェイゼンの真実」

と本当は5人いたとされたりするが、一人であり、一人の彼が東奔西走していたのである。

「これからどこへ?」

「このまま真っ直ぐ、我が国に入り、ルシフエル王国軍に直接働きかける。」

 もちろん、陣頭指揮のルシフエル王国国王に直接会いにいくものではない。多少とも、繋がりがある相手のところに行って大いに説くつもりであるが、最終的にはルシフエル王国国王にも説ければいいとは思っていたが。

 構築されたペリアル大公との提携・同盟関係は、どこも強固だった。多少しか崩せなかった、多少は崩したのだ、ヴェイゼンは。

「しかし、危険では?」

「敢えて行かねば、何も生まれない。私が死んでも、10人でも、兵力が減れば本望さ。」

 彼は笑った。それ以上、声はなかった。

 彼の弁舌、熱意、そして誠実さ、彼の東奔西走ぶりには、あまりにも、その成果は見合わなかったが、親ニベルヘイム王国、反ペリアル大公、即時撤兵・休戦派が声をあげるようになったのである。

「大法螺吹きの小男に、踊らされ、始末もつけられないとは!」

 ヴェイゼンは小男ではないが、アムドゥが悔しがるのを、

「お前の1,000分1の連中の中の一人だ。それに、何も変わっていない。気にするな。」

となだめる、実際に気にしていないペリアル大公。アムドゥも、不安を感じてはいなかったが、ほんのすこしでも、彼女の主への支持が減るのが許せないという気持ちなだけだった。


「効果があがっているの?」

 ヴェイゼンの報告を一緒に読みながら、不安に震えるラグエラに、

「零が1になったんだよ。その分有利になったんだよ。1%でも、2%でも勝つ可能性が高くなっているんだよ。」

とラミエルは力説した。それでも心配そうに、彼にしがみつくラグエラにキスするラミエルだったが、

“原作では、反対する者も、消極的になるものもいなかったんだから、大成功さ。”と心の中で自分に言いきかせるように叫んでいた。

“あ、一度あったか?でも、この女の鶴の一言で収まったんだよな。本当にできたのかな?”

「いやだ、こんなところで。」

 突然、抱きすくめられたラグエラは口では言ったが、かといって抵抗することもなく、ラミエルに身を直ぐにゆだねた。その気持の良い感触と彼女の匂いに、ラミエルは止まらなくなり、彼の熱くなった体温にラグエラも…。そのまま流れに身をまかせるように、唇を重ね、舌を絡ませあい、唾液が溢れて流れおちていった。争うように衣服をはだけさせ、手を互いに差し入れて・・・、二人は激しく動き、ラグエラは喘ぎ、その姿を楽しむラミエル・・・。

 すがりつくようにして寝息をたてているラグエラを眺めながら、

「可愛いな、本当に。こいつを幸せにしてやらないとな。俺と一蓮托生だがな。俺は悪党だな・・・本当に。でも、こういうこいつをぺリアルは知らなかったろうな・・・こいつ自身も知らなかった?こつちの方が幸せだよな・・・そうだよな?」

 ラミエルは考えていた。

 翌日、昨夜のことを知らぬ顔で、二人は軍の陣頭指揮で馬上にあった。


ちなみに、ラミエルには、俺の坂本龍馬と呼ぶ者はいない。彼が坂本龍馬を評価していないからである。ただ、ぺリアル大公のそばに侍る、

「ぺリアル大公のために、世界に雄飛する。」

と盛んに口にする男を、

「この世界の坂本龍馬か。」

と軽蔑しきった調子で言っているだけだった。



 


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