第33話 俺の武市半平太?

「ペリアル大公は、陛下のご子息を王太子に定められたのですよ。陛下の御血筋を、王家の血筋を残そう、守ろうというお考え。その聖人のような態度に、陛下がお応えになられる時です。恭順の意を示し、セーレ大公を処分される時は、今しかありません!国のために、御決断を!」

 ペリアル大公は、民衆の推挙を何度も固辞した末に、国王への即位に同意、即位し、愛人達を王妃として、王太子に何と、ミカエルとアナフィエラの間の子供を王太子としていたのである。

 国王であるミカエルに、宰相の一人が迫った。他の二人の宰相は病に倒れて、その場にはおらず、その迫力に心労でつかれきっていたミカエルは、抗しがたいように見えた。が、

「陛下!騙されてはなりません。このような者の妄言など効く必要はありません!」

 王妃アナフィエラが、執務の間に乱入してきたのだ。

「王妃様とはいえ、政治にくちばしを入れるのは許されませんぞ!即刻、出て行かれて下さい!」

 小柄な、頑固そうな、髪の少ないところが目立ち始めた彼の一喝は、その場の国王ミカエルや衛兵達を圧したが、アナフィエラは引かなかった。彼女は、今まで、決して正式な場で国政に介入しようとはしたかった。が、

「もはや非常事態の今、そのようなことは言っておれません!後ほど、陛下から処罰をいただきます。ペリアル大公とつながり、他の二人に毒を飲ませた、この男をすぐに逮捕なさい!」

 ミカエル達が呆然としている中、ミカエルの側近達、王妃に続いていた、が宰相を取り押さえた。

「な、何の罪が私にあると言うのか?言いがかりだ!陛下、こいつらを、王妃を外に!」

と叫ぶ宰相と狼狽えるミカエル。アナフィエラの後ろから進み出て、跪く数人の男女。彼とともに、常に従っていた若者たちであることは誰もが知っていた。

「お、お前らは!」

「彼女らが全てを知らせてくれたのです!」

 彼女らは、次々に彼の罪になることを述べたてた。

「お、お前らは…何で心を売った?金か、地位か?」

「私達は、セーレ大公の家臣、クロンバッハ殿の言動に心を打たれ、真実に立ち戻ったのです!」

「ば、馬鹿な…聖挙をぶち壊すのか?あの様な者に惑わされ、偉大なペリアル大公を裏切るのか?」

「もはや、あなたの言葉も、かの大公の行動も信じられないことだと分かったのです!」


「さあ、この者を引っ立てなさい!」

 衛兵達が、その宰相を王の側近達と共に引っ立てていった。

「正義は必ず勝つぞ!」

との叫び声を無視して。

「私達の罪は大きいことは、分かっておりますが、クロンバッハ殿の下で王都防衛に働かせ下さい。」

と額を床に擦りつけんばかりに願う彼らに、ミカエルはアナフィエラの頷きを見て、許すことしかできなかった。


 クロンバッハ、ラミエルが、俺の武市半平太、と呼んでいた男で、王都で彼の代理を勤めていた。背が高く、スマートなのは姿かたちだけではなく、その行動そのものもであり、品行方正、自分に厳しく、他人には少しだけ厳しいが、優しく、穏やかで、寛大だが、努力家、聡明、大胆、勇敢であり、周囲の者を感化し、信頼され、尊敬される、 男だった。

 そして、事実上、王都防衛の要となっているのである。それも、上下から望まれて。

 セーレ大公家の王都での責任者は、ラミエルの弟ではあったが、その彼から

「自分は仮の司令官。実質的には、君が指揮してほしい。」

と言われ、ファーレ家の王都を守る現当主の孫や幹部達からも、同様に乞われた。王妃アナフィエラは、彼女の集めた傭兵を彼に託したし、貴族たちは自分達が提供した兵が彼の指揮下になることを望んだ。国王軍、近衛軍さえ、そうだった。皆が、彼に心酔していたのだ。彼の人心掌握の才ではなく、彼の誠意の故だった。彼はそうなっても、変わることなく謙虚だったが。というわけで、雑多な兵の集まりのはずの王都を守る軍は、曲がりなりにも一つにまとまっていた。

 ぺリアル大公軍の侵攻が快進撃が途中でかなり遅くなり、セーレ大公領での砦、野戦陣地に手こずり、結局突破できず、大軍を一気に何かできない地域を迂回することになり、大勝したものの、セーレ大公軍に支援された国王軍残兵の後方かく乱で侵攻速度が速まらなかった。それが結果として、クロンバッハに、寄せ集めの、一部を除くと訓練不足の兵が多い王都の軍をまとめ上げ、かなり訓練を積み上げることができたのである。彼が率先して、陣頭で、誰もが可能な訓練を実施した結果、誰もが予想した以上に訓練が進んだのである。彼の清廉な性格だけでなく、巧みな指導、編成、事前準備、方法のおかげである。だから、ぺリアル大公は、精兵とは言えない兵が多いものの、編成と装備が整った軍が全周に配置されているのを目にしたのである。

 精兵とは言えない軍でも、防御施設に拠り、優れた指揮、と戦術があれば、数倍する精兵の軍に対抗しえる。


 言葉とは裏腹にぺリアル大公軍は、猛烈な総攻撃を王都にかけてきた。大型火砲に加えて、カタパルト式その他の投石器も加えた攻城兵器を並べて一斉に王都に向けて砲弾等を撃ち込んできた。そして、しばらくすると、移動トーチカと言える鉄製の大楯で囲んだ車を前面にたてた歩兵が続き、小型砲、銃、大小石弓で矢玉を放ちながら進んできた。が、そこまでだった。王都側の銃砲弓による反撃で進めなかった。トンネルを掘り進め、また、周囲を取り囲んで補給を止めようとしたが、途中でトンネルは潰され、細々ながらも補給路は維持されたし、王都を守る四方の砦のどれも陥落させることができず、一か月が過ぎた。王都では、攻撃で壊される城壁はその日の内に修復し、豊富とは言えないが、武器弾薬から食料まで何とか確保されていた。王妃が、私財をなげうって買い集めたものも、その中にふくまれていた、当然。

「原作を超えたな。」

とラミエルが呟けば、

「あの熊女達。さぞや、悔しがっているいるでしょうね。ああ、その顔が目に浮かぶわ。」

とラグエラは高笑いをした。

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