第32話 王都の防衛

 ぺリアル大公軍は、怒涛の快進撃で、次々に加わる貴族、民衆で20万を超える軍で王都を包囲、対する王都では周辺、王都内から軒並みかき集めた人数も含めて5万強の兵力しかなかった。正規兵は3万弱だが、その半ばは訓練の浅い、装備も不足していたし、その他は木剣すらない者がいる状態で、かつ士気も低かった、だから、1か月もたたずに落城してしまった。国王夫妻は、落ちのびるところを、農民に捕まり、惨殺された。

 原作小説では、そうなっている。

 そして、ぺリアル大公軍の王都包囲は現実には、いちおう起きた。

「兵力の質量の差が、随分小さくなっているな。」

「どういうこと?確かに、攻城戦は、攻め手は、守る側の質量3倍は必要だというけど・・・確かに三倍弱は三倍に足りないけど、差は小さくないし、作戦さえ良ければ十分攻め勝てる数じゃない?それに、広い王都だから、隙もでやすいんじゃない、守りの?」

"なかなか分かっているじゃないか。"

 王都からの報告書を読みながら、ラミエルが呟いて言葉に、突っ込んだラグエラを彼は心の中で褒めた。

「最悪の想定よりはだよ。」

"原作小説と比べて、とは言えないからな。"

 ぺリアル大公軍の総数は約15万。王都を守る兵は約5万強。15万で出発したぺリアル大公軍は、セーレ大公領の砦、野戦での抵抗、後方かく乱の抑えの兵を置いたこと、それなりの死傷者の補充を占領地からの根こそぎ動員、彼の徳を慕って集まった民衆と称しているが、によって得た兵力は全体の1/3近くを占めていた。

 他方、王国側はようやく動員できた兵力の過半を出撃させてしまい、結果大敗、その大半の失った。そのうえ、王都周辺を守る砦4か所に計1万人弱を割かねばならなかったから、訓練が十分な兵は近衛部隊、王直接の護衛まで含めても2万人強、まだ訓練不足の兵や大敗し、何とか退却、王都にたどり着いた兵が1万強である。これに王都内、その周辺で軍隊経験が多少ともある者達をかき集めたのが1万ほど。これに、セーレ大公家の兵から使用人、ファーレ大公の軍から使用人、王妃が所有の宝石などを売り払って集めた傭兵が2千以上。セーレ大公家の使用人はもちろん、ファーレ大公家の使用人でも、並みの兵士以上に戦える。両家の兵はなおさらである。そして、各貴族から提供された兵がほぼ同数。訓練不足は、セーレ大公領の抵抗にてこづった時間で、多少とも緩和されたし、充実とはいえないものの、一応全ての兵に武器が行き渡っている。

「食糧や武器が用意されていないというのは、どういうことですか?」

 ベリアル大公の軍師、アンドゥは、はせ参じた王都に近いところに領地を持つ貴族たちや都市代表に怒鳴りつけていた、その小柄な体を震わせ、見事な金髪を逆立てて、彼らを震え上がらせて。

「既に買い占められていたりして、十分には・・・。これでも、力を尽くして・・・。」

 誰かが、必死に弁解を代弁するように言った。

「言い訳にもなりませんよ!」

 彼女は、厳しく決めつけた。王妃、アナフィエラ、が自分の宝石などを売り、武器や食糧を買い占めていたのだ。彼女の母の実家が、その財力を傾けてそれを助けた。その結果なのである。

「孫のために、私の一代の財は使うのさ。それに、孫が死ぬようなことになったら、もうお終いだからな。」

と笑っていたという。

"あんの~、低能尻軽淫乱義姉妹が~。陛下の崇高な理想を理解せずに、ここまで邪魔をするとは・・・"と歯ぎしりした。


「今ここで力攻めをすれば、王都を落すのは容易いが、多くの民が犠牲になろう。今少し、ミカエルが心を入れ替える時間を与えてやるべきではないか。」

「寛大な心を、あの者がわかるはずはありません。奴めと悪魔女の悪政を早く終わらせるのが、民のためになるのです。陛下を国王にとの民からの嘆願が続いております。早く、王位に。」

「いや、私は王位につくべき身ではない。」

「なんと・・・謙虚な・・・。」

 文武の家臣その他が多数列席する陣営で、ぺリアル大公サマエルとその軍師アンドゥのやり取りが行われた。


「馬~鹿じゃないの?こんな猿芝居、だれが感動するのかしら?」

 ラグエラが、すっかり呆れた顔で言っているのを耳元に息を吹きかけられながら聞くラミエルは、"君がしっかりやっているんだけどね。しかも、大いに感動させてさ。"と心の中で舌うちしていた。同時に"この女が、そんなことをした、言った、演じたのだろうか?シナリオがあったにしても?まさか、薬でとかいう裏設定を作者は考えていたのだろうか。"


"どちらにしても、ぺリアル大公の方が優勢だ。俺の武市半平太頼りだな。"


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