第31話 王都の危機

 ぺリエル大公の大軍は、王都に侵攻するのであれば、当然通るであろうアンカラ州のゴアの要塞の前に現れた。大公領と境を接する貴族、都市、王国軍の多くは戦うことなく、開城したり、その軍に加わっていた。僅かにというほどてはなく、それなりに抵抗しようとする部隊、貴族、都市はそれなりの数はあったが、抑えの兵力、大部分はその周辺の親大公側勢力にまかせて、無視するかのように先を急いで進撃した。

 抵抗を受けなかったのは、ぺリエル大公を慕っての行動であると喧伝されたが、それ以前の工作、時には暗殺も辞さない、によるものだった。もちろん、その被害者は民衆の怒りにより、決起した民衆により殺されたということにされたが。

 セーレ大公領にあるゴア要塞を10万人のぺリエル大公軍本隊が取り囲んだ。攻城用の重砲、臼砲、要塞への接近あるいは移動トーチカといえる鉄製車、投石器、大型石弓機から野戦のための種々の銃砲、連発式石弓などを十分な数用意していたベリアル大公軍ではあったが、キメリ、ラミエルが、俺の武蔵と呼ぶ、の設計、改修指揮したゴア要塞を容易に落とすことはできなかった。要塞の堅固さもさることながら、統一的に揃えられた各種銃砲、銃砲そのものの装備率でもはるかに上回っていたこと、さらに長銃、キメリしか扱えないといわれる狙撃銃で次々部隊指揮官クラスや砲兵が倒れ、彼の直属の部隊の重狙撃銃に鉄製車の装甲を打ち破られ、その中で銃砲、石弓を扱う兵士達が次々に戦死する有様だった。

「うわ!」

 弾込めしていた部下の前で、砦の狙撃兵を射殺してやると、彼らの軍師が与えた彼女とその父二代の工夫で作り上げた銃を構えて、銃眼からその銃を差し出した瞬間、装甲を破った弾丸が、飛び散った装甲の破片で彼女を血だるまにして仰向けに倒した。助け起こす前に、恐怖で彼らは動けなくなった。

 しばらくすると、

「最前線に出ていた石弓隊の隊長が敵の狙撃で戦死しました。」

との伝令がぺリアル大公のいる本陣に駆け込んできた。

 要塞を避けた別動隊も、突然目の前に現れた野戦陣地に阻まれて進むことができなかった。ろ

 17日間、進撃を止められたぺリエル大公軍だったが、王都への進撃を開始することができた。それは。奇策によりゴア要塞を陥落させたのでもなく、野戦陣地を突破したのでもなかった。

 要地を守る複数の貴族が、ぺリアル大公側に突然寝返ったからである。彼らの数は大したことではないが、その裏切りの効果は大きかった。ぺリアル大公軍の一部がそこを通って侵攻できたからである。

 この地の王国軍は、まだ集結していなかった。そのため躊躇しているうちに、ぺリアル大公軍の数が増大、あわてて不十分な数で、相手に十分な準備を与えてしまうという最悪な状態で戦いを挑んでしまった。もちろん大敗を期してしまった。

ぺリアル大公側の作戦、布陣、采配、士気、兵の質、兵器の質と量が、圧倒的に上だったのはもちろんだった。

 騎馬の胴体左右につけられた銃からの銃弾で王国軍の騎馬隊は先陣が崩れし、巨砲の砲弾振動、炸裂で馬が恐怖で、混乱して騎馬隊は混乱。石弓隊と銃隊の連続した射撃、その援護の中突撃する槍隊の槍の先端下方についた銃の射撃に、何とか意地を見せようとする王国軍歩兵隊は、まず銃弾で倒れ、その隙をつかれ、槍隊にたちまちのうちに突き崩されてしまった。ベリアル大公軍は、そのまま一気に王都へ進撃していった。

 ただ、全軍が一気に進むことはできなかった。

 壊滅した、といっても全員戦士あるいは捕虜になったというわけではないから、少なくない数の国王軍の将兵がセーレ大公領に逃げ込んだ。原作だと、セーレ大公家はなくなっていたから、そもそも旧セーレ大公領をぺリアル大公軍の王都への進撃路としていたのだろう。そのセーレ大公領は健在だから逃げ込むことができたのだ。そして、隊を立て直し、ぺリアル大公軍の後方を攻撃し始めたのだ。

 当初は、あらかじめ配置されていたぺリアル大公軍の軽騎兵隊に敗れた。が、ある日、それは破られた。


「よし、今だ!」

 変幻自在に集まり、分かれ、思いがけないところから突進し、突き崩し、包囲して、敵をせん滅してきたぺリアル大公軍の軽騎兵隊の先頭を走る騎馬兵が、馬の胴体両側に据え付けられた銃の引き金を引くために、紐を引いた時だった。銃は火を噴いた。同時に彼女の胸板、あまり豊ではない胸に、銃弾がめり込んだ。その衝撃で彼女は吹っ飛び、馬から落ちた。それを見て、数騎が槍のを敵側に向け突進した。槍の前方部には小型の筒がつけられていた。それを一斉に放ったのである。これで、王国軍は崩れるはずだった。いや、その前の馬双連銃の発砲で崩れてきた。

「うぐ。」

「うわ・・・。」

 半ばが銃弾に胸板を貫かれて、落馬した。馬が怯えて、立ち止まったところで、また半数が銃弾で落馬してしまった。

 後方の、より大口径の、馬双連砲をつけた騎馬兵が進み出て、榴弾、きわめて初期段階のだが、を放とうとして少し前にでた時、彼も狙撃で落馬した。その直後に、銃砲、手投げ弾で支援された騎馬隊に、残る兵は蹴散らされ、壊滅した。

 セーレ大公軍の手練れの狙撃手達が、その狙撃銃とともに加わったのである。彼らは馬上でも、巧みに銃を操作することができた。ぺリアル大公軍の騎馬隊の銃砲は、それに比べると、正確な射撃をする能力は低く、密集した兵に混乱を生じさせる程度のものでしかなかった、それに比べると。そのため、これ以降、王国軍の後方襲撃は成功することが多くなった。

 それでも、補給拠点を即座に作ったぺリアル大公軍の補給を完全に途絶できたわけではなかったから、ぺリアル大公軍は抑えの軍を残しつつ、開いた穴から王都に向けて次々進撃していった。

「予定よりは、原作よりは手間取ってくれたな。」

 ラミエルは、不安そうにのぞき込むラグエラに聞こえないように、報告を読みながらつぶやいたいた。


 

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