第30話 開戦②

 ラミエルの予想どおりに、攻撃が始まったわ。私は、不安でしかたがなかった。漏らすんじゃないかと、はらはらしていたくらいよ。彼の脇で腕を組んで、体を寄せ合っちゃったわ。彼も震えているのが分かったわ。やっぱり、ベリアル大公の所にいけないかしら?このままここを逃げ出そうかしら、こいつを振り払って。う、きつく腕を組んできて・・・。う、動けないよお。

 見ている前で、敵艦が進んでいく。死角・・・。応急の砲台から砲撃がされているけど数が少なすぎる。多数の船が通り過ぎていくわ、ただ、反撃の砲撃は効果がなかった、こちらの被害は少なかったようで、そちらは幸いだった。停泊する船団に迫って、ようやく散発的な砲撃が始まったわ。本来なら、届かないのだけど、より長射程の大砲がわずかに間に合ったからだけで、効果の程は・・・。相手が不安に感じて・・・とかラミエルは期待しているようだけど。浮き砲台のように、停泊艦からも砲撃が・・・とは言えこちらも少ないのよね。どうなるの?


 突入船の方は?こちらは、長射程の大型銃、大砲で大損害を与えた、僅かに上陸できた兵員も銃砲火でほぼ壊滅。亀のような突入船は、視界も効かない、帆も操作できないからね。操船もできない船だものね、準備万端、砲台が準備されていたら、いい的よね。陸路の敵軍は野戦陣地を突破できないようだったわ。やっぱりどんなに粗末でも、陣地に拠ることは有利なのね。しかも、銃砲の装備がダントツに違うし、半ば予想されて待ち受けられていたわけだし、こちらが圧倒的に有利よね。よかったわ、ホッとした…だめ、油断したら、も、漏らしちゃう!


「勝利の女神は気まぐれさ。積極的な方に微笑むことがあるものさ。」

とかラミエルは言っていたけど、砲弾がたまたま相手の旗艦に命中して、敵側は混乱。積極的に、両側から砲撃を受けて不安を感じて、まだまだ戦果を挙げられるのに、かなり早く撤収し始めた。結構な艦船が炎上したり、損傷したりしたけど、ラミエルは想定より少ないよ、涼しい顔。さらに、港外に避難させていたコルベット艦隊、数隻だけど、退却する敵艦隊を追尾して攻撃。本格的な反撃に出ようとしたら、すぐに退却して、こちらは損害皆無。結局、相手側は戦果はいまいち、陸兵のほとんどを損失、艦船の損害などがそこそこ発生したので、我が方としては戦略目的を達成したといところ?


 でも、やっぱり実戦での銃砲弾の炸裂、そして死傷者の発生を見ると、やっぱりちびったような・・・。この後、抱きしめられて心配だったわ。でも、彼ったら、

「大丈夫さ。僕もちびったからね。」

ですって。なんか失礼よね。

 とにかく、今回の戦いで敵側は制海権を確保できず、かえってこちらの嫌がらせのような艦隊活動を、当分阻止することができなくなってしまった。

「怖かったよ~。」

 戦いが一応勝利に終わって、一応撃退して、損害も想定内だったから勝利は勝利、ささやかな戦勝会の宴の後、私は寝室のベッドの上で彼にしがみついて、甘えてしまった。甘えたと言うより、本当に怯えていて、また、怖さがぶり返してしまって、小娘のように、彼にすがりついたのだ。それなのに、彼と舌を絡み合わせて・・・でいつも以上に感じてしまうのはどうしてなのかしら?彼は優しく、力強く抱きしめて、

「どこも何とか予定通り持ちこたえている。後はファーレ家の爺さんたちの頑張りと助力に期待して、そして国王軍の体制が何時整ってくれるかだよ。」

と囁かれると、後半は不安だった。アナフィエラ、国王陛下、頑張ってよ~、と心の中で叫んでしまった、悲痛な声で。その自分自身の声に、怖さがまた大きくなって、感じ方もまた大きくなっちゃった。

 もうその後は、組んずほぐれつで愛し合ってしまっちゃった。戦場とはいえ、砦の一室の私達の寝室のベッドの上だから・・・と思ったんだけど、軍全体に、

「奥様の声で、敵軍も圧倒されて逃げ出したよ。」

などという話になってしまったわ。みんな、夫が悪いのよ。


 そうしながら、私達は南部戦線を転戦したけど、こちらの方は順調だった。港湾への襲撃は当初続けてあったけど、何とか撃退。上陸してきた部隊の進撃を阻止、後続も、補給もないから大きな損害を出して侵攻できないと撤退を余儀なくされるから、すかさず追撃してほぼ壊滅できたわ。途中であちら側が罠を張ってということもあったけど、こちらは事前の地形の把握も十分、索敵も完璧だから、そんなの兵力の分散をして、各個撃破してくれといっているようなもの。たちまちにそういう方面での攻勢、活動は散発的になったわ。後方かく乱、ヒットエンドランなどでの、こちら側の活動は相手方の損害による数の減少で活発、戦果はよりあがるようになる。そのうち、こちらの王国艦隊の準備も進んできて、戦力も充実してくると、さらに敵側の行動は不活発になっていったわ。こちらは、陸上戦力も王国軍が多少動員がすすんできたので、進撃、陸上の拠点も、反乱した大公の領地にも侵攻、拠点を次々に落とす勢い。

 他の方面とどうかと言うと、どこも攻勢をよく凌いでいたわ。特に、東部、西部は優勢になりつつあったし、国軍が前面に立ちつつあった。 それに西部戦線の方は、お祖父さまが陣頭指揮で準備をして、さらに、あの歳でと思い、心配するほどハッスルして陣頭指揮で軍を率いて、戦闘を開始して、あのハムスターを支援しているから、お祖父さま、あのハムスターを大いに気に入ってくれたようで、ちょっと不思議なようで、頷きたくなるようで、心配なさそう。

 心配なのは王都の方。アナフィエラが、爺さんからもらった宝石まで質に入れて、傭兵を雇って、え~と誰だったかしら、ラミエルが王都のことを託した…彼にその傭兵を託して、彼を王都防衛の近衛部隊に臨時に編入措置するように国王陛下にお願いして実現したけど…さすがに私の義妹ね…ミカエル様、しっかりしてね。まったく、王都防衛の方ですら、後手後手なんだから…。


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