第25話 最後通牒

「あんな議員達なんか処刑して下さい!」

「あなた方がぺリアル大公の手先だってことはわかっているのよ!」

 喧嘩両成敗だ、ベリアル大公が反乱を起こしては国内が荒廃するからと、彼の王都への召喚の命令と同時に、セーレ大公の逮捕、処罰を提議して、ぺリアル大公への召喚状の発布の決議を少しでも遅らせようとする貴族、市民、聖職者の国民議会議員達、少数ではあるが、の言動に怒りの叫びをあげるのをアナフィエラ王妃は必至に堪えた。続く元老院も、枢密院でも同様な言動があったが、それも堪忍袋を緒を抑えきった。だが、

「セーレ大公は軍を動員しております。これは明らかな謀反の行為。国の安寧のために、速やかに、大公の捕縛と処罰を要求します。」

と主張する貴族と市民の有志を引き連れた政府高官を見て、ついに王妃アナフィエラは堪忍袋の緒が切れるのを抑えられなくなった。

「もう北方の熊夫婦の所にお行きなさい。そして、役立たずと罵られて路頭に迷いなさい!国への不忠、北方の熊どもへの忠誠心で汚れた顔など、陛下にお見せするな!」

とその愛らしい顔を歪めて叫んでしまった。

「し、しかし、姉上であるラグエラ様は・・・。」

 勇気を振り絞ったように、市民代表?の一人である女が言いかけると、

「愛する姉を、敬愛する姉上を、熊への生贄になど、この身がどうなろうとさせはしませんわ!その者達を追い出しなさい!」

 近衛軍の国王の直衛隊の隊長になっているマリウスが10人ほどの直訴団?を引き立てていった。女の一人が、兵士二人に引き立てられ、必死に抵抗するものの、簡単に引きずられていったが、

「国王を騙す姦婦!」

とアナフィエラを指さして叫んだ。それも何の甲斐もなく、引きずられて、国王夫妻の視界から消えた。

「陛下。迷っている時ではありませんわ。閣議で承認され、国民議会で議決され、元老院も枢密院でも追認されたのです。すぐに、北方大公べリエルへの召喚状を発布されるべきです。」

 アナフィエラは、敢えて軽く跪いて、ミカエルに要求した。


 ミカエルは、まだ迷っていた。これが、大規模な内戦となり、外国軍の介入が必至で、どのような結果になろうとも、多くの死者が出て、国は荒廃することは確実だからである。そのためには、何とかぺリアル大公に反意させられないか、ラミエルを形の上だけでも処罰して、何とか・・・とまで考えていた。もちろん竹馬の友ともいえる、国の、王家の近衛としてつくしてきたセーレ大公家の当主、ミカエルの進歩的、民主的、微温的ながらも継続して進めてきた改革に、一番率先的に協力、自らの領地でも実践することでの協力もしてきた、最近の悪天候での不作対策で国の施策に協力してきたラミエルを疎んじている、見捨てようとしているわけではない。国のため、国民のためを思って、彼ならわかってくれるかもと甘えているのが国王の心の中であった。

"優しすぎるのよね。"


 国王は困った、助けてくれという顔で、戻ってきた護衛隊長であり、悪友のマリウス・アンドロの顔を見た。彼も困ったが、誠実で豪胆であり、立場が違う彼は、周囲を見渡して、誰もいないことを確認すると、

「王妃様の言う通りですよ。それに、ラミエルを切り捨てるということはラグエラ様も切り捨てるという事ですよ。ファーラ大公家もデカラビア公爵家も敵に回すことになりますよ。」

と直立不動ではあったが、ミカエルに指摘した。

「そうですわよ、陛下。義姉様を犠牲になさるおつもりですか?私達の子供たちに父が伯母を見捨てたなどと言うのですか?」

 アナフィエラは、もうミカエルに詰め寄っていた。美しい彼女の口から唾が飛ぶのを、ミカエルは感じた。


"ラグエラ。"彼女といると、心落ち着くことは記憶になかった。しかし、美しい婚約者として、幼い頃からの付き合いであり、親愛の情はあった。それに負い目があった、アナフィエラを愛したために、彼女との婚約を一方的に破棄したのだ。ラミエルがそのとばっちりを受けたことについては、あまり負い目を感じていないミカエルだったが。

「あの日、ぺリアル大公は叛意を露わにし、セーレ大公がそれを阻止し、義姉様を幸福にしたのです。もうあの日既に決まっていたのです!」

 過去に戻って私を選ばなければ全ては丸く収まっていた、などと思っているのですか、と睨みつける様に見上げるアナフィエラの目に、

「わかった。」

と言わざるを得ないミカエルだった。

 それから、一時間後、北方大公ぺリアル大公に対して、謀反の疑いがあるとして、弁明と取り調べを受けるため上京すること、さもなければ罪を認めたとして、身分と領地、財産を没収し、追討の軍を送る旨の召喚状が発布されたのだった。


 直後に王妃アナフィエラの淫乱悪女、姦婦ぶりを記述した文書が流された。同時に、それを打ち消す文書も出されたが。

 もちろん、ぺリアル大公はその受け取りを拒否し、国王夫妻の悪行と前国王を暗殺した簒奪者と非難、断罪する宣言を行った。

 一方、セーレ大公領では、戦時体制に移行することが議会で決議され、大公から国の近衛として反逆者ぺリアル大公から国を守るとの宣言が、領民の圧倒的支持の下に出された。

 議会、領民の男女全てにその議員への投票権と被参政権を持っている。とはいえ、それと共に、基本的には身分制に基づく貴族からなる元老院、枢密院があるから、議会の権限というものは制限されている。貴族以外の市民等も元老院、枢密院の議員に少数ではあるが入っているもののだ。国政の一歩前、微温的改革に少し前に進ませている。

"微温的・・・。大胆に、なんてできないからな。それでも、これで国政の方も少し進んで、ぺリアル大公への根拠のない進歩派、人民派のの支持はその分減る。後は外国軍だが・・・、少しは減ってくれるだけだな。それも、俺の中岡慎太郎の東奔西走のおかけだ。外国との密約、同盟・・・原作では、堂々とした正義の同盟のようになっているが・・・しかもラグエラが各国代表者はもちろん、国王、市長、司祭長まで、演説、説明、交渉、態度、行動で魅惑した結果なんだが・・・、こいつにそんなことできたのかな、本当に?"と少し怯える様に彼に抱きつき、彼の下で喘ぎ声をだしている彼女を見て、ラミエルは思っていた。

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