第24話 ついに始まる?
「そうか。それで、療養方々、1日自宅謹慎か?」
ようやく起きて、動けるようになり、腹が減るようになった頃だった。
あの熊女が、
「大公殿下は、暗殺を図ったセーレ大公が処分されない限り、王都には訪問できないということです。」
と国王陛下に言上したのが昨日である。それを受けて、宰相の一人や議会、緊急に召集されたく枢密院の一部で、セーレ大公、つまり、俺の処分を行い、ペリアル大公に謝罪するように騒ぎたてた。こちらも、熊女の芝居の前に事実関係を大々的に伝えてあるから、まあ、大勢にはならなかったが。 とにかく俺に対しては、一応形の上での処分をしたということで、あらためてペリアル大公にも弁明の機会を授け、その上で次の行動に出るということになった。
原作では、国王夫妻による暗殺未遂、王宮で追及するのはラグエラ。鋭い口調で、理路整然と王家の非道を糾弾、俺は既にこの世にいないようだから暗殺未遂は国王夫妻の指図となっているわけだが、さらにここ数年前の失政、国の疲弊、国民生活の困窮化、それを他所に王家が贅沢三昧していることを厳しく非難した。実際、この2年間、天候不良で農作物の不作などで国民生活は苦しくなっている。激怒した国王の命令で拘束しかかった彼女だが、ペリアル大公の精鋭がそれを阻止、この後、王宮、王都から救出、大公と涙の再会、そして、ざまあの大進撃が始まるのだ。
しかし、あらためて考えてみると、あいつにあんな大舞台での名演技、名台詞、堂々とした立ち居振る舞いができただろうか?全ては筋書きをなぞっただけに過ぎないように思える。それでも、それが彼女だということに、計り知れないものがあったのは事実だ。まあ、操り人形に近かったとしても、やってのけるのはかなりのものなんだと思う。ラグエラは、それだけの優れたものをもってはいると思う、俺に尻を軽く叩かれて、
「ふぇ~!」
と可愛い声をあげている彼女だけれど。
今、俺がいて、そのラグエラが、いないわけだ。もう、さすがに・・・いや油断できないな。俺の巴と紫式部、清少納言によく言っておくか、念のために。いや、彼女も毒殺しようとしていたから・・・それだけ彼女を重視しているということだから・・・生きていればさらって、洗脳して・・・あり得るな。それに、あちらには忍者モドキもいるからな。
俺の情報網でも、諸外国との提携、国内の貴族層の取り込み、騒乱の扇動などの動きは一部分しか把握できていない。ここだろうという見込みをもって、調べていてもだ。その点は恐れ入るところだ。原作では、暴政の自然発生的な民衆反乱、暴動ということになっているが、そもそも自然発生的であんなにも組織化されるのかおかしい。作者の記載の裏に隠されたということか・・・とにかく、そのような記述だから詳細はわからない。発生したら、即粉砕、壊滅させられるように準備してはいるが、セーレ大公として、手が及ぶ範囲しかできないのが悩みだ。予言だから、ここを気を付けてなどとミカエル様に言えないしな。
まあ、それでもいくつかは尻尾をつかんだ。流石に、俺の秀吉、武市半平太、中岡慎太郎達だが、やはりベリアル大公の工作員や忍者モドキどもが入り込んでいた。奴らが扇動して、核になり、先頭になり、時には追い立てたのだろう、すべてではないだろうが。ラグエラを聖女のように迎えた素朴な農民達や市民達も、それらの歓呼の中を進む彼女とぺリアル大公の感動的光景も、その記述も滑稽な、お芝居、巧妙で精緻ではあっても、でしかなかったわけだ。彼女が聖母のような国母として、国民に敬愛され、慕われ、それが語り継がれるという終わりは、ありえない、考えられない、スターリン的な発想の産物でしかなかったわけだ。俺の脇で軽く尻を叩かれて、泣くほど快感を感じて、今満足そうに寝息をたてて、しがみついている可愛い、愛おしいくらいのラグエラにはふさわしくもない、絶対無理な似つかわしくもないものだ。その逆のこいつにも、似つかわしくないけど。そんな役割を演じさせて、毒殺なんてさせられるか、と怒りすら感じた、俺の思い込みでしかないかもしれないが。
俺は、事前に全てを知っている。だが、俺が何かをすれば、それにたいしてどうするかを考える、誰でも。そうするとその後は前世の原作知識は役に立たない、役立たなくなる。
最近の天候不良、俺は知っていた。だから、それとなく準備させた、対策を取らせた。理屈を考えるのには苦労した。前世読んだ小説に書いてあるから、なんて言えないからな。北方は、その影響は少ないとは言え、対策を上手くとったうえに、色々と利用した。王家の信頼失墜、自分の人気取り、巧みな事前の買い占め、売却のよる大きな利益等々。俺の慧眼をみな、家臣や領民、周囲の者達は褒めてくれたが、あいつらは、それなしにそれをやっている。
俺は勝てるのだろうか?やはりモブ以下は、モブ以下の生き方、生きのびる方法を考えるべきだったかもしれない、取るべきだったのかもしれない。いち早く全てを捨てて出奔して、冒険者になるとか・・・そんな便利な職業はこの世界には存在 していないが。それに、原作のぺリアル大公の快進撃、大勝利の方が国内の被害が、死者がずっと少ないだろう。
アナフィエラ・・・、俺を裏切った、捨てた女だが、ずっと子供の頃から婚約者として親しく接してきた。前世の記憶を取り戻して、別人格になるという都合の良いものではないから、彼女への親愛感はある。その彼女が不幸な、惨殺される結末は見たくない。ミカエル様だって、長くお側で接してきたし、悪友どもは長い腐れ縁だ。あいつらが惨めに死んでいくのを見るのは、心が思い。セーレ家、セーレ家の家臣、領民達・・・俺の秀吉達、俺が引き上げなかったら、彼らは能力を生かす場がなかった・・・なかったかも・・・・う~ん?それにラグエラ・・・こいつは、本当にどっちの方が幸せだったのだろうか?俺の死には、彼女は間接的にしろ大きくかかわっている。本来の幸せを潰しても、いいのではないか?少し心が痛むな。それよりも、手放したくない、魅力的な、なじんだ、相性のいい、俺の全てに反応する体、それに思った以上に、思っていたよりはるかに、共にいて楽しい、そんな可愛い、愛おしい女だ。そして、原作の聖女のような、慈悲深い、賢明な国母のような存在にはなれそうもない女だ。演じさせられて、抹殺されるとしか思えない。原作って、実はダークファンタジーなんじゃないのか、本当は。国のため、国民のため、進歩、民主主義のためなんていうのは、思わない事も無いが、いや結構思う時もあるが、どうでもいいことだ、まあ、それに近い比重でしかない俺の中では。
もう戻れない・・・・、それにそれに死にたくないし、背負ってしまったものは捨てたくはない、と俺は思っている。
そうやるしかない。熊女、ぺリアル大公、俺とラグエラはお前達に復讐する、お前らにざまあさせない。さあ、宣戦布告だ!
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