第20話 その前夜?

「何をとぼけたことを言っているのですか?誰が後を任されるのですの?私は、ラミエル様とともに行くんですよ。後の守りは…誰か推薦してちょうだい。」

ラグエラは、セーレ家私有地の領地経営を取り仕切りながら、夫ラミエルが不在中、そうでなければ二人で並んでやっていた、はっきりと彼の秀吉の前で宣言した。

 半ばご機嫌伺いに、自ら書類を持ってきたアルフスは、彼女の管理能力を褒めようと、

「奥様がおられれば、大公閣下は後のことは心配せずに戦えますな。」

と言ったのだが、彼女の反論、否定にあってしまったのである。手八丁、口八丁、ともにそれ以上の彼も、流石に言葉が即座には出てこなかった。女性士官、女性兵も少なくないし、王国軍や他の大公軍と比較して、その比率は高い、いざという時の民兵達には女性も、当然のことして自己登録しているセーレ家ではある。

 とはいえ、大公妃も大公とともに出陣するのは・・・、常識的には本拠地の守りを担うというところであろう。

「フジサンで行軍、演習した時と同様に、閣下の隣にいるのは私だけです。そのために、いつも演習にも加わっているのですよ。足に豆を作り、潰して、痛みを堪えることになっても、フジサンについていったのです。」

「フジサン・・・本当に感心いたしました。私も領民も。」

 フジサン、セーレ家領内にある、美しい、そして一番高い山であり、硫黄の大採掘地でもあるが、正式な名前は別にあるのだが、何故かラミエルは、「フジサン」「異世界のフジサン」と度々口にする、時には恍惚の表情を浮かべて、のである。そこに、高地訓練として演習が行われるのだが、セーレ大公自らが陣頭に立つのは当然だが、妃も同行したのである。士気は確かに上がるが、ラグエラが強く同行を要求し、ラミエルが苦笑しながら同意し、部隊の指揮官は不満顔。不安顔、心配顔で同意したのである。結構きつい演習で、落伍する将兵も少なからずいる。重い荷物を背負うわけではないとはいえ、最後はくたくたになり、ラミレスの肩を借りたとは言え、ラグエラは乗り切ったのである。

「つ、次は、あなたに肩を貸してあげますわ!」

と言うのを忘れなかった。

"閣下の判断だな。そうなったら誰がいいかな・・・奥様は相当やりてだから、それに準じる者というと・・・。"と人選を頭の中で始めた。

「どう、あなたの見るところ、ベリアル大公に私達は勝てる?」

 ラグエラが、突然話題を変えたが、こういうことにはアルフスは対応できた。

「勝てると思います。ラミレス閣下がおりますから。」

「ふ~ん?」

 彼は、その時珍しく吟遊詩人のように語りたくなっていた。

「あの方は、どこまで先を見ているのか。私達は、あの方が指示したものを、あの方の助言と手助けで何とかやっていのですが、ご期待に追い付かず、まだまだ不十分なままだ・・・。」

「私の料理人達も同じことを言っていたわね。」

 ラミエルは、よく、どこから思いつくのか、色々な料理、菓子、飲み物を作ってくれた。努力しているらしいので、どれも美味しい。それを、そのレシピをラグエラの料理人達に教えて、その前に、ラグエラに味見をさせて、作らせるのだ。

“まるで、私が毒味役かなんか見たいで、癪なんだけど…。”と思うこともある。彼の料理人達だと、何をやっても、軍洋食になってしまう、と彼は苦笑したものである。それが、彼の料理人達の刺激になり、彼らの作る“軍洋食”も格段に味がよくなった。

「私は、色々な仕事や世界を渡り歩き、その多くに通じてきたと思って、自負してきましたが、閣下は実に多くの、独創的発想をし、具体的な道筋を指示して、渡しに託し、その後も助言などをしていただき、成功するにいたるのです。皆、同様に思っていますよ。」

“似たようなことを、私の料理人達…いえ、国王陛下も、義妹も言っていたわね。サロンに出入りする連中も言っていたわね。”

「閣下のおかげで、私は引き上げられ、そして、閣下のおかげで成果を上げられる仕事ができているのです。」

 いつも賑やかで、明るい、というより騒がしいくらいの男が、少ししんみりとなっていた。

“でも、あの人はそうは言ってなかったわね。”ラグエラは、ラミエルの言い草を思い出していた。

「俺は言った、それだけだ。少しは自分で試してみた、それはママゴトみたいなものだ。考えたさ、うごいたさ、それだけのことだ。みんな、奴らがやってくれたことだ。俺は、奴らを身近においたが、多くの人材もあいつらが集めたんだ。」

“それに、言ってやったわね、私ったら。”

「私は随分やったつもりだけど、どう思っておられれのかしら?」

 悪役令嬢のドヤ顔に、彼はひどく真面目な顔をして、

「サロンで、宣伝も人材獲得にも…それは全て君のおかげさ。君のおかげで、勝利に近付いているよ。」

と顔を近づけて囁きかけた。

「俺と一緒に生き残るんだ。」

 その彼の表情は鬼気迫るものがあった。彼女は震えるとともに、じゅんとするものも感じた。

「そうね。だから、私は、ラミエル様とともに、勝利するのよ。」

 アスフスは、ラグエラの悪役令嬢というかの顔にたじろいだ。“流石に、閣下の妃様だ。”もう前線に彼女がたつことに反対する気持ちは、なくなっていた。

 

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