第19話 謀反の罪はどちらに

「陛下。セーレ大公が、謀反など企むはずは、ありませんわ!あいつらはみんなペリアル大公から、賄賂をもらっているか、心酔している連中なんです!前から言っていますでしょ?ねえ、お義姉様からも言って下さい!」

「義妹の言う通りよ。陛下は、昔から、思いやりがありすぎて、その結果、トンデモナイことをしでかすんですから!」

 アナフィエラとラグエラに責め立てられ、ミカエルはしゅんとさえなっているように見えた。現国王の威厳など、そこには感じられなかった。そんな二人の娘を見ながら、はらはらしつつも、同時にホットしている父、公爵もいた。二人のどちらかだけを愛しているというわけではなかったし、二人が姉妹としてふるまうことをずっと望んできたのである。その夢が今実現しているのである。自分の手から離れてから、というのが残念至極だったが。

 一方、その近くで、ラグエラの祖父であるファーレ大公とラミエルはひそひそ話をしていた。

「孫とは、仲良くやっておるようで安心したぞ。しかし、糞尿に突き落とすとは感心せんぞ。」

「あれは彼女が先に・・・、その後、念入りに体を洗ってやりましたから・・・。」

「まあ、そのことはいろいろな経路で耳に入っているがな。」

 老大公はわざとニヤッと笑った。そして、声をひそめて、

「ベリアル大公のことは、どう思う?本当に謀反の心があると思うかね?」

「もし、他人を陥れようとする動きをしなければ、ないといえるでしょう。」

"ふん。盛大にやっているな。爺さんのところにも・・・顔に書いている。"

 ラミエルは、次第にベリアル大公の謀反について確信するとともに、彼の本性だと思うようになっていた。"あいつらも殺して・・・多分、陥れているからな。単に、俺の友人と言う理由で・・・。"彼の悪友たちのことである。彼らはかなりの勢力をもっている、それが彼らが全く原作に出てこない、それが根拠であるとラミエルは結論していた。

 ミカエルに、セーレ大公謀反と言いたてる貴族や官僚達が相次いでいた。それだけではない。ペリアル大公とセーレ大公は仲が悪い、セーレ大公に肩入れしては、肩入れしなくても、平等に扱うだけで、ペリアル大公は不満を持って反乱を起こしかねない、ペリアル大公が反乱を起こしたら国は大きな被害を受ける、だから、ペリアル大公を怒らせないために、セーレ大公を処分した方が、国の平安をもたらすことができる、と献策する者も度々いた。その後ろにペリアル大公がいることは、一目瞭然であるし、彼自らも硬軟の圧力も直接かけてきていた。

“ミカエル様が、俺を、親友の俺を冤罪と分かっていて、処刑する気持ちもわからないではないな。”それは、あくまでもラミエルの想像にすぎない、原作ではその辺のところは、全く書かれていないからだ。婚約者を奪われ、寝取られ者としての烙印を押されて、領地に閉じこもるラミエルに、疑心暗鬼を持っていたかもしれない、ミカエルもアナフィエラも。ラミエルは、それも考えたが、それとて彼の想像でに過ぎなかった。それでも彼は、“俺の冤罪圧力の要素は減って、反ペリアル大公の要素が増えたわけだ。この義姉妹のお陰だな。油断はできないが、いよいよ、勝てるかどうかになってきたな。”と考えていた。

 もう、ラミエルにとっては、ペリアル大公が国に反旗を翻すことは、既成の事実になっていた。自分を誹謗する陰謀を推し進めていること自体が、その証拠だと、半ば決めつけていた。

“この集まりを、察知しているだろうから、今頃息巻いているだろうな。”

 領地から王都にやって来たセーレ大公夫妻が、セーレ大公妃の実家に里帰り、義姉に会いに王妃が、それに国王がつきそう、孫可愛さにファーレ大公が…、実際そうなのだが、ペリアル大公追い落としの策謀まではしていないのだが、

「大公陛下に、無罪の罪を着せようと、国王までが参加しているのですよ!」

 ペリアル大公の館では、この集まりの情報を入手し、彼を前にして臣下達は激高していた。

「まあ、皆、落ち着け。」

と言った大公だったが、彼らの主張を否定することも、たしなめることもしなかった。

「悪逆なセーレに対する私や心ある国民の献策を無視して、私に冤罪をなすりつけるなら、座して待つことはできない。国のために起つべき時かもしれないな。最悪の場合に備えておくように。それから、王都にいる間は、慎重に行動するように。」

 彼を前にした面々の全てが、矢は放たれた、と決意するに十分な言葉と受け止めていた。

「陛下に…国を、民を思う陛下に謀反の罪を着せようとは…所詮は簒奪者の家系…陛下を陥れ、淫乱尻軽女馬鹿女とはいえ、陛下が庇護されようとした女を奪う卑劣漢の分際で、陛下を陥れようとは、下郎の分際で、絶対許せません!」

 ペリアル大公は、彼の下で荒い息ながら、彼の思うところを全て語り尽くす、彼の軍師を見つめ、そして、窓の外の彼と彼女達とで築いた大公都を眺めた。

「二年後。それまでに準備は完了します。悪政からの、長い簒奪者からの国の、民の解放のための聖戦への。」

 そこまで、冷静に計算している彼女を愛おしく思った彼は、彼女に優しく口づけをかわした。

 



 

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