第18話 富国強兵

「どう見る、ペリアル大公領での一大灌漑農地は?」

「そうですね…、詳しいことは老農や農業学者の意見を聞かねばなりませんが、私の見るところ、無理が多く、かえって効率が悪いですね。かの軍の装備銃砲同様に。」

 ラミエルの問いに、彼の豊臣秀吉ことモルモット顔は思案するように応えた。その秀吉ことモルモット顔のアルフスは、農業にも、鉄砲の製造にも、北方地域にも知見、経験があった。

「アンドラス。お前はどう思う。」

 今度は、彼のからくり義衛門に質問を振った。

「巨大な水車や風車、揚水機等は話だけでは正確なところは分かりませんが、効率は我が領内のと比べてかなり落ちるのでないかという印象を受けます。銃砲はアイデアが先走っているようですね。槍の先に、短銃、いや短銃モドキをつけたものとか、反対側が銃の槍とか。まあ、こちらも、実物を見ないと性能は断定できませんが、威力は劣りますな、多分。」

 アンドラスことからくり義衛門は、疑問を呈するような顔だった。本当は否定したいところだったが、技術者として現物を見ないうちに確たることは言わないということなのだ。

「そのような装備では・・・やりようはありますが・・・、私は欲しくはありませんな。」

とラミエルの義経は、ララウクスは、その美しい顔を、つまらなそうにして言った。

「騎兵も歩兵も、銃砲を中心とした編成は進んでおります。」

 アルフスは、胸を張るように言った。

 ラミエルの悪友3人組の情報を元に、ラミエルは彼の側近達の意見を求めていたのである。

「お前の絵、ミシャ伯爵達も、自分の見たものは、正にこれだ!言葉だけでよく描けるものだと感心していたぞ。」

 議論に加わっていなかった長身のやはりアラサーの男は、その言葉にニッコリした。彼の北斎である。彼が描く絵は、実物、彼自身が見ていなくても、から構想中のものまで、正確というか真に迫ると言うかの優れたもので、事実の確認から新たな発想をも生み出すほどのものだった。もちろん、芸術としての絵画も画くが、それも北斎級に多種多様な傑作ばかりだった。

「かの大公様のいう領民の笑顔だの、富民強国という言葉と同様ですな。それでも、かなりの戦力、それを支えるものがあると考えてよいかと。」

 禿げハムスターは、神妙な顔で言うと、3人もうなずいた。

“確かにな。”


 富国強兵。その目的は、ペリアル大公と戦って、勝つためのものである。何故、戦うのか、それは彼が反乱を起こすからである。なぜ勝たなければならないか?俺は死にたくないからだ、人間いつかは死ぬものではあるにしても、あいつの王位獲得のために、殺されたくはないからだ。

 そのためには、奴に勝てる軍隊を作ること、その軍隊を持てる国を作ることである。つまりは、富国強兵である。

 俺は、前世知識を使ってそれを推進…なんかはできなかった。二十一世紀の日本の水準を実現するなどは、俺にも、この世界にもむりだった。例えば、機関銃について、かなりの知識を持っていると自負できるが、17~18世紀に飛ばされて機関銃を自分一人で作れるか?部品のかなりの部分を注文できるか?生産設備をどうやって作る?等等問題山積。それは、農業生産だってそうだ。この地に、気候に適した農業の形態があり、21世紀農業に必要な、そもそも品種はまだないのである。

 俺の父に至るまでやって来たことの積み上げで進めていかなければならなかった。それに、前世知識が役に立ったのも事実である。自分の庭や近臣達とで試しながら実行した少年期まで、そして、セーレ大公領の統治を、実質的に委ねられ、その後正式に大公となってからの合計10年間、秀吉、カラクリ儀右衛門、義経、北斎など、彼らはさらなる人材も集めている、を登用して進めてきた。地道に進めてきたそれは、一応成果は上がっていると思っている、思いたい。先代までと比べて、俺だからと言える積み上げがどの程度あるかは不安だが。

 効率的な水車、風車、その他の設備、道具、物資を効率的な場所に設置して、効率的に稼動させる、利用する。上下水道、道路、港湾などのインフラの整備。それによる産業の発展、領民が豊かになり、財源確保の上での軍備増強、より強い兵器、基本的には銃砲、の開発、装備、編成に努める。ついでに、領民の士気を高めるため、さらに産業とするため、食べ物、菓子も含めての開発。その全てに、前世知識を利用しようと、一応頑張った。大体は、提案してみて、皆に託し、臣下達が何とか実用化してくれた訳で、俺は大したことができたわけではない。それでも、何とか、成果は上がっているように思ってはいるが…。ラグエラもかなり、彼女の連れてきた料理人がであるが、役にたってくれた。彼女を手に入れたことは大きい。男爵家、公爵家の財政支援、大きな額ではないが、それでもなければ困ったことは多かったろう。それも、彼女の存在のお陰だ。彼女の料理人達のおかげで、俺の前世の知識で、領内各地の産物で料理、お菓子、子供頃から自分で試作を続けてきた。評判は上々だったが、所詮は素人料理、お菓子に過ぎなかった。ラグエラ付きの料理人は、流石に玄人。最初は戸惑い、反発あったが、いざ作り始めると、流石に洗練されたものができあがった。そのレシピを公開して・・・我が軍、使用人、家臣・・・領民全体は喜び、そして、産業として成功して利益をあげられるようになった。これで、少しばかり産業が興り、税収があがり、財政が豊かになった、これまた少しばかり、そして、軍備も、領民の生活向上も。ベリアル大公は、そういうのは専売、大公家直属の事業にして儲けているが、どっちが有効か?もうすぐだ・・・が、もう一つ懸念を解決せねば・・・。俺を無実の罪に落とさせないことだ。それが成功した先に・・・新しい物語が始まる。"


 

 


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