第16話 勝てるの?勝つしかないだろう?

 ラミエルは、怯えた子猫のようになっている、それでいて、それで快感をより感じる状態のラグエラを抱きながら、

「僕は君を、離さない。もう遅いよ。あの女軍師、熊女は、君も僕と一味同心視してるよ。負ければ八つ裂き、いや君は串刺しかな、さ。勝つしかないんだよ。勝って、あの熊女を串刺しにするんだろ。」

 ラグエラが、恐怖に打たれて快感を感じながら、あの熊女を串刺しにする妄想で、また違う快感を感じていることを、ラミエルは分かっていた。その矛盾する彼女を、また可愛く思ってもいた。

“こいつには悪いが、あれできっかけを作ったのかもしれないな…。どうしようもないか。どちらにしろ、奴は王位を狙って動くわけだし・・・。彼女に言ったことは嘘とは言えない・・・。どうしても・・・、俺はそう結論したんだ。おかしくない、歴史の知識があれば当然・・・。それに、あいつは新しい社会の・・・ではない。言い訳だが、あいつが勝って、素晴らしい統治をしたとしても、いつか大革命が必要になるわけだし・・・。どちらにしても、俺は殺されたくないしな・・・絶対。それに、こいつを手放したくない。”彼は自分の下でぐったりしている彼女を抱きしめて、しみじみと考えていた。

「どうだった?ペリアル大公領は?君達はどう見た?」

「面倒なことをやらせて、いきなりそればないだろう?」

「言葉の礼ならさっき言っただろう?具体的なお礼は後でだよ。それに、とりあえずの慰労の宴は開いているじゃないか?」

「そうよ。まずは、仕事をしてからにしてちょうだいね!」

“こいつは、こういう時はSだな。”

「仕事、かよ…。」

「まあ、旅行費も全てラミエルが出しているんだし…。」

「まあ、飲み、食べながら話してやろうぜ。」

 ラミエルの悪友3人組は、たびたび、彼の依頼で彼の領地を見て回っていた。彼らの目で、第三者の目で自分の統治の評価を得たかったからである。彼が同時に国王であるミカエルの依頼も受けてということをラミエルは知っての上であった。彼に、真実が伝えられて安心してくれていれば、まずペリアル大公に、また一矢報いていることになるわけだからだ。

 そして、今回はペリアル大公領に、彼らは行ったのである。もちろん正々堂々と、身分と名前を名乗っての、貴族としての旅行、商談などを口実としたが、実際それもあった。

「スパイだ、間者だ、と言われて処刑、暗殺者だなんて嫌だぜ。」

「普通に見て回ってくれればいいさ。まあ、多分察知して疑う、監視するだろうが、君達くらいの貴族に、手荒な真似は、中々できないだろうし、僕はそんな危険なことは求めないさ。まあ、見せたくないところは隠すだろうから、不自然さも見といてくれ。普通に、見てくればいいよ、半分以上物見遊山でいいんだよ。」

「そうか?」

それなら、経費負担なら、ということで彼らは同意して、適当に理由を捻り出して、ペリアル大公領に向かった。

「サロンにも招かれたし、閲兵式にも招かれたよ。」

「その印象は?」

「う~ん。」

 彼らの印象は、開発が順調に進み、治安も民情も安定した北方の状況だった。

 王都を凌がんばかりの公都の威容、3人をサロンに招いたり、閲兵式すら見せたという。3人が正々堂々と身分を、明らかにしての旅だから、彼としても、彼らの身分に応じた処遇をしなければならなかったわけだが。

 サロンは退屈だった。王都などのサロンと違って、新進の思想家、科学者、芸術家が競うような場もなく、なんというか枠にはめられた感じだった。

「主催しているのは、大公閣下の愛人だとか。他の貴族や市民のそれも、大公閣下や愛人達の意に沿うものでないと…と言うのが暗黙の了解らしい。」

“はー?愛人、しかも達ですってー、何人よ!”とはラグエラ。“うん。グッジョブだよ。本当にグッジョブだ。”はラミエル。

 閲兵式の詳細や新たに開発された農地の様子、工場や市場の商品の具合も彼らはよく見ていた。

「まあ、よく治まっていたよ。上も下も溌剌としていた。まあ、貴族の顔色を見て判決をだしていた裁判官を自ら叩きだしたりとか大公閣下の武勇談は尽きないな。こんなこと、俺の領地でもできないし、羨ましいとも思ったよ。」

「まあ、議会も、官選議会だが、裁判所も大公閣下の下で…というところだね。王都とかだったら、大騒ぎだね。」

 3人は、可能な限り、無理しない程度の情報を集め、ラミエルに伝えた。うんうんとうなずくラミエルに、アンが、

「ペリアル大公の謀反の証拠などは…。」

と申し訳なさそうな顔をすると、

「そんな人を陥れようとすることは考えていないよ。」

とラミエルは笑った。

「ただ、富国強兵に邁進しているという印象だったよ。」

「さらに、軍の充実を図ろうと…現状でもしっかり整備されているな。」

「全てが、ペリアル大公に…という感じは、否めないですね。」

 そして、

「王都、王領…俺の領地の住民の方が豊か、って感じだな。ああ、お前の領地の…みんな兵隊みたいだがな…も、豊さでは勝ってるぞ。」

「元々北方の厳しい地域ということを考慮しないと…。当たり前に貧富の格差や浮浪者とか、スラムの問題はあるな。」

「よくやっているというところですね、政府からの多額の支援金をもらっているとはいえ。それに、統制もかなり厳しいですね。」

「俺も、支援金が欲しいよ。お前のところももらっているんだろ、セーレ大公閣下?」

「もらっているが、領民、領地の国の税金分の見返りだぞ。ペリアル大公は、国税の徴収はないぞ。」

「セーレ大公家は、国の政策に忠実ですからね。大公家の中では。正反対がペリアル大公家…。」

 鷹揚なペリアル大公の笑顔、立ち居振る舞いを目に浮かべながらの3人の結論は、ラミエルにはずいぶん甘いように思えた。だから、ラミエルはさらに付け加えた。

「王都を凌がんばかりの公都…あれだけの支援金を国庫から受けて…。」

 ラミエルの最後の言葉に、3人はハッとするものを感じた。

「確かに、誰もが追われているような感じ・・・だったかな。」

「人材を、・・・優れた人材を、能力のある者を身分にかかわらず抜擢する・・・能力のない者、凡人は割りをくうな・・・。」

「いや、大公に都合のいい人間だけが引き上げられるということですね。・・・民主主義ではないですよね。」

「大公だけが上にいる、全ては大公の下に・・・か。」

「国庫を利用した繁栄・・・そして、あれだけの兵力・・・か。」

「それで、愛人は何人だったの?」

 ラグエラが割って入った。

「え~と、5人ですか。30過ぎの妖艶なのから、16歳の歳よりあどけないロりっぽいのまで、色々ですね。」

「それで、退屈なサロンしかできないわけね。5人が5人とも、熊女なわけですものね。」

「ま…まあ、そうですね。」

 ラグエラはアンに尋問のように質問を始めた。それを、にやにやしながら眺める3人だつた。"完全にうまくいった!""あんのやろー、婆や子供を-!"

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