第15話 臭いって言わないでよ~!
セーレ大公家の富国強兵のため、ラミエルと二人三脚で奮闘している、あくまで半分は主観である、ラグエラだったが、ドタバタ夫婦イチャラブ漫才のようにも見えた。それが、大公家領民の笑いと信望を高める結果になっていたが…。
“セーレ大公家の領地は、都市もあれば、山あり谷あり、田園、牧場から荒涼とした山岳地帯もあり、水陸の交通の要所にあると思えば、辺境としか言えない所もあって千差万別だけど、全て国内外からの侵攻を食い止める場所にあるということがよく分かってきたわ。その役割を維持するための財源は、基本的には自分の領地で賄う必要があるから、領地の富国強兵を進めなければならないのよね。
まあ、本当に単純な連中ばかりよね。自分達が、国の防衛の要、防人だと、小作人ですら、物心ついた子供まで自負しているんだから。そうした彼ら、彼女らを心身ともに十分なものにすることも、富国強兵の一貫なんだから…それがラミエルの考えなのよね。
そのためには、産業・・・、農林水産業、鉱工業を発展させないと、商業も・・・みんな豊かになっていっぱい食べて、元気になって、生産された優れた武器を持って、鍛錬して・・・、う~ん、美味しくない食事じゃ効果半分よね、美味しい食事、それにお菓子だって必要よね、果物もそうだし・・・。それに人材も必要よね。だから、彼は私にサロン、王都流の優雅で魅力的な、を開くことを応援してくれているのよね。
でもね、確かに農業には肥料が必要だというのはわかるし、その肥料には家畜の糞が、し尿も原料になるのも分かっているわよ。でも、私まで堆肥を作っている施設の中にまで入っていかねばならないのよ?あ~あ、また肌に、服に着いちゃったわよ。もう嫌!なに私を見てにやにやしているのよ?この馬鹿、変態。
「あなた、転びそうなの。手を取ってくださりません?」
私は目いっぱい可愛い笑顔を浮かべて、手を差し出したわ。馬鹿は笑いながら私の手を取った。今だわ!思いっきり引っ張って、臭い発酵中の堆肥の中に叩き込んでやったわ。
「どうです、堆肥の出来は?すつかり臭くなってしまいましたわね。今夜はベッドは一緒にしてあげられませんわね?」
思わず高笑いしちゃった。
「ひどいな。」
彼は、苦笑いして手を差し伸べてきたけど、その手には乗らないわよ!
「汚い手で触らないでくださります?」
ほーほっほほ、というところかしら。大きくため息をついて、意気消沈の彼を見て気分は爽快、久しぶりに勝ったわー!と飛び上がりたいくらい。なかなか立ち上がらない、ますます臭くなりますわよ?、彼を置いて行ってしまおうと背を向けた。
「きゃー!」
気がついた時には、彼の一緒に堆肥の中に突入、仲良く。彼が渾身のタックルをかけてきたのだ。それが、彼が思っていなかったほど見事に決まったのだ。しまったわ、油断しちゃったわ。
「これで夜は、大丈夫だね。2人とも臭ければ、臭くなくなるから。臭い体同士で組んずほぐれつしようか?」
などと言ってきちゃって!本当は怒り心頭に発す、何だけど、私は何故か泣き出してしまっていた。そのまま、彼に起こしてもらって…。みんな、私を臭いと言って…、屋敷に戻って、とにかく彼と一緒に風呂に入り、彼には入念に洗ってもらっても、
「ひどいわよ!」
と拗ねるように言ってしまうのだった。
「これでペリアルも鼻をつまんで、いらないと言うだろうな。」
とか
「自業自得だよ。」
「国中喜んで聞くよ、今回のことをね。さらに、さすがはセーレ大公妃だと、またまた人気赤丸急上昇だよ。」
とか言われて、頭や尻を叩かれると、何故か快感のような…、な、何よ、これは~。ベッドの上でも、虐められて体がピクピク反応して…。もう、嫌!と思うとなおさら…。
其れでも、数日後のサロンでは、
「領民の生活が心身ともに、より良くなって、国の守りをより強靱にできれば、体が糞尿塗れになっても、大したことはありませんわ。」
と笑って言ったわ。でも、内心は臭いと思われていないか不安でしかたがなかったし、
「2人で臭くなったので、夜、組んずほぐれつしても気がつかなかったね。」
などとフォローしない、傷つけられるようなラミエルの言葉に反応してしまっていたわ、体がじゅんと。何なのかしら?なんか、いじめられるのが、何となく楽しみに…、何よ、これは!
「まあ、そうですわね。皆様も試してみては?」
と笑顔で言ってやったわ。
すかさず、
「消臭効果のある香水を開発したのですが。」
と言ってくる者がいるのよね。詐欺師もいるけど、本物なら、産業になるから、まずは聞いて見ないとね。サロンでは、こうした人材の発掘も大切なのよね。
ラミエルは、王政と貴族政、民主政を語る男の話を黙って聞いていたわ。
その男の主張は、王政は国民を基礎の上に成り立つものであるから、身分制のない、平等な社会と広く国民から選ばれる議会を中心とする制度を取るものだ、というものだった。は~?と思っちゃったわ。我が国は王政だけど、貴族は存在するし、そもそも卑しい庶民に国政など担えるわけないわよ…まあ、優秀な人材もいるから引き上げてあげないとは思うけど…。大体、共和国といったところでも貴族はいるし、実際貴族制というところや貴族と変わらない、まあ、商人だけど、上級市民だけが政治を、牛耳っているところだけよ。あらあら、反論をいいたてるのが出てきたわね。
「偉大な一人の看守と多数の囚人を支配することが、平等な国家と言えるかな?」
とラミエルは、それだけを言って論争には参加しなかったけど、ペリアル大公のことを言いたいのね。
彼は高く評価されているわね。大胆な改革を実行できる、と期待されているわ。不思議なことに、ゴチゴチの守旧派の貴族、聖職者から過激な民衆派まで期待しているのが、不思議よね。そう言えば、私と似たようなエピソードもあったわね。農民と一緒に、糞尿の汚れを気にせずに家畜の世話をしたとか…その彼なら私のことを臭いとか言わない…かな?あいつったら、君と僕は汚れたんじゃなくて、糞尿まみれになったんだからだめだろうねとか言って…くそ~!し、しかも、あのことも、あることないこと、面白おかしい話に…最後はあんなところで抱き合って…なんか…でもあそこもいいかも…なんて考えていないわよ…あの禿げネズミ、禿げモルモット野郎…面白い男だけど…。
「あんなに話、あの熊女が考えた嘘話だろうよ。」
と憎々しげにいってだけど、本当に敵視しているわね。勝てるのかしら?もう、私も一蓮托生にされているけど…何とか…あの熊女が…君を殺すよ、と奴は言ったわよね…もう逃げられてないのよね。どうしよう…勝つことだけ…、怖い、ラミエル、助けて…助けてくれるわよね?ああ、そう言えば、ペリアル大公に招かれた改革派の詩人で哲学者の…ケンカ別れして、あいつは単なる専制君主だとか罵っているとか…、王都から呼んで、私のサロンで宣伝に利用させてもらいましょう。一人でも、ペリアル大公の味方を減らさないとね。私って、なんて貞女なのかしら!”
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