第13話 新婚旅行…富国強兵②

 山岳地帯に山城を中心としたとか領地も、セーレ大公家は持っていた。隣国との間や周辺地域からの道が通っている地域だった。主要交易路ではないが、ここを通って国内に侵攻するには便利な道が走っていた。だから、彼の領地があり、山城、山岳城塞都市があるのである。農地や牧場も、よくこんなところで作っているというくらい点々と存在し、さらに工場などもあった。

 山岳城塞都市から、その中央の城塞の物見櫓から見る風景は壮大だった。獲物を探す鷲が見えるし、鳥のさえずりも聞こえる。風光明媚な場所も、皆小規模だがいくつもあり、温泉もあった。

「これは合格点ですわ。」

 彼所有の温泉のある別邸の浴槽で、ラグエラは満足そうに湯に浸かっていた。もちろん、ラミエルも同じ浴槽にいた。

「それは嬉しいね。それでは、ご褒美をもらおうかな。」

と言うと、彼女を抱きしめて唇を重ねて、舌を差し入れた。文句を言おうとしたが諦めて、彼女も舌を絡めて応じた。

 直ぐに彼の手や舌は、彼女の胸や下半身に動いていた。

「もう…、そうやって…今日の食事のことも誤魔化すのね?」

 喘ぎ声を漏らしながらも、主導権を取ろうと文句をつけた。

 滝だ、湖だとに案内される傍ら、議会だ、長老だ、部隊長、行政官だとに会う、守備隊や民兵制の閲兵を受ける、有力者のサロンに出席する、まあ、それはしかたがないとして、食事が問題だった、彼女にとっては。山の幸がでるのはいいが、パン1つにしても、白パンではなく、雑穀やどんぐり、クルミ、栗が入った雑穀パン、黒パンである。ライスにしても、餅にしても、麺の類いにしても同様だった。

「でも、全部食べるてくれたけど?」

「ま、まあ、しかたがないのと想っていたより、美味しかったというか不味くなかったからですわ。」

「嬉しいな。僕が進めたことだからね、成果があがっているということだね。」

「へ?」

 意味が分かりかねたが、答えを要求することができなかった。もう、それどころではなくなったからだ、彼女の体が。

「材料は、現地の物でという家訓がある。僕たちは、武人だからね。でも、味は少しでもよくしようと、僕は父達以上に頑張ってきたつもりなんだ。」

「ま、まあ、その努力は認めましょう。でもね・・・。」

「だから、そこでも協力してもらいたいんだ、君に。僕だけだと評価が甘くなるし、方法が思いつかないことも、君がいれば違う。君の方が、舌が肥えているからね。皮肉ではないよ。だから君のところの侍女や料理人達にも協力してほしい。うちの連中は、どうも戦闘馬鹿的なところが抜けなくてね。」

 最後のところでラグエラは吹き出した。戦闘で、戦場ではというのが、口から出るのだ、上から下まで。

「それはサロンだって、クラブだって同じだ。」

「?」

「流行…服とか装飾とか芝居、オペラだけさではないよ。哲学だって、儲け話だって、芸術だって、王都がどうなっているか関心がある。王都には、新しいものが、あ集まるからね。サロンやクラブの在り方だってそうだ。」

「それを私が?でも、富国強兵にはならないでしょう?」

「いや、人材がそれで集まる。色々、直接間接に関係してくるよ。」

「それを私にやれ…と?」

「それも、さ。僕も手伝う。君に手伝ってもらうことだってあるけどね。」

「分かったわ、やってやるわよ!期待してなさい!」

 今度は、彼女の方から唇を重ねた。そうこうするうちに、2人はのぼせかけて、慌てて湯から上がった。

 この後、若い新婚夫婦は寝室に、軽く上衣を羽織ってに直行、侍女達に窘められながら。

 主導権を取ろうと思いながら、ラグエラは急に、“これから戦いのために…。”と思うと、怖くなり震えだして、ラミエルに抱きつく、彼がこれからのことを言葉責めのように語るのに、かえって強く反応して喘ぐのだった。

“こういう時は、Mなんだな、こいつは。”

 ぐったりして、アへ顔のラグエラこと新妻を抱きながら、ラミエルは思った。

 ある意味、強行軍の新婚旅行は続いた。セーレ大公家が守りについている港湾都市を訪れ、砲台を見学して、近くの彼の領地と館に宿泊した。

 港湾都市の教会の上からは、どこまでも続く水平線、多数の貿易船も入港していた。彼女にも、ここが経済の動脈であることは理解できた。

 やはり、そこの砲台も、港湾の後方を守る彼の城塞都市も、改築が中途半端な状態で中々進行していないようだった。まだ、ここでも彼女は答えを出せないでいたが、彼は、彼の家臣達も、そんなことは忘れたように、城塞や砲台等には力を入れて説明したし、領民は領民で、自分達の軍事訓練を見せたがった。

 そして、王国の穀倉地帯の一つや工業都市の後方に位置する領地、国境の領地をまわり、隣国の国境の都市を二つ巡り終わると、

「城塞を無視して侵攻するという手段もありますよ。城塞は、周囲を…そうだ、野戦陣地を構築して取り囲めば無力化できますわ。他に幹線道路がないとはいえ…、道なきところに道を作って…、どこにだって、間道、林道、等幹線道路以外の道もありますわ。それを核にして…。」

と言うようになっていた。

“うん、うん。偉いよ。”

 それでも、

「もうちょっと…白パンにしてくれませんか?」

「この地は、小麦が産しないから、大麦とかライ麦で、かつ黒パン類で…それに全粒粉パンの方が栄養があるんだよ。」

「はー?何よ、それ?それなら、もっと味を、よくしてちょうだい!」

「調理人達も努力…君のところの調理人達…。分かったよ、君も協力しろ!」

「は?わ、分かったわよ!」

とテーブルを挟んで言い争っているラミエルとラグエラを見ながら、

「相変わらずですね。大公ご夫妻様は。」

「あれで、奥様は夜は…。」

と笑われるようになっていた、家臣達から。

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