第12話 新婚旅行・・・富国強兵

 セーレ大公家は、王国内に飛び地の形でいくつも領地を持っている。それだけなら、貴族にとってはそれほど不思議なことではない。しかし、セーレ大公家領は、全てが城塞都市を中心としている。それとて、大貴族の領地は領主の居城や館が、領地のあるいは地域の中心であることが多いことと同様に思える。しかし、セーレ家の領地はそれらと比べるとかなり大きく、全て国王から与えられた、しかも、半独立的な領地であり、本格的な戦うための城塞、城塞都市なのである。ただ、そのいくつもある飛び地の領地を含めても、大公家としては三番目であり、半独立的とは言え、国から派遣された軍人、文官が重要な地位についている。

 二人の最初の新婚旅行?先は、王都から南方の内陸にあるセーレ家の領地だった。

 王都に向かう大河の河川港がある港湾都市の後背を守る場所に位置している。実際、陸地から、王都への物流などに重要な港湾都市を陸地側から護ることを目的としている。河川港には、守備兵も送っている。

 マジノ。この地の名前であり、彼の城塞都市はマジノ城と呼ばれている。星型の要塞を中心にしている。

 都市に入る前から、村々を過ぎるだけで、人々の歓呼の声と振る手の波。入ると熱狂的な歓呼、振る手の波、それ以上に感じる熱狂。

 ペリアル大公を振って、セーレ大公家に嫁入りした公爵令嬢ということが、その最大の理由だった。それに臆することなく、堅い、気品を崩さない笑顔で、手を振る姿は結構、様になっているとラミエルはラグエラを“上手くやってくれている。”と満足そうに眺めていた。城塞の指揮官から、行政官、軍の幹部、議会代表、有力市民達が挨拶に訪れる。それに、ラグエラはラミエルと共にそつなく対応し、城塞司令官自らの案内で、城塞から市内見学まで、着いて休む間もなく、付き合わされることになった。殺伐としたものを想像していたが、都市の中は自然も庭園も至所にあった。市場も活気があり、物資も豊富で、王都とは比べようはないが、洗練された地方の都市を感じた。自分の実家の領地内と比べても遜色はない、とラグエラは感じた。

 その感想をラミエルに言うと、

「我が家は、上から下まで、全ての点で、王国の精鋭、先頭に立つべく考えているからね。」

とニヤリとして答えた。

「だけど、サロンだって、やはり洗練さに欠けるし…、まだまだなところも多い。領地経営も、領民の生活を向上させながら、軍事力の増強ができるようにしなければならない。それには、君の助力が必要なんだよ。」

「でも、妻は政治に口出ししてはいけないんでしょ?」

 わざと彼女は不機嫌そうに言った。“言ってやるわよ!さあさあ、なんて答える、言って見なさいよ!”

「それは国政の話しだ。私的な領地のことは違う。公爵家の領地経営と同じさ。それに、君は僕と二人三脚で、軍の統率も、領地経営もしていくことが期待されているんだ、我が領内ではね。」

“こいつには、ちょうどいいかも…そうあって欲しいけど…。”

 次の日から、さらにだされたチラシというか三流新聞というかに載った、2人のいちゃいちゃの記述で、

「こ、これはなんですの?こんなことしてませんわ!事実ならともかく、やってもいないことを、全く、あなたの家臣達ときたら…、書き立てられるなんて我慢できませんわ。今晩…こんな恥ずかしいことをしなければならなくなりましたわ!」

「ああ、分かったよ。事実にしなければ…ね。」

「う・・・、それは・・・。わかりましたわよ。」

 血の臭いから来る性欲も相まって、また、目の下に隈を作りながら、領内視察というか、新婚旅行に出た、2人だった。

“おー、俺のカラクリ儀右衛門!”

「どうだ、新規工夫の水車や風車の具合は?」

「ようやく当初の見積りの能力に達しました。二番目、三番目の設置予定場所の地形の確認、設置の計画を立てているところです。」

「この砦の改修や野戦陣地の、いざという時の設置、建設の構想も、河川港の防備と建設方法も進んでいるか?」

「もちろんです。報告はまとめております。」

「そうか。それは、早急に読んでおこう。」

 ラミエルが、中背の、まさに技術者という感じの男と話している脇で、ラグエラは田園の中に動いている、その存在感を放っている、見慣れない形の水車と風車に目を奪われていた。

“へ~。あのタイプを実用化できていたの?あの時はまだ、実物がなかったから、見送りになったけど…。実家の領地にも、導入してもらおうかしら?”もう既に、実家という言葉を使っている自分にも驚いた。“もう…しかたがないわよね。あれから、まだ五日しか立ってないのよね。1週間前には、こんなことになるとは思ってもいなかった、ここにいるなんて想像もしなかった…。”感慨深いものを感じると共に、“流されて…。何とか主導権を奪ってやりますわ!見てらっしゃい!”と心にきするものがあるラグエラだったが…。

 良く耕された…一面に広大な畑とか、牧場という、自分の実家のそれとは異なる農村風景。わりと小規模に、それでいて、よく手入れがされているという感じの田畑や牧場、林が続いている。風車も水車も、用水路もそれに適合したタイプのもののように思われた。

“でも…。”と彼女が思ったのは、肝心の砦や守備の任せられている河川港の砲台周辺が意外に手薄なことだった、少なくとも彼女には見えた。

「これで、あなたは、あなた方は、わが国の近衛を自認できるのかしら?」

 彼女は、単に心配、疑問を質問しようと思っただけなのだが、こういう言い方になるのだ。

“こういうところは、悪役令嬢だよ、ラグエラちゃん。まあ、よく気がついたのは褒めてあげるけど。まあ、まずは褒めようかな?”

「よく気がついた!さすがは我妻であり、セーレ大公夫人だよ。」

と大げさに言って、身振りもつけて、それから、試すような、悪戯でもするような顔で、そうなっているつもりだった、ラミエルは、

「我々も分かっているんだ。でも、どうしてこうなっているんだと思う?準備しているんだが、どういうことか、わかるかな?」

 ちなみに、セーレ大公家の面々、前大公と全大公妃、つまり彼の両親である、さらに彼の弟、妹もベリアル大公を振って、やってきた嫁だと大喜びだった。



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