第11話 第二幕か、第一幕の終わりか②

「ラグエラ様。迎えに参りました。ベリアル大公殿下のところに。殿下もお待ちしております。」

 いつの間にか、馬車の中の対面の席にぺリアル大公の副官の女、ハラリエル・アムドゥこと熊女が座って、落ち着いた表情で手を差し伸べていた。

「ご心配なく、かの誘拐犯の主犯はもうすぐ誅殺されるでしょう、正義のため立ち上がった有志達によって。」

 その手を叩いたのは、ラミエルのラグエラ付きの侍女だった。彼女は懐剣を抜いて身構えて、主の隣の席に座っていた。

「無礼な熊女!下郎の分際で。」

 それに続いて、

「我が家の兵士を、大公様を、我ら大公家の侍女を侮るな、熊娘!」

 熊女の隣の席に躍り込んだ侍女が懐剣で、彼女を切りつけようとしたが、その剣は熊女の隣に座る黒装束の女の短剣が受け止めた。

 そのままもみ合いになって、二人とも血が流れた。

 ラグエラの反対側の隣には、ラミエルの侍女がやはり懐剣を構えていた。先頭の部分では、もみ合いの振動が響いていた。侵入者と彼女付きの侍女が戦っているのだ。どちらかとはわからなかったが、断末魔のうめき声と苦しそうなうめき声が聞こえてきた。

「ラグエラ様には、我が主が相応しいのです。」

 これに対して、懐剣を握りしめたラグエラは、

「ぺリアル大公閣下は、私に一目ぼれなされたの?」

と一言、冷たい口調で言い放った。わなわなと唇を震わせて、人を魅惑する弁舌がその女の口から出てこなかった、肯定する言葉が。“こ、この女、尻軽女~!どこまで増長して!”

 ラグエラの表情は、冷たいものになった。“ふん。私が欲しいわけではないわけね、ラミエルの言ったように。”


「ラグエラ!大丈夫か?」

と馬車のドアを開けたのは、ラミエルだった。さすがにアムドゥの姿を見て、唖然とした。彼女は、ニッコリ、冷たく微笑み、

「ラグエラ様を、お連れいたしますので、馬車を王都に戻していただけませんか?ラグエラ様のご意志でもあります。」

と平然と言い抜けた。

「そんなことは、ラ…奥さまは言っておられません。何を出鱈目を!」

 ラミエルの侍女がすかさず反論した。


 王都から出てしばらくして、周囲から黒装束の一団が襲いかかってきた。その数約50人。突然、霞のようなものが視界を遮った。そこから、襲い掛かかってきたのだ。そのあまりの見事な統率された動きから、ペリアル大公家の精鋭中の特殊部隊、“花園の警備団”だと判断できた。ラミエルと彼の護衛も飛び出し、周囲の護衛隊と共に迎えうった。馬車内のラグエラの護衛は、侍女達に任せた。予想通りの場所、方法での襲撃だった。ラミエル他三十数人は、予定どおりの陣形を取って迎え撃った。彼らの大半は、セーレ大公家精鋭中の精鋭達だったから、霞以外の術を操る一団に混乱することなく、迎え撃った。後方、前方からも援軍が、事前に配置していた、駆け付けるのが見えた。

「ペリアル大公家の兵士多数は、全員始末した。」

“ここで暴れられたら、不味いな。侍女達の手当を…、重傷者もいる。早く手当を…。”

 即、短銃を抜いて、アムドゥの額に向かって引き金を引いた。咄嗟に彼女を守ろうとした黒装束の女は、やはり咄嗟に飛びついた侍女により、一緒に馬車の外に落ちた。血が、馬車の中で飛び散った。

「やはりな。」

 即死した女の顔から、薄い皮が剥がれ、別人の顔が現れた。さらによく調べたら男だった。

「行くぞ!油断をするな!」

 負傷者の応急手当をして、彼らに肩等を貸しながら、ペリアル大公側の兵士達の死体を収容して、ラミエルの一行は出発した。


「陛下、申しわけありません。」

 アムドゥは、土下座をして、作戦の失敗を報告した。彼により、重い処分を受ける覚悟だった。

「お前が行けば成功しただろう。お前を止めたのは、私だ、私の判断ミスだ。お前に責任はない。」

と今度のことは不問に付すと言ったので、アムドゥは感激の涙を流した。豪華な椅子に座る大公は、続けて、

「今回のことを、私の仕業だと、あやつは訴えるか、喧伝するだろうから、それを否定して、奴の謀反心を伝えるようにしなければならないが…。」

“どうだ?”という顔で彼女を見た。彼女は顔を上げて、涙を、鼻水も拭くこともなく、

「その点については、既に。かの尻軽女の所業については、少しだけ遅れて、王国内に流れるように。」

 彼女は、冷静な調子で言った。

「うん。よい、後は任せる。」

 2人が、王太子ミカエルとアナフィエラへの復讐のために手を組んだこと、謀反を計画していると伝える内容である。ラグエラを、逆の意味で利用することに転換した。

「我々は、正当防衛はしなければならないからな。」

“無理矢理、陛下を謀反人呼ばわりする、呼ばわりしたミカエル、ラミエルとそれと手を組んだ尻軽女ラグエラの陰謀を打破して、陛下に国王の座を!。”

 アムドゥは、心の底から思っていた。

“賽を投げることになったか。先祖からの悲願を叶えるきっかけにはなったか。ラグエラ嬢…。”ペリアル大公は、彼女の姿を思い出し、頭の中で衣服を、はぎ取った彼女を裸体にして鑑賞して・・・を思い浮かべて、少しだけ残念に思った。“あの青二才が…。”と同時にいまいましく感じた。

“さらに、民を豊かにして、国を豊かにし、軍事力を増強しなければ…。民の笑顔を守って、謀反の軍を打ち破るために!”


 数日後、流れてきたチラシを、ラミエルから受け取ったラグエラは、さすがに激怒していた。


「な、なに~、あの熊女~。あろうことか、私をつかまえて~!」 

 私は、私のこと、もとい、私達のことを、こんなひどい…こんなことも、あんなことも、していません。くっそー。ペリアル大公もろとも、叩き潰してくれるー。え、この話しでたいして広がっていない。まさか、また?見せてちょうだい、…。ま、まあ、嘘はないかあ…。で、でも、恥ずかしいったらないわよ。ところで、また…こんな恥ずかしいこと…やってないし、やってもらってない…でも、今夜やってあげようかしら?喜ぶかしら?一矢報いたいし…。これ、やってもらおうかな…、ちょっと好奇心よ、もちろん。


 ラグエラや侍女達が、彼女付きのラミエルの侍女だけでなく、ペリアル大公打倒に盛り上がっていることを感じたラミエルは、

「次は、二人三脚で富国強兵だ。」

と呟いていた。

 

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