第10話 第二幕か、第一幕の終わりか?

 翌日、俺たち二人は早々に新婚旅行に出かけることになった。唐突に俺が言い出したことと新婚旅行先で、ラグエラは大いに怒って、詰め寄ってきた。本当に怖い、かつ美しい顔、悪役令嬢だな、こいつ、正真正銘の。それがどうして、聖女、賢女、慈母のような妻、大公妃になって、国中から慕われることになるのだろうか?新婚旅行先は、王国内、ニベルヘルム内に点在するセーレ大公領を回ることが主だった、二か所だけ近隣国にも行くが、風光明媚な有名な地はどこにもない、いや、我が領地も結構風光明媚な地はある、無名だが。

「ベリアル大公を振ったセーレ大公妃の全領民へのお披露目と富民富国強兵を君と考えるためさ。」

 これで彼女は黙って、同意してくれた。意味がわかったのだ、一応、頭は良いのだ、彼女は。

 ミカエル様には、出発前に挨拶に行った。昨日は、殿下にはゆっくり話す機会がなかったから、殿下は言いたいこと、聞きたいことがいっぱいあって、言葉が渋滞状態になってしまった。殿下にも、今まで俺が言ったことを信じてもらわなければならない。同じことを、あらためて説明するように、辻褄が合うように所々繕ってだが、言った。

「ペリアル大公は、本当に謀反を?」

とミカエル様は、複雑だけど心配そうに尋ねた。

 う~ん、実は、俺の行動で誘発させてしまったのでは、と心配にはなってもいるんだ。あ~、そのすがるような目は、止めてくれ~。とは言え、俺ももう後戻りは出来ないしね。

 そうだ、事実関係は、はっきりさせておかないといけないな。

「しかし、突然のことで驚きましたよ、婚約破棄などとは。本当に、正直驚きましましたよ。」

と文句をミカエル様に言ってやった。これは半ば事実だ。俺は知ってはいたが、ミカエル様からは何一つとして聞いていなかったのだから。

「わ、悪かったよ。本当に悪かったと思っているよ。」

 純情な彼に、敢えて、もう一押し、ごめんね。

「あの夢でのお告げが無かったら、彼女をペリアル大公にとられていましたよ。そう考えると今更ながら、怖くなりますよ。」

「ああ、あの話だね。」

 ドン達を通じて話をしてある。

「私のことをそこまで…。女の身としては、嬉しゅうございます。でも、それなら、よく、咄嗟に…。」

 さすがに、婚約者として俺と親しかったことはあるな。

「もちろん、あの時は頭が真白になりかけましたよ。」

 嘘ですけど。

「ラグエラが、私と関係がなくなるということが直ぐに頭に浮かんで…後はもう必死でした。」

 これはかなり嘘。とにかく、ミカエル様と示し合わせてのことではない、という事実ははっきりさせておかないと、特に傍らにいるラグエラには。

「す、すまない…。」

「申し訳ありません、お義姉様…。」

とラグエラの報告を見て、震える2人。う~ん、この美しいけど怖い顔、やっぱり悪役令嬢だね、お前は。

「もう、よろしいですわ。私は、ラミエルと、もう相思相愛、夜も…。」

とまで言ってしまってから真っ赤。こんなところは、可愛いね。そして、目が点の2人。

 昨晩は、戦いでは退却があり、2人だけでという事態もあるから、常に体を洗い流しあって…などと理屈をつけて、混浴に持ち込んだ。日本的要素を加えて改修した浴室に、恥ずかしながらも、彼女は大歓迎。2人で洗いながら、あらためて、彼女のナイスバディで目の保養。寝室では、

「あ、あの恥ずかしい文書を、事実にした方がまだ我慢できますわ!だ、だ、だから…、その…。」

と真っ赤になって恥ずかしそうにして、願ったり叶ったりのおねだりで…また、2人とも寝不足になるほど…、目の下のクマもまたできてしまい、新婚旅行?の馬車の中で爆睡しかねない状況なのだ。

 見せつけるように、ラグエラは殊更、体を密着させてきた。彼女が、妻が望むならと…、バカップルだな、これじゃ。でも、この方がいいだろう。彼女はミカエル様に意趣返しが少しでもできればいいと思っているのだ。俺も、アナフィエラをミカエル様が抱いた…かな!…と思うと嫉妬心を感じるから、殊更、ラグエラとのラブイチャを見せつけたいのは変わらない。その夫婦漫才を見ながら、目が点のままの2人だけど、さすがに、

「熱すぎて、火事が起きそうだね?」

「本当に愛されておいでなのですね、お幸せそうで、羨ましいですわ、義姉様。」

と言うことができた。2人とも、ホッとしている感じだし、邪気は、感じなかった。

「私達は、殿下の、国の近衛ですから。」

と強調。

「アナフィエラ。義姉としてお願いしますわ。お祖父さまの男爵家からのセーレ大公家への財政援助の約束は私達が取り替わっても実行されるように、お願いしますわ。」

「え?」

 アナフィエラが、点になっている目をさらに点にしたのは、ラグエラが自分自身を姉と言ったことと、彼女を名前で呼んだこと、そして、命令ではなく、お願いをしたことだった。

 直ぐに、明るい顔になって、

「お、お義姉様!もちろんですわ!お祖父様にはお願いしますわ…いいえ、納得させます、絶対にさせます。」

 感激のあまり、嬉しさのあまり、ラグエラの手を握りしめた。純情ないい娘なんだよな。ミカエル様に、本当に似つかわしい…けど惜しい…気取られていないだろうな?ラグエラは、義妹の思ってもいなかった反応に目が点状態、助かった…。わかったかい?悪役令嬢様?慕われていることがわかると弱いんだよね、単純というか、純情というか、自分の物には面倒見がよくなるというか、そんなところがあるからね。まあ、これで二人の関係が改善されれば、男爵家からの財政援助が確保されれば、巨額な額は求めないし、赤字の貧乏大公なんかではないけど、色々と金はあった方がいい、腐らないし、使い道は、予定はいっぱいあることだし・・・。その意味では、ラグエラ、グッジョブだよ。

 その後、国王陛下、ファーラ大公家、デカラビア公爵家への挨拶を終え、屋敷に戻るとその足で、新婚旅行に出発した。

「あいつらは、途中襲撃してくるか?」

と尋ねると、小柄な美青年のララウクス、俺の義経、は、

「多分。これが最後の機会ですから。」

という答えが返ってきた。

「準備万端、迎え撃てるか?」

「はい。殲滅して見せましょう。」

 イケメンの彼は、残忍な表情を浮かべていた。

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