第9「あの尻軽女!」「あの熊女!」
「クソ!あの青二才の軟弱セーレ家の馬鹿者が!」
ペリアル大公は、そそくさに王宮を去り、乗っていた馬車の中で、ついに我慢ができなくなり、怒鳴った。
「申し訳ありません。私が…。」
と項垂れるばかりの彼の副官に気がついた彼は、
「いや、あの突然の事態の中で、お前の取った策は全て正しく、完璧だった。ただ、奴らが1枚上手だっただけだ…いや、あいつらがお前よりなどとはないはずだし…。やはり…王太子と示し合わせていた…か?」
「そうとしか思えません。」
そう言ったのは、男の家臣だった。大公をはじめ、皆が頷いた。
「あの男には、できすぎたことばかりです。最初から、ミカエル王子達と示し合わせて、ラグエラ公爵令嬢を拉致したとしか思えません。」
“ペリアル大公陛下が、公爵家と2大公側家と提携して、陛下が国を改革する核になったのに…。あの馬鹿大公めが。その主を諭しもせず、誅しない家臣ども…。誰しもが分かることが…あの尻軽女の馬鹿野郎が!”美しき顔は無表情だったが、心の中で悪態をつきまくっていた。
「誰もが、笑顔になれる国を作ることしか、考えていないのだが。」
ため息をつく主を見て、彼女を含めた家臣達は皆、“陛下こそ、国王になり、国を、国民を救うお方だ!”と確信していた。
「まあまあ、ここで騒いでも、みっともないわよ。」
と言って、自分の侍女を窘めたラグエラだったが、彼女らの、
「あの北の田舎者が、お嬢様を侮辱して…。」
「蛮人のブス女が。」
「北の熊女!絶対に許せませんわ!」
と意気込む、侍女達に同感だった、彼女も完全に。
あの後、素早く、彼女の実家、彼女の母親の実家にラミエルとともに訪れ、結婚の報告をした。その際、彼女の侍女達は、ペリアル大公の家臣が、ラグエラを罵ったと主に報告しただけではなく、屋敷中に広めまくった。
両家の屋敷では、
「な、なんですって…いまいましい熊女が!」
「あれが、あの熊女?」
「なんと…あんなことをいけしゃしゃあと…あの熊女!」
「本当に、田舎者の熊女ですわね!」
「ペリアル大公も…あんな女を…見下げ果てましたわ!」
との言葉が、充満した。
ペリアル大公の副官という女が、両家にやって来たのである。目的は、大公とラグエラとの結婚の申し入れであった。
彼は?彼女は、彼女とラミエルとの結婚を認めていなかった。ミカエル王子の卑劣な婚約破棄に傷ついたラグエラを助けたい、慰めたいということだった。謹慎を国王から、命じられたのはラミエルだけである、あるいは彼と存在していない彼の妻である、ラミエルは嫌がるラグエラを拉致した罪で謹慎させられたのだと言い立てた。彼女の弁舌は、聞く者を魅惑するものだった、その場に居合わせ全てを見聞きしている者でさえ。しかし、結局、目的を達することができなかった。すでに、ラミエルからの使者が、昨晩にも、早朝にも、来ていたからである、彼女に負けぬ、形は違ったが、聞く者の耳を魅惑させるものだった、姿は貧相なハムスターだったが。しかも、ラミエルとラグエラが既に報告に来た後だった。
「あんのー熊女!」
後から聞いて、ラグエラも苦々しく口にした。
もちろん、彼女が、熊に似ていた訳ではないが、北方=熊の印象から、そういう罵りになったのである。
“でも、ラミエルの読み通り…。恐ろしい…そんな印象ではなかったのに…。”
“なら、ペリアル大公は反乱を起こす?…うーん、でも、ミカエル王太子非難を敢えてしているわけだし、ここまで私にこだわるのは、奴…いえいえ、もとい、だんな様が考えている通りかも、やはり…。それに、引き返すことができなくなっているという感じもするし…、そもそも、あの家は…。お祖父さまには、お祖父さまは私を溺愛してくれているし、それとなく言っておこうかしら。あの熊女を、徹底的に、私を罵ったことを後悔させてやるわ、時間をい~ぱいかけて!でも、ラミエルのだした文章…何よ、あの恥ずかしい…とっちめてやらないと…あんなこともこんなこともされていないのに…これとこれはされたわね、気持ちよかった…てか違う、は、恥ずかしいじゃない!あんなこと…、でも、今晩してもらおうかしら?な、何考えているのよ、私?これからのことを考える時でしょう?え、何私を呼んで?ああ、私の荷物が次々ついているのね。どこに置くかはまかすわよ…、分かったわ。いま、行きますよ!”
彼女は、侍女達の所に行くことになった。
さらに、そこにはセーレ大公家の侍女達が待ち構えていて、彼女のための外行きの衣服の寸法取りやら、似合う色などをかしましく議論し始めた。これに彼女付の侍女達が、
「公爵家では、そのような物は着来ません!」
「我が大公家、武門の、近衛の嫁として恥ずかしくない物を着ていただきます!」
「武門というならファーレ大公家の伝統に則っていますわ!」
彼女達は、母の代から、あるいは彼女のため、母の実家から来た者達であるから、彼女らの言う公爵家のと言うのは、彼女の母の実家のそれに近い、彼女達は公爵家で多少は譲歩したが、彼女達のもともとの主の家の家風を守ってきたのだ。睨み合う両者に、
「嫁として、だんな様の方針に従いますわ。でも、だんな様と私が相談して決めます!」
と言って止めさせるしかなかった。ちなみに、彼女も多少の譲歩しかするつもりはなかったが。
"ああ、でも、このセンスのない服は?実用本位?少しはエレガントさ、とか必要じゃない?まあ、分かってくれているようね。屋敷の中も、寝室でさえ、センスのなさすぎ。わかっているわよ、武門の家でしょう、近衛の家でしょう、戦をいつでもできることが必要なんでしょう?私だって、ぺリアル大公に・・・あの熊女を裸に引っぺがして、凌辱して、殺してくださいと泣きつくすまでしてやりたいんだから・・・。士気高揚や宣伝効果のために必要よ。これもわかっているようね。戦いは始まっているのよね。やってやるわよ。"
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