第8話 結婚報告の場、なんだよ!

「あのお義姉様が…。」

「ラミエルとラグエラが、そんなに…。」

 ミカエル王太子とアナフェリアは、ラミエルと共通のミカエルの友人、悪友ドラ伯爵達の話を、ポカーンと口を開けて聞いていた。

「もう、王都中の噂ですよ。」

"まあ、誰がまき散らしているのかは・・・。"“こんなことまでやったのか、あいつら?私も、彼女に…そのほうが…。”“まあ、お義姉様ったら羨ましい…じゃなくてハシタナイ…で、でも、いいかも…。ミカエル様が望むなら…。”

「まあ、こちらもまきちらされていますが。」

 ぺリアル大公の側からまき散らされた紙片をみせた。今度は青ざめるやら、真っ赤になって怒ったり、忙しい二人だった。それをにやにやしてみていたドラ達だったが、

「こちらはあまり拡がっていないようですよ。そっちの影響で。」

 少しほっとした顔をした二人だったが、ドアが乱暴に開けられた。アンだった。三人の視線が集中した。

「ぺリアル大公がおいでになりました。国王陛下に拝謁を要請されている。」

"何をしているだ、ラミエルは?あいつ何か考えがあるのか?"


 ラミエルがラグエラとともに、王宮を訪れたのは、ペリアル大公が、国王に、昨日の非礼な態度への懲罰を訴えに参上してから1時間以上後になってからだった。懲罰を厳しく要求したのは、直接は、彼の女副官で、彼は鷹揚な笑いを浮かべているだけだった、いかにも自分は求めていないが、家臣達の気が収まらないのだ、筋はとおさないといけないから、という風に。

 先手を取っているという気分だった、主従とも。

「あの青二才や弱兵どもをぐうの音も出ないくらいにしてやる。」

「悲劇の姫様を救い出しましょう。」

「あの嬢さんは、陛下にこそふさわしいのよ。」

と兵にいたるまで、意気軒高だった。

 その勢いが王宮全体でも感じられるくらいになっている中、セーレ大公家若き当主ラミエルは王宮に現れた。正確には、ラミエルとその妻然として腕を組むラグエラが、目の下にクマを作ってやってきたのである。官僚、貴族、聖職者、軍人達はそれに驚き、包まれていた熱気が吹き飛ばされてしまった、皆の好奇心などから。

「あ、あの公爵令嬢があんなに、甘えて?」

「凄かったようですよ、昨晩は。大公は一晩中…。」

「あら、それはご令嬢の方だと聞きましたわ、私は。」

「もう、結婚の祝福受けたようですし、あれでは…。」

「とにかく、余程激しく…。もう、勝負あったというところではありませんかしら?」

「ここは、祝福するのが、男気というところでは?」


「今日は、どういう要件での来たのか、セーレ大公?」

 玉座に座る国王は、跪く、セーレ大公ことラミエルと彼に寄り添うラグエラに声をかけた。ざわめきもなくなり、大広間、謁見の間は静まりかえった。その中で、ラミエルは、自分達二人は互いの愛情に気づき、その思いを止められず、昨晩結婚してしまったことを淡々と説明、その報告に参上した旨言上した。それが終わるや否や、一人のペリアル大公の男性士官礼服を着た若い女が、ハラリエル・アムドゥ、が飛び出し、二人の近くに跪いた。

「国王陛下。お恐れながら申し上げます。」

とぶち上げてきた。

 それは王太子ミカエルが、婚約者のラグエラ公爵令嬢を、非道にも、理由もなく婚約破棄し、ミカエルを国王の前で罵倒するのにも近いが、大公の正当性のを示すためには、どうしても必要だったのだ、傷心の彼女を救ったペリアル大公のもとから、彼女を強引に、彼女の意志を無視して連れ出し、王都で兵を動かし、

「あろうことか、ペリアル大公陛下に謀反の心ありと雑言いたしました。ラグエラ公爵令嬢を大公閣下のもとにお戻りになりたいとのご意志どおりにし、セーレ大公閣下には処罰を求めるものです。」

さらに、

「ラグエラ様。お気持ちは、女の私がよく分かっております。さあ!」

と彼女の方を向いて、手を差し伸べた。するとすかさず、ラグエラの後ろにかしづいていた侍女達が前に出て、

「下がれ。下郎。」

「奥様に近付くな。」

「ラグエラ様は、今やセーレ大公夫人であるぞ。」

にらみ合う両者。

 ざわめきが起こり、また、消えると、ペリアル大公が一歩前に出て、

「わが家臣の言葉に理があるのは、必定。ついては、ラグエラ公爵令嬢を、私に引き取らせていただけませんかな?私は、ことを荒げたくはありませんから。」

と言って、深々と頭を下げた。これで、その他のことは不問にきそう、という意味が含まれていることがはっきり分かった。

 また、沈み込む中、国王は、

「どうだ、セーレ大公夫人、ラグエラ?」

と声をかけた。

 彼女は頭を上げ、

「私は、婚約者であるミカエル様を愛しておりました。でも、義妹の婚約者であるラミエル様が我が義弟になることを嬉しく思っておりました。それが、本当は愛であることに気づきました。何と、ラミエル様も同様であることが分かり、もう止まらなくなり、結婚してしまったのです。女の気持ちですか?私は、そこにいる女の気持ちなどわかりせんが。」

と凛とした声で、所々惚気るような、甘えるような調子を交えて、答えた。最後は弄ぶような調子で、チラッと見る視線もそうだった。

“おーお~、いたぶっている~。それを喜んで…こんな所はSだな。”

「陛下。ラグエラ公爵令嬢の本心がお分かりになりませんか?」

 ニッコリほくそ笑むペリアル大公。彼には自信があった。

「昨晩は、どうだった、結婚した後は?色々と噂になっているようだが?」

 国王は、意外な質問をした。

「そ、それは…彼女はとても素晴らしく…その…つい…。」

「女の喜びを…ついついはしたないとは思いつつ…。」

 恥ずかしがる新婚夫婦のそれを、二人は演じ始めた。忍び笑いまで出る中、

「分かった。セーレ大公夫妻への処罰を告ぐ。しばらくの間、一週間は拝謁禁止だ、今日1日謹慎しておるように!」

 大広間はざわつくとともに安堵のため息と笑い声、祝福の声が漏れた。セーレ大公が、処罰された訳であるから、形の上では一方的に、ペリアル大公側にさらなる要求を上げることはできなくなり、ラミエルとラグエラの結婚を国王が認めたのである。なかなかの妙手だと、皆は納得したのだ。

「陛下。ラグエラ公爵令嬢は、捕らわれの身なのです!」

と叫ぶアムドゥは無視され、ペリアル大公が頷くのを見て、無念極まるように立ち上がり、彼に従った。その際、

「この淫乱馬鹿女!」

と捨て台詞を吐くのを忘れなかった。その彼女の背を、4人の女が、睨みつけていた。ラミエルは、罵りはするな、と目で指示していた。しかし、さらに後ろに控えていたラグエラ付きの侍女は、怒り心頭だった。ペリアル大公は、公爵家を敵に、いやファーレ大公家も敵に回してしまったのである、この時、この瞬間。彼女は、公爵家での彼女の侍女であるだけでなく、ファーレ大公家から送られてきた侍女だったからだ。

“よ~し、第1段階は成功!”


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