第7話 媚薬?嘘だよ。

 そのまま、ベッドの上で濃厚な口づけを長い間続けた。唇を離すと、唾液の橋ができたけど、息が荒くなったラグエラの服を急いで脱がし、

「きれいだよ。」

「汗臭い?君の汗の臭いは、いい匂いさ。」

なんてね、自分でも恥ずかしいセリフを連発しまくった。まあ、半分は本当、本心からだけど。全裸になって抱き合って、

「そんなところまで…。」

「そこは汚いのに…。」

とか言いながらも、主導権をとろうとする彼女と、彼女は女性としては大柄な方だったから、体をぶつけ合うように、組んずほぐれつすることになった。相手を倒すか、自分が倒されるかのような感じで…これも気持ち良かったけどね。


 初めての痛みも…もあまりないようだった。彼女、乗馬はもちろん、剣術、槍術、弓から銃砲までやっていたから…。初めは、彼女の義妹、婚約者、もう元婚約者アナフィエラに俺が、軍事貴族、国の近衛である我が家の嫁として…と言って教えていて、結構彼女、上達したので褒めてあげているのを見て面白くないと、自分もやりだして、そのうち、結構のめりこんだからね。結果として、我が家の嫁にふさわしい修業をしてくれていたわけだ。

「素晴らしいよ。こんな君を不幸にしたくないんだ!」

とかしきりに囁いた。彼女が満足そうにぐったりした時には、

「倒した。」

と満足感を味わった。その彼女に口づけすると、

「び、媚薬のせいよ。そうでなければ…。」

と睨みつけるように言ったから、

「媚薬?あれは嘘だよ。」

「え?じゃあ?それじゃあ…?」

「喘いで、激しく反応した君が素なんだよ。」

 嘘だよ~ん!さらに、秘かに塗り薬の媚薬もすりこんでいた。まあ、効果が本当にあったかどうか分からないところだけどね。


「イヤー!」

と両手で耳を塞ぎ、真っ赤になった彼女に、彼女が殺される可能性をさらに囁くと、高慢な、猛々しい猛獣のような面影は消えて、震えて、しがみつく、可愛い女に変わった。不安を囁き、いかに困ったちゃんだったかを告げると、激しく反応した。なんか、虐められるのに、快感を感じているような…。この後は、ネチっこい、絡み合うような、第二戦になって…。目が覚めると、朝日が入ってきていて、腕の上には幸せそうに、すがりつくようなラグエラがいた、この上なく可愛いい。こいつを、不幸に死なせたくない、と心から思ったね、自分が、まず死なないと言う条件でだけど。

 結局、俺達二人は、王宮に行かなければならないのに、目の下にクマがはっきりつくってしまっていた。


「大公閣下。お嬢様は初めてなのですよ。それなのに、このような…。」

と、食事の最中に言い出したのは、公爵家からあわてて駆けつけてきたラグエラの侍女頭だった。着いたのは昨晩だったが、二人が既に同室で・・・と聞いて、徹夜で、一睡もせず心配していた。ついでにドアのところで聞き耳もたてていたらしい。我が家の侍女達も同様だったようだが。

「再三、おねだりをなされたのは、ご令嬢様の方でしたわ。」

と我が家の侍女長。にらみ合う二人に、

「奥様だろう?」

「大公閣下ではなく、旦那様ですよ、私の。」

とすかさずハーモニーして窘める二人に、頭を慌てて下げる侍女達。

俺は、やった、堕としたと思った。二人とも、二度寝したいところだったし、ラグエラの侍女達が五月蝿く言ってきたが、国王陛下へのご報告が必要だと説明して何とか収まった。彼女達も、彼女の義妹に一矢でも報いたいと思っているのだ。つまり、彼女を苦々しく思っているのだ。こいつらも、上手く“教育”しておかないと。俺の家臣達の方はというと、心配してくれたが、ペリアル大公との“決戦”だと説明したら、もう心配するより闘争心が燃えさかってしまった。

「閣下。こんなものを、あちらさん出してましたよ。」

 と、小柄な家臣の一人が、チラシというか…を手渡した。直ぐに読んでみると、昨晩のことを書いたものだった。女性の鏡のような、聖女なラグエラ公爵令嬢が、突然婚約破棄され…、おいおい誰のことだよ…不当な仕打ちを受け、悲しみにくれ、孤立無援の彼女を助けるペリアル大公、まるで白馬の騎士様みたいに格好いいな、が描かれていた。そこでは、ミカエル王子が手厳しく非難されている。そうしなければ、大公の行動の正当性がないからだが、ラミエルには“やはりな。”と彼の野心を確信させるものだった。ただし、彼は、彼女を連れていけなかったから、曖昧なうちに、豚公としかいいようのない男に…俺のどこが豚だ…幽閉され、ペリアル大公はラグエラ救出にたちあがっている…で終わっている。竜頭蛇尾の面もあるが、ラグエラはペリアル大公に惹かれ、彼は本当に男の中の男、二人が結ばれるのを心から期待させる感動的な文書だった。俺ですら、そう思ってしまうくらいだった。これが流布されれば、ペリアル大公の国内での人気は、赤丸急上昇間違いなしだろう。

「これを読むと、自分が豚野郎だ、早く断罪してもらいたいと思ってしまうな、本当に。で、ところで、こちらの方はどうなんだ?」

 紙を返しながら、尋ねた。そいつは、不敵に笑った。ハムスターみたいだった。小柄で、浅黒く、色々な仕事をしてきた、俺が拾ったようなアラサー男だった。豊臣秀吉みたいな奴と思っている、俺は。

「あちらは、これを至るところに配りましたが、それだけのこと。こちらは、口コミや絵も…。こちらの笑いの渦の中で、消し去りつつありますよ。」

 彼は、何枚かの別の紙を手渡した。こちらはコミカルに、それでいて事実を漏らさず、好色な面白さが致るところにあり、ラグエラと俺の相思相愛の姿がこれでもかと描かれていた。俺、そんなことまでしたか?俺ですら、恥ずかしくなるものだった。いや、こうやった方がもっと、あいつをよがらせることができたかも・・・いやいや、そんなことを考えている場合ではないな・・・・、ラグエラを得たのはこちらである。そのことが、文書の最後での勢いに差をつけている。

「よし。でかした!」

 まずは先勝だ。

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