第6話 それは卑怯じゃない?

 ラグエラは、甘い酒を飲み干し、熱くこみ上げてくるものを感じていたが、特に気にしなかった。。


 私がぺリアル大公の妻になれば、彼は国王になれる?さすがに、本当?と思ってしまったわ。でも、ラミエルは、

「君の母上の実家、ファーレ大公家、そして自立願望をくすぶらせているアルフス大公家を味方にできる。俺、セーレ大公家を陥れ、俺を、多分一族郎党も処刑してしまうことでセーレ大公家を潰す。そうすれば、王家はかなりの守りを失う。そして、君の実家だけど、男爵家のアナフィエラと君のどちらを選ぶ?父君はともかく、一族は?領民だってそうだ。君への同情も加わって・・・。だけど、それだけだと勝算、君達の、は小さい。もう一つ大きな要素は、王家への政治への不満だよ。君との婚約破棄の理由にも関係してくるが、先々代以来王家は進歩的政策をとってきた、きわめて微温的だけどね。それでも、反発する保守的な貴族は多い。逆に、急進的な進歩派も強い不満を持っている。その相対立する勢力を、ぺリアル大公が君を拾うことで得た人気で期待させ、糾合し、味方にすることができる。そこまでできれば、他国との提携も加えて十分に勝算は確保できる。」

 う~ん、理屈にあっているか。私は勝てるのね。でも、自分が処刑される前提の推論をよくここまで・・・怖いくらい・・・こいつМかしら。私とよく言い争ったのは、それかしら・・・。え?婚約破棄の理由に関係する・・・てなに?

「王家の政策への不満が、どうして、私との婚約破棄に関係するのよ?」

 私は、詰問してやった。彼は、いかにも小馬鹿にした顔で、失礼な奴!

「わからないか?」

「わからないから聞いているんでしょうが?」

「ミカエル殿下の執政にかかわろうとしたからだよ?」

「はあ~?」

 私達は、・・・そういえばこいつも加わっていたわね・・・子供の頃、けっこう大きくなるまで、ミカエルが国王になって、それを助ける大臣等の役になって遊んだ・・・将来の勉強とも思って。その後も、政治についてミカエルと話し合ったものだわ、・・・こいつもいたわね、現在の問題や将来について。当然、ミカエルが政治をとる時は、傍らにいて書類を彼と共に目を通して、彼と半々で吟味して印を押すんだと思っていた。それが、4年前、疲れ切っていた国王陛下が政治を投げ出して、ミカエルに任せることになってから、私はミカエルが主宰する閣議に呼ばれることはなかった。業を煮やして乗り込んだことも何度かあるけれど、そのたびに女性官僚に阻止されたわ。ミカエルはというと、にこやかに私を別室に連れて、私の意見を聞いてはくれたし、私が連れてきた、孤児院の院長の窮状の陳情とかに耳を傾けてくれた。しかし、あくまでも、話を聞いてくれただけだった。私は部外者でしかなかった。ところで、あんたも閣議には呼ばれなかったけどね。

「法と制度にのっとり、議会、官僚、高等法院の同意により国王でも政治をとらねばならない。それが現在の国の制度なんだ。国王の家族は、政治に関与できない。君がミカエル殿下とともに、王の印など押せないし、閣議の一員にもなれない。公私は区別されなければならない。」

 う、私は反論できなかった。

「それが今の方向だ。だが、そのような流れに反対する勢力もある。もっと早く進めろという派もいる。それらを調整しながら政策を進めることは、どちらからも憎まれる、本当は安定を望む勢力すら非難する。ミカエル殿下は悩み、疲れていたんだ。根が純情すぎるからね。わかっているだろう?わからなかった?だから、君は慰めない。慰めてくれる君の義妹に安らぎを求め、君の義妹は、そんな彼を放っておけなくなったんだよ。」

 な、なんですって?それじゃ私は、困ったちゃんで、気の利かない、お騒がせ女じゃないの。で、でも、確かに・・・・。ちょっと何よ、顔をそんなに近づけてきて。

「ぺリアル大公の下に走って、僕を見殺しにして、二人を処刑して、王妃になるつもりの顔をしているよ。」

 なんでわかったのよ?

「なにを根拠に馬鹿なことを。そ、それにぺリアル大公様が謀反を起こされるなど、根拠もない・・・。」

 彼は、それではと私の喉元を押さえ、さらに顔を近づけて、

「彼の、あの執拗な態度をみれば、君を利用しようとしていることは一目瞭然だよ。彼が君を愛しているとでも思った?一目ぼれだとでも思った?君とは、ほとんど接したことのないあいつが。あいつね、愛人が何人もいる。あの聡明そうな副官もそうだよ。英雄、色を好むさ。ぼくは、君をあいつの何千倍も知っている、そして何万倍も愛している。あいつに、愛する君を奪われたくないし、君を失いたくない。でも、もし、あいつが君を幸せになるなら、君達を応援してあげよう。でもあり得ない、彼は事成就の暁には、君を殺す。毒殺かな?泣いて、君の遺体を抱きしめるだろうけど、心ではせいせいしたと思っているんだ。他の大公家も公爵家も自分に対抗しそうなものは排除するのが当然なんだよ。歴史を見れば一目瞭然だよね。だから、俺はどんな手段をとっても、愛する君を自分の妻にする!そして守る!」

 彼の目は、もう怖かった。私は、怖くなって震えた。その一方、本当に私をそんなに愛してくれているの、と嬉しいような、怖いような気持ちを感じた。それなのに、何故か体は熱くなっていて、何かがむず痒いように感じていた。

「どんな手段をとっても、とはなによ?なにを…なにかするつもりなの?」

 私は、何とか抵抗するように言い返した。

「媚薬がたっぷり酒の中に入っていた。いや、菓子にも、サンドイッチにも、お茶にも入っていたよ。」 

「そ、それって卑怯じゃない?卑怯者!」

 と言って、思いっきり唾をとばしてやったわ。でも、彼はそんなことは構わず、私の唇の上に自分の唇を重ねた。抵抗しようとしたが、体はそうならず、舌を絡ませられるまま、唾液を交換して、喉の中に彼の唾液を流れいれてしまった。

 そのまま抱きかかえられ、ベットに運ばれて押し倒されても、もはや抵抗することはできなかった。

 

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