第5話 どうしようかしら?

“どうしようかしら?”ラグエラは、夜食のサンドイッチを食べながら考えていた。サミエルに両手首を掴まれベッドの上に押さえ込まれて、返答を求められて、答えに窮していた時、彼の侍女が部屋に入ってきた。

「あ、せっかくのところに…。」

“い、行かないでー!”と彼女は心の中で叫んだ。

「よい。つ、妻も喉が乾いて、腹がへったところだろう。」

と言って、彼女の片手の手首を離し、右手をつかんだまま、彼女を起こし、テーブルの方に導いて、イスに座らせた。侍女は、紅茶と菓子、果物、サンドイッチ、そして、寝酒をテーブルに置くと、そそくさにでていった。チラッ、チラッと主達の方を見た、興味津々という顔で。“な、何か勘違いしていない?”


「あら、このパン…白パンではないですわね。こんな物を私に食べさせるほど、あなたの家は財政が傾いているのかしら?」

 まだ、そのサンドイッチをパクつきながら、ラグエラは毒づいた。“主導権を取り戻さないと…取り戻すのよ!”睨みつける彼女を、ラミエルは、まるで悪い子に物を教える教師のような顔で、

「国の近衛たるもの、その妻たるもの、贅沢より体のためになるもの食べるのが義務なんだよ。でも、腹が減っていたとはいえ、それをちゃんとパクつけたのは偉いよ!」

 最後は、合格点だという顔になった彼に、彼女は一層頭にきた。

「御菓子もそうなのかしら?」

とつまむ。

“あら、意外に美味しい。我が家の侍女や料理人が作るのと比べると劣るけど。”

「食事は戦力の源、菓子は士気を高める源だよ。」

と自分も菓子を口に入れ、紅茶のカップを手にしていた。

“くそー!”

「言っておきますけど、あなたがあの二人に、私を捨てた王太子殿下とあのくそ女に報復するためだから、言うとおりにしてくれ、と言ったから黙って従っていただけよ。別に、あなたのことが好きでも結婚を了解した訳ではないのよ!あの二人に、復讐できないなら、帰らせて下さいな。」

“よし、言ってやったわ。さあ、どうでる?”彼女は、彼が自分に懇願でもしてくるのではないか、そうしたら、さらにもっともっときつい言葉を投げつけてやろうかな、とわくわくしながら思っていた。彼女は、それに嗜虐的な喜びすら感じていた。


"この顔も満更でもないんだよな。"

「それで、どこにいくのですか?あいつ、ぺリアル大公の下に行きますか?彼なら、ミカエル殿下とアナフィエラ嬢への君にの復讐心を満足させてくれるだろう。そして、その前に、奴は彼は僕から君を奪った悦びを感じ、さらに、君を抱きながら俺を殺すんだ、冤罪かけて処刑させるんだ。その処刑の場で、君と寄り添って、私をあざ笑うんだ。君もあざ笑うかな?彼はどっちを喜ぶだれうか?あざ笑う方に興ざめするか、同情を少しでも向ける方に怒りを感じるか?とにかく、彼は、哀れにも処刑寸前の僕の前で、君は彼と仲睦まじい姿を見せつけるんだ。」


 ラグエラは、ラミエルが静かな声で唸るように、しかし、目には狂気の色を浮かべて語るのを黙って聞いていた。

"こいつ何を言っているの?ペルアル大公が、そんなの悪党かしら?たびたび会った事はあるけど、二三言話をしただけだし…でも、強さとか、たくましさとか、カリスマ性とか、有能だとかを感じたものだけど…彼の言うような感じはなかったわよね。彼に憧れを抱く、女生徒は私の周囲には多かったのは確かだったけど。だけど、本来、私に執着する理由はないし…。婚約破棄をされた私に同情してくれただけじゃないの?でも、それならひどい執着ぶりは…。それだけ私のことを・・・。一目ぼれだってあるわよね。大いにありえるかも?国王になれそうもない王族なんかより、彼の方がずっと上だし、ラミエルと比べても・・・。そ、それに、あの卑しい泥棒猫女を許せないわよ。ミカエル・・・だって。彼となら復讐できる。でも…。"

「ラミエル。あなたの復讐ってどういうことをするの?」

 ラミエルは、想定どうりの質問だとニヤリとして、彼女には気づかれないようにしていたが、

「俺と君が幸福にラブラブになることで、果たされるんじゃないかな?」

 真面目な顔で答えた。

"なによ、それ!ばっかじゃないの?あのくそ女に、死んだ方がいいと思うくらいに凌辱させて、槍を股間に突き刺して殺さないで、なんの復讐よ!所詮こいつは犬で、ミカエルの親友で、あの馬鹿女の元婚約者よ。ぺリアル大公となら・・・、え?でもそれは謀反?でも、いくら彼でも・・・勝つことができるのかしら?"

"その目もゾクゾクするよ。"

「ペリアル大公様が、勝てるかどうか訊きたいのかい、マイハニー?」

"私の考えていることがわかるの、こいつ?な、なに、この目は、一層狂気を感じるわよ。"ラグエラは、微かに戦慄さえ覚えた。が、顔色は変えなかった。

「まあ、まずはこれを飲もうじゃないか。」

 彼は、小瓶から2つの小さなグラスに酒を注いだ。甘い匂いが鼻をくすぐった。

「女を酔わせてどうするつもりなの?」

「酔うほどの量ではないよ。でも、酒を飲んだ上の戯言・・・、ということで許される。」

 そう言って、ラミエルは、両手でグラスを取り、片方を彼女に差し出した。

「わ、わかったわよ。」

 ラグエラは、グラスを取った。

「では、結婚の誓のか、別れのか、密約のか、どれになるかはわからないが、乾杯。」

 グラスを軽くぶつけて、彼は口に運んだ。彼が一気に飲み干すのを見て、彼女も一気に飲んだ。甘い、香りのよい、あまりアルコール度の強くない酒だった。

「あの時、あいつらの前で言ったし、さっきも言ったと思うけど、奴は君を得れば勝てるだろうね。」

 え?そうなの?それなら王妃になれるし、復讐できるじゃない?

 あ、こいつどうしようかしら?私にぞっこんだから…うーん、何とか丸め込んで~と。下手をする閉じ込められかねない…いえ、最悪殺されかねないかも?


“こいつ、復讐のために…あいつと手を組む積もりになっている顔だな。いい顔だが・・・そうはいかない・・・いかせない。・・・・おお、全て飲み干したな。”

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