第4話 だから辺境公には渡せない

 セーレ大公ラミエルの心の中


 原作では、ぺリアル大公は婚約破棄の直後のラグエラを引き取り、結婚。悪役令嬢の正体である賢女ラグエラの助けで、領地を大繁栄させ、暴政、悪政を行い、あまっさえ国王を暗殺して王位を乗っ取るミカエルとその妻に対して、討伐を決意。他の2大公家、デカラビア公爵家の大半の協力、国民の支持、を受けて、戦いに勝利。ミカエルは八つ裂きとアナフィエラは性奴隷に堕とされ数日後悲惨な死を迎えさせられ、残酷に、ラグエラは二人にざまあするわけだ。ラグエラは、新王国建国の王妃として、良妻賢母有能な王の補佐として、国を繁栄させたと後世で讃えられるということで、原作では締めくくられる。ちなみに、彼女の義妹アナフィエラの婚約者のことは原作には書かかれてはいない。後妻、実は早い時期からの愛人との間の娘で、けっして粗末に扱われていなかったわけだから、子供の頃に婚約者が決められているはずである、原作の世界観からして。原作では、3大公家しか語られないこと、王都を守る要の城塞の貴族が、ぺリアル大公の調略によりミカエルにより処刑されたことが簡単に記されていること、セーレ大公家はその城塞を任されている、から俺はミカエル王太子の婚約破棄の結果の余波で婚約者を寝取られ、その恨みを持っているということを疑われ、多分実際不愉快で引き籠っていたりしたのだろう、ぺリアル大公により謀反の心ありという情報を流され、処刑されてしまう哀れなモブなのだろう。

 前世で自分が読んだ小説に転生したということは、なんとなく幼少の頃から感じていたが、はっきり理解するようになったのは、14歳頃だった。その時から、自分の運命について考え続けてきた。その結論が、婚約破棄イベントの余波で、陰謀で殺されるモブが俺だという結論に達した。

 ではどうするか。もちろん、原作通りにおとなしくモブとして、疑心と陰謀により処刑されるモブは選択肢にはしなかった。原作とは異なる、俺から見たミカエル王子、アナフィエラ、ラグエラのこと、原作には記されない、この世界の事情を考慮した。その結論は、俺が生き残るためには、打倒ぺリアル大公しかないということだった。そのための第一幕は、ラグエラを彼に絶対に渡さないことだった。


 え?彼との共闘?そもそも、セーレ大公家とペリアル大公家は、関係が悪いと云うほどではないが、いいわけではない。対抗意識がむき出しなのだ。王家の守り、盾を自認し、王家からもそれを期待されている軍事貴族と王家に跡取りがいなければ、代わって国王になるべき家柄であり、それを誇りにし、行動しているという存在とは、相容れないところがあるからだ。だから、王位を狙うなら我が家を倒してから、とセーレ大公家は主から領民に至るまで自負してペリアル大公家に向かい、それを不敬とペリアル大公家はセーレ大公家を、苦々しくは思っている。とても共闘できる関係ではないし、そうだからこそ、謀略を使って、えん罪を、絶対えん罪だ、なすりつけて、俺を王家に処刑させているのだろう。


 問題は、ラグエラだった。

 悪役令嬢?確かに、高慢で、意地悪なところもあるし、上級、いや最上級の貴族の令嬢だ。しかし、それだけのことだ。平均的な、公爵令嬢にすぎない。特別な身分の方々というと、天皇陛下と皇族の方々しかいない日本の国民としての前世を持つとはいえ、大公家の嫡男としての人生を24年歩んできたのだから、彼女のような女を妻とすることに抵抗はない。庶民感覚、庶民目線というものは、俺にはない訳ではないがと、それにこだわる必要などはない。

 それに、ラグエラは美人である。家族や侍女以外では、最も親しく…うーん、ケンカの方が多かったけど、とにかく一番よく知っている仲だ。アナフィエラの婚約者として、彼女に辛く当たるラグエラを窘めようとするのは当然であるが、彼女の気持ちも分かるし、別に嫌っている訳ではない。かえって、良いところも悪いところも、よく知っているという関係だ。ミカエル王子を悩ませた問題があるが、まあ、我が家なら問題ないかもしれないし、何とかなるだろう。俺の方からは、彼女を嫁にすることに抵抗はない。一族郎党領民に至るまで、あのペリアル大公を振って?我が家の嫁になるラグエラを拍手喝采で迎えるだろう。ラグエラはどうか?わがままなところはあるし、贅沢に慣れてはいるが、どちらも貴族の令嬢として平均的、多少ましなくらいだし、侍女や領民、家臣など、自分の“もの”には愛情をもって接しているし、配慮もしている、かつ、我慢も忍耐も順応力もある。我が家も貧しい訳ではない。それに、どうも領地経営に関心がありすぎて、それが講じて、あの困ったちゃんになったようだから、我が家で役に立つ方向に持っていけると思う?


 一番の問題は、俺の妻になることを拒否、そこまで行かなくても保留、待ってくれと言いだした場合だ。その場合、ペリアル大公につけいる隙を、与えることになる。それはひどく不味い。だから、前世からの知識も加えた、口八丁手八丁、手練手管で彼女を籠絡、堕とさなければならない。

 そ、それに、馬車の中でわかった、心細そそうにすがりつくような表情の彼女の、なんと可愛らしかったこと。

「絶対に彼女を渡すものか!絶対に、手放すものか、彼女を。」

 俺は、心の中で叫んでいた。

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