第3話 君はどちらを選ぶ?

「いや~、あそこまでしつこいと、君の決めつけを信じたくなるよ。」

 あそこまで、とはペリエル大公の部下が10人以上で近寄ってきたことである。彼らは、ラミエルの護衛達や悪友達とその家臣達の数が圧倒的多数なのをみて、静に退いたが、ぎりぎりまで劣勢でもやる気満々のように感じられた。それが退いたのは、主の判断だったのだろう。武門の家柄であるラミエルの家臣達を、簡単に圧倒するのは、さすがに自分の精鋭達でも困難だと思ったためだろう。長びけば、色々面倒なことになる。

 ちなみに、ラミエルの護衛達、いや、侍女まで、来るなら最後まで闘う意欲満々だった。対抗意識が、元々強かったから、火がついていたのだ。そして、今は意気揚々だったし、主の

「ご苦労だった。見事だった。ぺリアル大公家の兵どもは怖気づいていた。流石、我が家の者達だ。しかし、まだまだ、安心できないからな。」

の言葉に、達成感と同時に更なる闘争心を燃え上がらせていた。馬車の御者役、その隣に座る兵も、主の隣に座る兵も、さらに前方に席に座る3人の侍女も、周囲を囲み騎馬で従う兵達も、いざとなれば身を捨てても、という気概に満ち満ちているのが分かった。

"おいおい、ラグエラ嬢がいる前で、そんなことを言うものではないぞ。"とドラをマリウスとアンが睨んだ。だが、ドラは気にすることもなく、

「まるで、予期していたような行動だったように思えるけど?」

 どう答えるか、迷ったラミエルは隣で、彼が肩を抱いているラグエラをチラッと見た。"か、可愛いじゃないか。悪役令嬢さん。"突然のことに理解ができずに混乱して震える彼女の顔を見て、彼はドキッとしてしまった。

「おいおい、ラグエラ嬢に見とれて、答えるのを忘れないでくれよ。」

 いたずらっぽく文句を言ったのは、ドラだった。

「いや、彼女が可愛いと思って・・・いいや、いつも美人だ、可愛いとおもっていたさ・・・え、え~と、一段と可愛いと・・・いや、普段は違うという意味ではなく、あらためて感じたというか・・・。」

 ラミエルは動転してしまって、頭も舌も回らなかった。

「はいはい。いつも美人だ、可愛いと思っていたラグエラ嬢だけど、真の気持ちに目覚めて、告白して、自分のものになって、あらためて可愛い、美人だと感動したということだろう?」

 マリウスが助け船を出してくれた。そのマリウスも、

「で?」

というドラに同調する顔になっていた。アンもだった。

 深呼吸して、

「夢のお告げがあったんだ。」

「は?」

「へ?」

「ほお・・・。」

「???」

「王太子殿下の誕生日パーティーの際に、お前の愛する者をぺリアル大公が奪おうとする、と。信じないかもしれないが、信じなければならないという気持ちに、どうしてもなって・・・。その時は、婚約者であるアナフィエラ嬢のことだとばかり思っていたんだが。」

 もちろん、真っ赤な嘘である。いろいろ説明を考えたが、荒唐無稽な方がいいと判断した結果だった。呆れたが、何とか話を途切れさせまいと、アンが、現実に戻ったという顔になっていた、

「お告げのことはともかくとして・・・。お館までの道筋に、待ち伏せをかける可能性もありますよ。それほどに、あちらが執着しているのであれば。」

と指摘すると、

「ああ、その通りだ。事前に3か所、家臣達を配している。館への急襲もあり得ると警戒態勢を敷いている。」

「おいおい、総力戦じゃないか。」

「お前は、変なところに緻密だったからな。」

「それほどまでに。」

「そ、そう、それほどまでしても、ラグエラ嬢を失いたくなかった。もちろん、当初はアナフィエラ嬢だったが、本当に愛する者がラグエラ嬢だと気づいた時、彼女を手放すくらいなら、死んでもいい思ったんだ。」

"理屈が通っていないかもしれないけど、勢いだ、勢い!"

"この人、そこまで私を・・・?でも、このままでいいのかしら?でも、このままでいったらどうなるの?何だかわからなくなって、頭の整理がつかないー!"

 ぺリアル大公は、待ち伏せのための一隊を送っていたが、待ち構えるようにしていたセーレ大公家の者達に阻まれてすごすご戻るしかなかった。

 セーレ大公家の王都の屋敷に入ると、再洗礼教会の司祭が、急ぎ半ば強引につれてこられたという風だったが、二人の結婚式のために大広間に立っていた。非礼を詫びるラミエル、多額の謝礼も受けており、日ごろセーレ大公家と親睦のある司祭は鷹揚に許し、ラミエルの悪友たちを証人にして、簡単な式が挙げられてしまった。


「すぐ死体を片付けて、細部を調べろ!ぺリアル大公の者、そうでなければ雇われた者だという証拠を見つけろ。警戒を続けてくれ、ご苦労だが。それから、例の噂を流す用意はいいか?私が恥ずかしくなるくらいのだ。できているか、頼むぞ!」

とラミエルは、次々に指示をだしていた。二人が、というよりラミエルが式が終わり、司祭を送り出して、ラグエラを連れて一室に入ろうとした時、3人の襲撃者が乱入してきたのだ。ラミエルはとっさに剣を抜いて、侍女3人が懐剣を抜いて応戦、すぐにセーレ家の警備兵が駆け付け、乱戦になったが、かなりてこずったものの、死傷者なしで3人を倒すことができた。一人は捕らえることができたが、その直後自害されてしまった。敷地への侵入者は7人。屋敷の外で4人を殺したが、3人の侵入を許してしまったのだ。その事後処理が終わって、二人きりになってから、

「大丈夫でしたか?」

とラミエルはラグエラに声をかけた。返り血が服に飛んでいた。着替えという侍女に対して、彼女の荷物が彼女の実家からまだ届いていないこと、邸内の確認が優先だと、ラミエルはそのままにしていた。あらためて、ホットした彼に、

「このどこが王太子と泥棒猫のゲス女への復讐なのよ!もう我慢できないわ!」

と怒鳴った、いきなり彼に平手打ちを頬にくらわせた。ようやく彼女本来の思考が回復したのだ。その音が室内に響いた。打たれた頬をさすることもなく、ラミエルはラグエラの両手首を握りしめ、彼女をベッドに押し倒した。

「君はどちらを選ぶ?」

 ラミエルは、ラグエラを押さえつけ見下ろして質問した。

「え、選ぶって・・・何をよ?あんたとぺリアル大公?勝手に二人のどちらかを選択なんてさせないでよ!私は、どちらのものでもありません!」

 ラグエラは、下から睨みつけた。

「違う!」

 その目、その声にラグエラは、怖いと思った。

「え?」

「奴の下で、謀反のための道具に利用され、俺を陰謀で殺し、ミカエル様と義妹を処刑して復讐を果てし、王家を滅ぼし、ぺリアル大公を新王としてから、用が済んで毒殺される未来。君を心から愛する俺とこのまま結ばれ、二人三脚で幸福な家庭をつくり、国のためぺリアル大公の謀反を鎮圧する未来のどちらを選ぶかということだ!」

「はあ?」

 ラグエラには、ラミエルのいう事が飛躍しすぎているように思えた。ラミエルはというと、"ここが勝負だ。一気に進めるぞ、強引でも。"


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