第2話 自動的に私達も婚約破棄ですね?

 全員が、その時になって、ラミエルの存在に気がついた。

“あっちも動きを止めたか。一気にやってしまわないとな。”

 彼が王太子の前で跪いたので、ラグエラも彼に合わせて跪かなけれはならなかった。

 誰もが、彼が何を言い出すのか、不安を感じながら見守って、声が出なかった。

「それでは、私の婚約も自動的に破棄されるということですね、アナフィエラ嬢?」

 彼の言葉は拍子抜けするもので失笑すらでた。

「す、すまない。」

 この時になってから気がついた、という顔。本当に、純情な2人の純愛劇なんだよな。

「申し訳ありません。」

「それでは、セーレ大公家当主、不肖ラミエルも真実の愛に目覚めましたので、ここにおられるラグエラ嬢と結婚いたします!」

“下手な役者みたいだな。”と思ったが、身振りも大袈裟につけて、夢を語る抑揚もつけた、つもりである、あくまでも。 

「へ?」

「ああ…。」

「え~と…おめでとうございます?」

「?」

 会場にいるほとんど全てが、その目が点の状態の中、小声で、

「なんだと?」

「何ということを!」

という男女主従がいた。

 しかし、ラグエラすら呆然としている中、ラミエルは構うことなく、

「私は、婚約者であるアナフィエラ嬢を心から愛しておりましたが、同時に姉君であるラグエラ嬢のことを敬愛し、彼女が私の義姉になることを心から幸せに感じておりました。そのように、今まで思っていました。ですが、今、私も、ここにいたって真実の愛に気がつきました。私は、ラグエラ嬢を愛していることに気がついたのです!」

 そして、気が動転している彼女をいきなりお姫様抱っこしてしまった。

「な、何を!」

 抗議しかけ彼女の耳元で、

「今は私に従って下さい。2人の裏切に報いるには、これしか方法がないのです。それに、私はあなたを、本当に、心から愛しているのです。」

で語られると、彼女は抗議の声が出なくなった。確かに、家族を除くと最も親しい異性の一人がラミエルであり、ラミエルにとっても同様なはずである。彼が自分のことを慕っていてもおかしくはない、と彼女はとっさに思った、変な自信だが。そのため、

「私はあなたを愛しています。結婚してくれますか?していただけるのですね!ありがとうございます!では、すぐ私の屋敷に。公爵殿、彼女の荷物は、我が屋敷に。殿下、正式なご挨拶は、後日夫婦で参ります。では。」

と言われると、つい頷いていた。

 彼は、ラグエラ嬢を抱いたまま、呆然としている人々を後に、そのまま行ってしまおうとした。が、“おうおう、出てきたな、慌てて。お邪魔虫どもが!”


「そのように無理に、ラグエラ嬢を連れて行こうとするのは、いかがなものかな。セーレ公殿。一旦、私が預かろうじゃないか。」

 四大大公家の中で第一というより、飛びぬけた領地の広さを持つと同時に、特別な地位をもつベリアル大公家当主サマエルだった。

 見事な金髪のたくましい、甘さと聡明さ頼もしさを持ち合わせた、男女ともに魅力させる顔立ちだった。ラミエルが国軍将校の礼服を着ているのに対し、彼は独特なベリアル家軍人の豪華な礼服を着ていた。

 二人の間に火花が散った。

「おや、ぺリアル大公閣下は、私に二度目の寝取られ男の屈辱を味合わせようとしておられるのですかな?」

 芝居がかった調子で、返した。

 彼は、いかにも困ったことをいうやつだという表情とポーズを取った。

“ふん。ここで、譲るものか!”

「私は彼女を愛しているのです。もう愛する者を失いたくありません。ラグエラ嬢も、私と同じ気持ちだと言ってくれましたし。」

 今度は、直立不動で様子見のように話す、ラミエル。

「それが、君の思い違い、独りよがりだと言うのだよ。さあ、彼女を離し、こちらに。」

“では、言ってやる。”

「そこまで、彼女にこだわるとは、彼女とは親しくしたことがない、閣下が。ま、まさか、彼女を利用して謀反を考えておられるのではないでしょうな?彼女の母君のお父上をも味方にできますからな。彼女は謀反のために、利用価値が大きいですからね。もし、そのような大それたことを考えておられるなら、不肖私、セーレ大公ラミエルは、愛国の信念に殉じるつもりですし、愛するラグエラ嬢を、そのような目的に引き渡すことはできませんよ。ラグエラ嬢も、同様です。」

 推論し、その結果に驚き…といったふりをした、大げさな身振りも加えて。

“よーし、言えた~!”

 ラグエラは仰天したし、他の者も驚いてしまった。

 ベリアル大公はしかし、ほとんど動じる事も無く、

「何を言うかと思えば、根拠もないたわごとを。」

と言って苦笑いを浮かべた。その続きを、しかし、ラミエルは言わせることなく、

「そうでなければ、どいていただければよろしい。これから、ラグエラ嬢とは結婚して、今後のことを語り合って、初夜を迎えねばならず、私達、私と彼女は忙しいのです。それでも、敢えて邪魔をするのであれば、御自らが私の言葉を認めていることになりますぞ!」

 今度は、一気呵成に言いつのった。

 ラグエラはというと、初夜との言葉に真っ赤になってしまっていた。"来たな!"

「閣下。殿下への無礼許せません。女の私にはわかります。ラグエラ様は、我が主に思いを寄せられていると。」

 小柄だが、覇気も、オーラもまとったベリアル大公家の軍服を着た金髪の美人将校、彼の副官のように寄り添っていた、が歩み寄って来た。もし、そのまま行こうとするのなら、覚悟があるという表情だった。

「下がりなさい。下郎が。」

「自分の分際をわきまえなさい。」

「そちらこそ無礼でしょう。」

 ラミエルの侍女三人が割って入った。思わずぺリアル大公の副官女が短剣の柄を握ると、侍女達も懐から懐剣を取り出して、何時でも鞘から抜けるように身構えた。

「我が家の侍女達を侮ってほしくはないよ。」

「・・・。」

 その時、後方から、

「ぺリアル大公閣下。人の恋路を邪魔するものではないですよ。」

と声がかかった。

"いいタイミング。グットジョブだ。"

 ベリアル大公の護衛が、五人だ、前に出ようとしたが、ラミエルの護衛が素早く前に出て、しかも、彼の三悪友が自分の護衛達を従えて後ろに立ったので、副官の女は怒りで真っ赤になっていたが、目で主に"ここは退くしかありません。"と告げた。

「このことは、国王陛下に正式に申し上げておく。」

とぺリアル大公は、そう言って背を向けた。

「私達も国王陛下には、初夜の、いえ結婚のご報告に参上いたしますので。」

とラミエルは言い放った。同時に頭を下げた。

"宣戦布告したか。しかし、どうせ近いうちに俺を葬ろうと策動するはずだしな・・・。"

「皆。行くぞ。外に待機している者達に連絡しろ。ぺリアル大公閣下は何をするかわからないからな。」

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