第52話/最終話 長くなってしまってごめんなさい。
体調が良くなり、ソファから身を起こした涼祐は改めて真唯の晴れ姿を目に焼き付ける。
「真唯さん、キレイだよ。そのドレス、君にとても似合ってる」
「......ありがとうございます」
「太一さんも見たかっただろうなぁ」
「......はい」
真唯は涼祐がくれたその言葉を噛み締めた。
「本当なら紅里も来るハズだったのにごめんね。彼女熱が出ちゃって医者で診てもらったら風邪で......。本人も君や梨乃先輩に会うの楽しみにしてただけにショックだったみたいだよ。くれぐれも謝っておいてくれって」
「気にしないで下さい。風邪なんですから仕方ないですよ」
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涼祐は一年前に海外で出会った同い年の日本人女性・紅里と結婚。現在新婚真っ只中である。ちなみに紅里には梨乃の事や彼女との間に娘がいる事全てを話してある。
聞いているうちに紅里も興味がわいたのだろう、梨乃と真唯に一度会いたいと言うようになった。それをきっかけに涼祐は挙式前のうちに日本に紅里と共に行こうと思い立つ。元々、坪倉母娘には結婚の報告はしたいとも思っていたから。
こうして母娘には事前に日本に行きますとだけ連絡した涼祐は紅里と日本に降り立ち、坪倉家を訪れた(この時すでに真唯もこちらに戻っていた)。
母娘は涼祐が女性を連れてきた事にビックリし、更に「紹介します。俺の婚約者である羽村紅里さんです」と涼祐から説明されてもう一度ビックリした。それもそうだろう。涼祐からは日本に行きますとしか聞いてなかったのだから。
こちらが梨乃と真唯だと紹介された紅里は念願叶ったというように「あ〜!!梨乃さん、真唯さん!会いたかったです!」と興奮しつつハグした。突然ハグされて母娘はまたビックリしたが、天真爛漫と底抜けに明るい紅里を見て、涼祐の相手がこの人でよかった、と安堵する事になった。
一方で、真唯がかつて涼祐を好きだった事も紅里は知っていて(涼祐からは自分が父親だと名乗らなかったせいで真唯さんが俺に恋する事態になってしまった。真唯さんには申し訳ないって気持ちが心の片隅にある、との説明を受けていた)それに関して真唯は「安心して下さい。私の中には涼祐父さんを父と慕う気持ちしかありません」とキッパリ紅里に答えた。
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そして再び真唯の控室。
「実は、俺も欠席する事を考えたんだけど、紅里のお母さんが❝大事な娘さんの結婚式に出ない父親がどこにいるの?紅里の事は私にまかせて、あなたはぜひ日本に行って。娘さんとヴァージンロードを歩くんでしょ?❞って言って送り出してくれたんだ」
「そうだったんですか。紅里さんのお母さまにも感謝しないとですね」
「紅里は紅里で真唯さんに許可をもらえたら花嫁姿を撮ってきてほしい、なんてリクエストまでしてるし」
これには真唯もクスクス笑いだして「紅里さんに喜んでもらえるかわかりませんが」と涼祐が持つスマホの前でポーズを取り始めた。
そこへ控室のドアをノックしてタキシード姿の泰雅が入ってきた。涼祐とは久々の再会なワケでパン!っと互いの手でハイタッチした。
「久しぶりだな、涼祐」
「ああ。今日からお前は真唯さんの夫になるんだ。娘の事、よろしく頼むな」
「まかせとけ」
「お前、真唯さんの晴れ姿はもう見たのか?」
「いや、まだだからもう用意すんだかなって思って来たら......済んでるじゃん!!」
真唯のドレス姿を前にアワアワしてる泰雅は「真唯ちゃん!キレイだよ!すっごくキレイだ」と泣いて喜んでいた。愛する人からの言葉に顔を赤くしつつ、真唯も「ありがとうございます。泰雅さんもカッコいいです」と返す。
改めて晴れ姿の親友と娘を眺める涼祐。真唯が一緒になる相手が泰雅でよかったと心から思った。
実は、由真も真唯の控室にやってきていた。彼女は「ふ〜ん」と言いながら真唯のドレス姿を眺めると「まあまあカワイイんじゃない?あなたにベタ惚れの水都くんも喜ぶでしょうね」と彼女らしい感想をつぶやいた。そして控室を出ていく際「一応おめでとうって言っておくわね。でも、もしも水都くんを傷つけるような事をしたら、私がいつだって彼を奪い取っちゃうから!」と告げて去っていった。
真唯はその言葉を胸に刻み
「由真さんにも誓います。泰雅さんを悲しませるような事はしないと」と改めて言葉にした。
そしてついに、泰雅と真唯の結婚式が始まった。結婚行進曲が流れると開けられた扉の向こうから現れたのは、腕を組んだ涼祐と真唯。参列者の拍手が起こる中、父娘はヴァージンロードを歩き始めた。
事前に涼祐が出した案により笑顔で映る太一のフォトスタンドを涼祐が片手で胸の前に持ち、もう片方で真唯と腕を組んで花婿である泰雅の元まで送り届けた。無事役目を果たし、梨乃の隣りに戻った涼祐は太一のフォトスタンドを彼女に手渡した。
「ありがとう、笹倉くん。太一さんも一緒に歩かせてもらって......きっと喜んでる......っ」
梨乃はこらえきれずに太一のフォトスタンドを胸の中に抱きしめながら涙をこぼした。
対する涼祐はゆっくり首をヨコに振った。
「礼を言うのは俺の方です。本当なら太一さんが真唯さんと一緒に歩くべきなのに......代わりに俺が歩かせてもらったんですから」
「何を言うの。あなたも真唯の父親に変わりはないのよ」
「......先輩」
「真唯には二人のお父さんがいるんだから」
梨乃は涼祐にそれを伝えると、神父の前に並んだ泰雅と真唯の後ろ姿を見つめ、涼祐も同じ仕草をした。
それから、神父による誓いの言葉に泰雅と真唯はそれぞれに互いを一生涯愛する事を「誓います」と神の前でこの場で皆に宣言した。指輪の交換が終わると二人は向かい合わせになり、泰雅が真唯のウェディングベールを上げ、キスを交わした。その瞬間、起こる拍手。泣き出した真唯を泰雅が優しく抱きしめる場面もあった。
ちなみに。泰雅は兄弟がいる事から坪倉家に婿入りする。そのため名前も「水都泰雅」から「坪倉泰雅」へと変わる。梨乃は「まさか高校の後輩だった水都くんが私の義理の息子になるなんてね。なんだか不思議だわ」と言っていた。
式前日、真唯は梨乃の前に正座して
「お母さん。長い間、私を育ててくれてありがとうございました」と挨拶した。更に「これからは泰雅さんと二人でお母さんへ恩返しをしていくから」と結んだ。
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翌日。真唯は泰雅と二人で空港にいた。
日本を発つ涼祐を見送るためである。
ゲート前で涼祐はスーツケースを手に「式の翌日なのに見送りに来てくれてありがとう」と二人を労い、同時に礼を言った。
「いえ。こちらこそありがとうと言いたいです。どうか紅里さんにもお大事にと伝えておいて下さい」
「伝えておく。ああ紅里といえば......昨夜、真唯さんたちの写真送ったら感激のメールが届いてた」
「喜んでもらえた......んでしょうか?」
「うん。バッチリだよ」
「風邪の方はどうなんでしょう?」
「彼女のお母さんの世話もあって熱は下がったようだよ。食欲はひき始めから変わらず旺盛だからそこは安心かな」
「よかった......」
「今度いろんなタイミングが合ったら俺たちのとこにも来てね」
「はい、ぜひ。紅里さんにも会いたいですし」
「頑張って旅費ためるからさ」
「待ってるよ」
そろそろ搭乗時間になり、涼祐はスーツケースの取っ手を握り直す。
その時、真唯は
「......お父さん!」と涼祐を呼び止める。
振り返った涼祐。真唯は言い残した事があった。
「お父さんの結婚、本当に嬉しかったです。あなたの過去をすべて話せて、それを受け入れてくれる女性が現れてくれた事が......。あなたが私の父でよかった。どうか紅里さんとお元気で......そして......私たちの事を遠い国から見守っていて下さい......!私も泰雅さんと、お父さんたちの事を思っています」
言葉にしているうちに真唯の瞳を涙が伝う。そんな彼女を泰雅が優しく肩に手を添えた。
涼祐も真唯からの言葉に思い切り手を振って応える。
「......ありがとう、真唯さん......。俺の......愛しい娘」
真唯は何度もうなずいて、それを見届けた涼祐が今度こそゲートへと入っていった。
泣き出した真唯を泰雅が抱き寄せる。
「真唯ちゃん。絶対、涼祐のところに会いに行こうね」
泰雅がそう言うと、真唯は涙を拭きながら何度もうなずいた。
私、坪倉真唯が好きになって失恋した人は......一緒にヴァージンロードを歩いてくれた実の父でした。
ーENDー
ヴァージンロード〜私が好きになった人〜 ゆうき里見 @yuki-gesiki
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