第51話
月日は経ち、四年後の秋。
快晴の中。ある結婚式場では式に参列しようと招待客が続々と集まっていた。
黒留袖姿の梨乃は来てくれた招待客から「本日はおめでとうございます」と声をかけられっぱなしだった。その度に「ありがとうございます」と返す。
一方、控室にてウエディングドレス姿の真唯の元にも彼女の晴れ姿を一目見ようと友だちが次々に訪れていた。その中には一年前に結婚した晃子や、やっと母親も許してくれたという三輪と小夜子夫妻もいた。
一方の泰雅の元にも会社のみんなが挨拶に来ており、あれだけ真唯に向かって泰雅と恋人になる姿を見たくないとか言ってた由真もいた。
というわけで、こちらの式場では泰雅と真唯の結婚式が行われるのだ。
もちろん、真唯と一緒にヴァージンロードを歩くのはもうひとりの父である涼祐......なのだが、彼はただいまこちらに向かっている最中だと梨乃に連絡があった。というのも、彼は現在海外在住。今回、結婚式のため日本に帰ってくる。ところが、飛行機が空港に降り立ったところまではスムーズだったのに、式場に向かうため乗り込んだタクシーが渋滞に巻き込まれてしまった。
大切な真唯とヴァージンロードを歩くという重大な役目。絶対に果たしたい。
まさか真唯からこんな嬉しい依頼をされるなんて夢にも思ってなかった涼祐は、真唯からこの話をされた際、嬉しくて泣いてしまった。
そんな事を思い出すと、とにかく早くたどり着きたい気持ちが強くなった。
式場でも梨乃がいまだ到着していない涼祐の心配をしていた。しかし太一の母である姑が「梨乃ちゃん大丈夫よ。大事な娘の結婚式、更にはヴァージンロードも歩く役目もあるのだから笹倉さん是が非でも到着するわよ」と励ました(姑には涼祐との事はすべて話してある)。
その声かけに梨乃は「そうですよね。ありがとうございます」と姑に言うと、式場の外に出て彼の到着を待った。
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その頃、涼祐を乗せたタクシーは渋滞の最後尾におり、前の車は全く進む気配がない。
「まいったなぁ」
お手上げという感じでつぶやくと年配の運転手が「あの......娘さん結婚なさるんですか?」と尋ねてきた。そうなんですと答えると運転手も「いやぁ、私の娘もね最近結婚したものですから他人事には思えなくてね」と涼祐に声をかけてきた理由を説明した。それがきっかけになり涼祐もいろいろ話をするまでに。
すると運転手は「そうとなればこんなとこでジッとしてはいられませんよね」と言うやいなやハンドルを握り直すと涼祐に「ちょうどタクシー最後尾ですし。私、式場までの近道を知ってるのでそっちから行きましょう」と説明した。
そこからは早かった。
タクシーは方向を変えると誰も通らない道へと入っていった。しかも昼間なのにやけに暗い印象の通り道を。
走行中、運転手が突然
「お客さまは霊感ってある方ですか?」と涼祐に尋ねたので彼はおかしな質問するなとは思ったが「......ありませんけど」と返した。
「ああよかった。実はこのあたりはね幽霊が出るって噂があるんですよ〜」
「へ?」
「でもお客さま霊感がないなら大丈夫ですよ。霊って自分がわかる人についてくるって言いますから」
「う、運転手さんは?」
「私もないですね。だからこの仕事についたんです」
運転手も霊感がないと聞いて安堵する涼祐。
「万が一、憑いても大丈夫ですよ。これから行く場所は幸せオーラでいっぱいなんですから。光のパワーで成仏しちゃいますよ〜」
運転手のこの言葉に、いい加減なのか楽観的なのか......不安に思うところなのだろうが、それが逆に心に余裕が持てたというのか、自然と笑みがこぼれた。
しかし......近道をしてくれるのはありがたいのだが、運転手が飛ばすので到着した頃には酔ってしまい、笑みを浮かべていた表情も真っ青。
外で到着を待っていた梨乃も涼祐の顔面蒼白に何があったの?と違う意味で心配になった。
理由を聞いた梨乃は涼祐を労いつつ、まだ式まで一時間はあるからと、真唯の控室に案内してソファで休むよう伝えたのだった。
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